Ep.1 [13]
高く聳える城の屋上に一人。エストールは立っていた。
冷たい風が金の髪を揺らし、頬を撫でる。
エストールは迷わず縁まで進む。
エストール「幼い頃の君の笑顔は僕にとって救いだったんだ」
一歩前へ出ればもう道は無い。
エストール「大人になった君はとても綺麗だった」
エストール「次は結ばれようね。来世っていうの? ううん、なんでもいい」
エストール「すぐに君に会いたい」
エストール「僕の元へ来て。僕の側に居て。僕だけをずっと、見ていて。僕を愛して」
エストール「だいすきだよ、アエリ」
――エストールは身を投げた。
最後に、国王バルタザールがエストールに囁いたその言葉が蘇る。
“あの女の……を……て……虐殺の……”
『あの女の故郷を焼き払って、そこに居る者全て虐殺の限りを尽くしてやった』
◇◇◇
アエリは灰燼と化した故郷を茫然と見つめていた。
そこに歩み寄ってくる影がある。
振り返ったアエリは驚愕に表情を歪めた。
アエリ「……!? お、お父様!! お父様なの!?」
父の姿を見つけて、走り寄るアエリ。
父は自らの胸に飛び込んできた、その体を優しく抱きしめる。
だが、それと同時にアエリは腹部に激しい痛みを感じ――。
そのまま、ずるずると倒れ込む。
アエリの体には深々と刃物が突き立てられていた。
アエリ「ど……して……?」
アエリから勢いよく刃物を抜き、それを翳して、父は笑顔を形作った。
父「アエリ。お前のおかげで、大金が舞い込む」
父「はっはは……はっ! あの、国王陛下も太っ腹だ。死にかけの娘にトドメ刺すだけで、こんなに! こんなに!! 大金が俺の元に入るんだからなああああああああああ!!」
父の口から発せられた予想外の言葉に、アエリは目を見開いた。
父「追手が仕留め損ねた場合、確実に殺せと。アエリお前の事だよ」
父はうっとりと、冷たくなっていくアエリの頬を撫でる。
父「うっふふ、ふふふ……」
父「アエリ。おかえり」
◇◇◇
捧げます捧げます 生贄を捧げます
我がささやかなる望みを叶えたまえ
[本日の罪深き生贄]
真面目だけが取り柄の堅物
[あの女が来てから二日目]
しごとをはじめよう。
兄さんに近づく奴等。
処理待ちの奴らを消していく。
今日は記念すべき一人目。
あっさりと死んだ。
つまらないな。
でも、驚くべき事が起きた。
なんと兄さんが現れたんだ。
兄さんは何も言わずに私を抱きしめた。
『まるでパズルみたいだ』という声がその場にぽつんと響いた。
[本日の罪深き生贄]
勉強馬鹿のエセ紳士
暑苦しい体育会系
[あの女が来てから三日目]
許せない。
兄さんの後をつける。
兄さんに話しかける奴の数を数える。
兄さんに届く手紙を全部読む。
今日は二人始末することにしよう。
間に合わない。
仕方ない。片方は“簡単な者”を選ぶことにする。
広いその背中に手を添える。
何が紳士か。欲に塗れた豚野郎だ。
ほら、こんな簡単に私に気を許す。
次だ。
こいつは面倒だ。
わめくんじゃない。ガキが。
地下に放り込む事にする。
そして兄さんがやって来た。
[本日の罪深き生贄]
金髪の生意気な奴
[あの女が来てから四日目]
しくじった。
昨日の兄さんの行動を見た奴が居る。
私は兄さんの代わりに、奴を別棟の上階の一室へ呼び出した。
金をチラつかせる。金はいくらでもある。さあ。
まあ奴が受け取ったところで、どのみち処理するが。
だが、こいつはあろうことか
私が兄さんに強制されていると思い込んでいる。
私は可哀相な者だと思われている。
奴は私に近づき肩に触れる。
金の髪が私の頬にかかった。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
汚らわしい、汚らわしい“あいつ”を思い出した。
私は立ち上がる。
まるでそれが、在り得ない事であるかの如く
目の前の奴は驚き目を見開く。
奴に掴み掛る。
奴は私に怒号を浴びせている。
窓から、奴を突き落す。勢いよく。
狂い咲いた叫び声が、散った。
[本日の罪深き生贄]
痩せた骸骨みたいな貧相な者
[あの女が来てから五日目]
あの女まで、あともう少し。
兄さんは私の味方だ。気分がいい。
さあ。また今回も兄さんに引き継ごう。
不完全な我等の共同作業。
破滅は近いのかもしれない。
いや、もしかしたら
もうとっくに破滅しているのかも。
愛しているよ。愛しているよ。愛しているよ。
私だけを見て。
私だけを愛して。
[本日の罪深き生贄]
威勢の良い成金
[あの女が来てから六日目]
いつもの様に、小鳥の首を捻る様に、さあ。
簡単に終わるはずだった。
目の前の肉塊は、一時死んだふりをしていただけだった。
完全に油断していた。
肉塊は兄さんから刃物を奪った。
そして、目に入った私に掴み掛る。
私は脇腹を強く蹴られた。
私は腕に刃物を突き立てられた。
兄さんが私の名前を叫ぶ。
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
兄さんが肉塊に殴りかかる。
そして。
気が付いたら、肉塊は動かなくなっていた。
肉体も精神も疲弊しきった兄さんは
我等の共同作業の永遠の終わりを告げる。
私はそれでもいい。
私は最後の仕上げに入ろうと思う。
高位の使用人である彼女がついぞ見る事の無かったそのページには、今までで一番激しい量の血液が付着していた。
[本日の罪深き生贄]
兄さんの使用人女
[あの女が去った日]
私は人を■しました。
たくさんたくさん■しました。
兄さんに群がる害虫を駆除したのです。
もう、こうするしか、なかったのです。
ある日、兄さんが私の■■を見つけてしまった。
兄さんは何も言わずに私を優しく抱きしめてくれた。
それ以降兄さんは、私の“お仕事”の“お片付け”を
してくれたのです!
やっぱり、やっぱり。兄さんも私の■した奴らのことを
ずっとずっと迷惑に思っていたのですね!!
そして、兄さんは私の事を愛してくれている。
嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!!!!!!!!!!
今ここに、私の望みは叶いました。
ただ一つ。欲しかったものが、手に入りました。
兄さんが手に入りました。
兄さんは、これからずっと、ずっとずっと、ずっと私の側に居てくれる。
兄さん、私は貴方を、愛しています!
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