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#2 消火

 連れていかれた先は、激しく燃えていた。


「消火用の水を確保した! なんとしてでも、持ちこたえさせろ!」


 この男は奇妙なこの空から降りてきた化け物の中に入り、私を背負ったまま階段を駆け上って、ここにたどり着いた。

 てか、ここは一体、何? そこにはとてつもなく大きな塊があって、その下の方が燃えている。

 そのとき、上からまるで雨のようなものが降ってきた。大量の水、私もその男も、びしょ濡れになる。

 が、この水のおかげで、火は徐々に消えていく。焦げ臭い蒸気が、辺りを覆い尽くす。

 はぁ……何が起こったのだろう? なんだか知らないけど、とにかく火事はおさまったらしい。

 ところで、ここはどこ? さっきから、私は何に巻き込まれてるの? まるで理解できない。


「よし! 消えたぞ! 各部点検! 急げ!」

「了解! 核融合炉、および重力子エンジン、点検します!」


 かくゆうごうろ? じゅうりょくしえんじん? 再び、謎の言葉が飛び交う。


「重力子エンジンはダメですね……やはり、直撃弾の影響でやられてます。ですが、核融合炉は健在、起動可能です。ただ……」

「制御系がやられて使えない、と言いたいのだろう?」

「はあ、そうですが……しかしウォーレン大尉、よく分かりますね」

「一番燃えてる場所が制御コンピュータのある辺りだったからな。しかし、核融合炉は起動したい。動力をもう一つの右機関に頼る限り、そっちの核融合炉のエネルギーを全て重力子エンジン用に割り振って、左機関の核融合炉で電力を賄う必要がある。そうすれば、なんとか艦を浮上させられる」

「し、しかし! 左機関所属の4人がやられて、人手が……」

「我々でなんとかするしかないだろう。それにもう一人、確保した。なんとかして、核融合炉を起動する。ブライアン少尉は燃料バルブに! 私は非常制御端末を起動する! そしてお前!」


 背中から降ろされた私に向かって、突然指を差してくるこの男。


「そこにある、レバーを引いてくれ! 私が合図したら、ひと目盛りづつ引くんだ! それくらいならできるだろう!」

「へ? あ、はい!」


 いきなり得体の知れないものを引けと言われた。何を始めるのだろうか? よく分からないが、とにかく私はそのレバーと呼ばれる棒のようなものを持つ。

 棒の根元には、なにやら線が刻まれた板がある。ああ、これが「目盛り」か。とにかく、これに合わせて引けばいいんだよね。


「各員、配置完了! 核融合炉を再起動する! 燃料バルブ、開け!」

「燃料バルブ、開きます!」

「おいお前! レバーをひと目盛り引け!」

「は、はい!」


 私はレバーを引く。ところが、これがめちゃくちゃ硬い。目一杯引くが、なかなか動こうとしない。

 だが、ここでやらなきゃ、私はまた捨てられる。これはもしかしたら、天国からのお迎えかもしれないのだ。このままでは、私を天国に連れて行ってもらえない。残された私の魂は、この世で彷徨う羽目になる。それはとっても困る。私は渾身の力を込めて、そのレバーというやつを引いた。

 動いた。ガチャッという音とともに、レバーが動く。ウォーンという音と共に、何かが動き出す。

 目の前の、あの大きな塊が動いたようだ。

 でも、本当にこれ、なんなの? 黒いすすで覆われていて、まるで地獄の釜のようにも見える。本当にこれは、天国から来たのだろうか? だんだんと不安になる。


「よし! ふた目盛り目!」


 だが、そんな不安を抱えている暇などない。再び、合図が来る。私はレバーを引く。さっきよりはずっと軽い。ガチャッという音がして、二つ目の目盛りまで動く。

 さらに音が大きくなった。中で何かが動いているようだ。その後も、合図のたびにレバーを引き、その度に音が大きくなっていった。

 しまいには、けたたましい音と共にその地獄の釜のような塊がガタガタと動き出した。


「よし! 核融合炉、起動完了!」


 ウォーレンという男は叫ぶ。もう一人のブライアンという男も降りてくる。


「なんとかなりましたね! 大尉!」

「ブライアン少尉! 直ちに艦橋へ連絡! 左機関の核融合炉、起動成功、と!」

「はっ!」


 するとブライアンという男は、なにやら手にとって喋り始める。


「左機関室より艦橋! 核融合炉、起動成功! 電力供給を確保しました!」


 どうやら終わったようだ……それを知った私の身体からは、力が抜けていく。

 思えば、空腹のまま力を振り絞った。おまけに、身体中ぬれたまま。気合だけで動いてきたが、どうやら限界が来たようだ。


 私は、その場で倒れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 核融合炉、レバー引いたりと意外とアナログ?なのですね。軍艦だから"枯れた技術"満載なのかな? "調子の悪い機械は叩けば直る"
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