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短編(ざまぁとかコメディとかテンプレ外しとか)

不運な婚約者

作者: 渕澤もふこ

コメディです。(注意:健全ではありません。今回はタグを読まれるとネタバレになる危険があります)

「いい加減にしてくれ!シンシア!!お前といると碌なことにならない!早く私から離れてくれ!」


 自分の側からわたくしを退かそうとする婚約者の剣幕に、思わず夜会服を握りしめた。

 人前で感情を露にしてしまうのは貴族として失格だと思うが、わたくしが彼に恥をかかせてしまったのだ。疎まれて遠ざけられても、許してもらえるまで誠心誠意、謝罪するしかないだろう。





 今日はマルール国第一王子のミズリ殿下の十八歳のお誕生日であり、この場はシャンス公爵の娘であるわたくしとの婚約披露の夜会である。

 ミズリ様は美しい。この国では珍しい銀の髪に、深い海のような青い瞳。きりりとした端正な容姿と、鍛えられた身体を持つ美丈夫である。

 その上、王位継承権第一位なので、婚約者の選定には難航したようだ。わたくし以外にも、同じ年頃の上位貴族の娘たちが何人か婚約者候補になっていたが、気が付けば候補はわたくしだけになっていた。


 だからといって、わたくしとミズリ様が愛し合っているという訳ではない。わたくしが粗相をしたり迷惑を掛けたりして、叱責されることばかりだ。

 わたくしの容姿はそこそこ、贔屓目に見て並より少し上くらい。ミズリ様とはまったく釣り合っていない。花で例えるなら、白バラと雛菊くらいの差である。

 おそらく彼にはあまり好かれてはいないだろう。けれども、わたくしはミズリ様に好意を抱いているので、より良い夫婦関係を築きたいと思っている。

 

「今日は集まってくれて感謝する。この婚約は、皆が知っての通り王命である。そのことを充分に理解し、周知し、今後我々の助けとなってもらいたい!」


 主賓として挨拶をされたミズリ様はとても麗しく、わたくしは婚約者として、とても誇らしかった。


「シンシア、踊るぞ」


 そっけない言葉でミズリ様はわたくしに手を差し伸べ、ダンスを促す。素敵な婚約者と夜会でダンスを披露するなど、まるで物語の主人公になったみたい。とても胸がときめく。


「ミズリ様、わたくし頑張りますね!」

「ーー最低限でいい」


 王命の政略結婚だとしても、わたくしは傍にいられるだけで幸せだった。逞しい背中に手を添えて、ミズリ様のリードに身を委ねる。きらきらと輝くシャンデリアと、ミズリ様の銀の髪がわたくしの視界に眩い煌めきを与えてくれる。本当に綺麗だわ。

 目の前も、天井も、周りも全てきらきらしていて、まるで夢のよう。


「あ、」

「おい!」


 ふわりと体が浮いて、衝撃とドサリと重い音。


 やってしまった。わたくしの右足が、やってしまった。

 わざとではない、決してわざとではないのだ。ミズリ様に恥をかかせるつもりなどなかった。

 ただ、ミズリ様の背中の向こうにも、なにかキラキラした物を見た気がして、ほんの少し気が逸れてしまった。

 そうして、うっかりミズリ様の足を踏んで転びかけ、とっさに掴んだ所が良くなかった。わたくしの体重がミズリ様にかかって、そうして無様に倒れ込んでしまった。

 華やかな王宮の舞踏会。着飾った紳士と淑女たちの目の前で、わたくしははしたなくもミズリ様を押し倒してしまっている。


「も、申し訳ありません!」

「いいから、さっさと手を離せっ!!」

「は、はい!」


 あら、なんだか絶景が見えるわ?

 今、わたくしの目の前には、一目で鍛えられているとわかる大腿四頭筋があった。そのまま視線を上げると、ミズリ様が真っ赤な顔で上着の裾を押さえていた。

 おそるおそるわたくしは自分が掴んでいた物を見ると、それは予想通り見覚えのある夜会服の下でありーー。


「も、申し訳ありません!!ミ、ミズリ様!わたくし、わざとではないのです!!」

「これが故意で、私に恥をかかせるつもりだったなら、即刻不敬罪で牢獄行きだ!!」


 慌てて身を起こしたわたくしは、ミズリ様の下半身が衆目に触れぬよう隠そうとした。が、なにかを蹴飛ばし躓いてしまい、足を取られて、またしても彼の上に倒れ込んでしまう。


「きゃあっ」

「うわっ」

ーーザクッ、ビッー!


 何の音かしら、何か破れたみたいだけれどーー。

 そっと目を開けると、肩口から夜会服が破れ、ミズリ様の肩甲骨から広背筋までが露になってしまっている。


「ーーもう、手を離せ!!これ以上私に近付くな!!」

「あ、わたくし、またやってしまいましたの?」


 きゅっと握りしめた手が震えた。また、わたくしはミズリ様に迷惑をかけてしまった。鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなる。駄目、こんなところで泣くようでは、ミズリ様の婚約者として失格だ。

 わたくしは、手にしていた布で慌てて涙を押さえる。なにかが裂ける音がしたが、いったいどこからだろうか。

 わたくしが涙を堪えていると、ミズリ様の側近の方々が集まってくる。これもいつものこと。

 ミズリ様に叱責された後は、わたくしはもうミズリ様の傍に居させてもらえない。わたくしは手に残った夜会服を抱きしめながら、幸せだったミズリ様とのダンスを思い出していたーー。


おまけ

【ミズリ殿下と側近二人の会話】


「婚約者破棄したい」

「いけませんできませんさせません」

「シンシア様が殿下の傍にいる限り、なにがあっても殿下には傷ひとつ付かないので、破棄しないでください」


「私の心は傷だらけだ」

「大丈夫です。皆もう慣れましたから」

「何度命を狙われても、被害は殿下の衣装だけなんで我々も安心です」


「恥ずかしさでいつか私は死んでしまうと思う」

「それは困りますね」

「死なないようにシンシア様呼んできますね」

「やめてくれ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] パニックしてるシンシア視点なので最初何が起こったか分かりにくかったのですが、読み返すとシンシアがアワアワしてる周りで側近の人とかが全く違うベクトルで緊張してるのを想像して笑ってしまう [気…
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