嵐の後で2
独立区から一つ離れた街の賑やかな昼の市場には、たくさんの足音が響いていた。それだけではなく、通りがかった人間に物を投げ売る呼子の声。競りに参加する人々の怒号。広場の中央で説法を叫ぶ聖職者。
そんな雑多な音が交錯する混沌の中で、足音を立てずに、少しだけ離れて歩く二人。
片方は顔をしかめ、もう片方はその様に肩を竦めて苦笑している。
「昼の街って苦手なのよね」
顔をしかめた少女、もとい、ミアは不機嫌を隠そうともしなかった。
人々が往来する昼の街は、いわば表の領域である。そこに裏側の人間が紛れ込んでしまっては、違和感があるのも当たり前だろうか。
「わかります。足音が気になってしまいますよね」
「やっぱり昼じゃなくて夜ね」
「表ではなく裏、では?」
「まって、さっきのなし」
「そうですね。私たちはこの瞬間だけ、表を歩く人間なのですから」
苦笑しながらもバーテンは同意する。少し後ろを歩く少女であるところのミアはこうなったらうるさいのだ。彼女を御することができるのはそれこそ、仕事と彼女自身くらいのものだろう。ただ、それら二つが対極の位置にあることを指摘したら最後、彼女は頭髪を逆立ててナイフを抜くのだろうが。
「大体、なんでまたアンタが直接出向いてきたのよ。それこそアンタが雇ってる運び屋に運ばせればいいじゃない」
「理由は二つありますが、あなたにはすでにお見通しなのでしょう?」
お互いの方を見向きもせずに話す二人。それは、側からみる者には無関係な二人に映っただろう。洗練された殺し屋の発声術は、表の世界であっても通用する。というより、共存し得ない表と裏とを分かつためには必須だった。
バーテンが直接出向いてきた理由。それは、この世界で最も重要な信用のためだろう。まず、ミアの信用を得るため。そして、
「本当にめんどくさいわね……。どうせ、全部あたしのせいよ」
ミアによる依頼の失敗及び、従業員、もとい構成員の減少による依頼請負の困難化。そして、それに伴う裏社会からの信用の失墜。これらがバーテンの肩に重くのしかかっているであろうことは想像に難くない。にもかかわらず飄々としているのは意地からか、はたまた……。
「そうですねえ。あなたのせいで私の酒場は繁盛していました。それによってたくさんの人間が死にましたねえ。それに……」
「?」
「これからも繁盛することになります。……月夜の怪物殿は、給仕服姿が似合いそうですね」
「……は?」
その声は、不覚にも周囲の光景に溶け込むように響いて行った。
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