命を盗む大怪盗4
「なんという、ことだ……」
崩れるように執務机に倒れ込んだ副団長は、助けを乞うかのように天を仰いで漏らす。
いざ自分が殺し屋に狙われるとなると、これほどの絶望が襲うものなのか。
「どうした。王家を、民を守る盾なのだろう、騎士団とは。飼い主に献身する立場で自分の命が惜しいか」
「そんなもの建前にすぎぬ。騎士団の仕事は、あらゆる方面にその威を示すことだ。そんな騎士団が自分の命を惜しがるような言動をとっていては、文字通り示しがつかん」
「くだらんな」
守護者の嘲けるような言葉に目くじらを立てる気力も腹を立てる度量も副団長には残されていなかった。思わぬ強敵に狙われ、立つ瀬もないといったところだろうか。
「それで、貴様は何をしにきたのだ」
「心配はいらんと言っただろう。俺はお前ではなく月夜の怪物に用がある。ついでに、仕事の邪魔になる小僧を一匹潰すだけ。俺にとっては造作もない」
「……つまり、味方ということか?」
「それは貴様次第だ。俺は月夜の怪物に用があるだけだからな。貴様が死のうが殺されようが関係ない」
「利害の一致……か」
そういえば、裏社会ではそれが当たり前なのだったか。慣れない考え方にそう解釈し、副団長は大袈裟にうなずいて見せる。
「ああ、貴様は月夜の怪物を引きつけることだけを考えろ。ただ、保身のための些細な小細工は見逃してやる。月が昇るまでに、出来る限り準備をすることだな」
それを確認した守護者はそう言って釘を刺し、重装備を覆う使い込まれたマントを翻す。
「勝てるのか? 一人で暗殺者共に」
「当然だ」
副団長の問いに、守護者は即答する。
絶望的な状況だが、だからこそ目の前の男が得体の知れない、そこ知れぬ恐怖心を副団長に覚えさせる。そして、それは実力を信用できることの裏返しである。
「頼んだぞ」
「……ふん」
守護者は副団長の乞うような頼みに鼻を鳴らして再びマントを翻し、重厚な手袋に包まれた分厚い掌で、差し出された無骨な両手を握った。




