3-2
《ライミリアンへ》
「……は…?」
見間違いかと思ったが、確かに一文目に書かれているのは自分の名前。
心臓が変に煩くて、紙を広げる指のもどかしさに歯噛みしながら、次の言葉に目を落とす。
《ギルディアスが発明家になったとき、街長になっているのはライミリアンだ。
君ほどに相応しくて、優れた人材はいないからね。
何より、ギルディアスを支えてくれるのは一人しかいない。ギルディアスもまた、君を支えてくれるようになっているといいんだけど》
目の前にいると錯覚しそうなほど。
笑い声すら聞こえるようで、ライミリアンは堪え切れない感情に思わず口元を押さえた。
《君は最初から、ギルディアスの欠点に気付いていた。
彼には感情が足りない、というより表現出来ないのに、それを苦しいと気付けない。
でもそれはいつか、彼自身も知らないままに歪みを起こしてしまう。どうか、彼が正しく自分を感じられるように導いてほしい。
…飴と鞭で》
「・・・」
1:9の割合を察しているかのような、謎の空白。
それはさておき、ライミリアンは偉大な発明家ゼヴェルトの願いに目を細める。
それがこんなにも"ささやか"なものだと、いったい誰が知っているだろう。
《そしてライミリアンは、本当に限度を知らずに頑張りすぎるから、無茶は禁物。ギルディアスと同じ、君も僕の最愛の息子だから》
文末は、こう締め括られていた。
《どうか、二人の未来に、夢に、幸せが積もりますように》
「ライアも水いるー?」
コップを手に、ギルディアスが帰ってくる。
「あぁ」
「なんか書いてた?」
少し考えたあと、ライミリアンは気の抜けた柔らかい笑みを零した。
「相変わらず、口車に乗せるのが上手い人だ」
…これくらい、独り占めをしてもバチは当たらないだろう。心の中でそっと。
机の上の鍵を手に取ると、ギルディアスに投げて渡す。
「まだ当分、実行に移さない。会議堂が人少なくなる時期を狙う」
その表情は、街長のそれに戻っていた。
「ギール、この間の盗聴ロボ「いや伝書ロボです」を改良しろ。書庫に入る時も出る時も人目につかないよう、扉の前に仕掛ける」
その言葉に目を丸くして、ギルディアスはニカッと笑った。
「悪用じゃん」
「馬鹿者。必要悪という言葉がある」
二人で受け取ったバトンは、
戻ることのできない片道切符。