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人付き合いが苦手な僕が最後に交わした儚い約束

作者: 黒帽子

僕は安堂翔太、普通の男子高校生だ

今日は卒業式…

笑って卒業したいと思っているが実行するとは言っていない…

でも…とても大切なことを忘れている気がする…

僕らは今日、卒業する予定だ

しかし、僕は忘れてはいけないものを教室に置いていったそんな気分で卒業式に臨んだ


長い長い校長先生の祝辞、長くても校長先生の言葉を聞いて何人かが涙で頬を濡らしていた

そんな光景を見て僕は高校生活を思い出していった


入学時の緊張感

先輩方との交流

なんて、いくつもありすぎて数えるのが億劫おっくうになる

僕は過ごしてきた高校生活に悔いがあったかどうか…それを卒業式の間ずっと考えていた



「こら、体育館で寝るなんて風邪ひきますよ!」


僕の肩を聞き覚えのない声の持ち主が揺らす


「あと十分…十分だけでいいから…」

「十分も寝たら始業式の半分が終わるわ!」


頭に衝撃が走る、めちゃくちゃ痛い…


「ほら、行くよ」

「どこへ?」

「もちろん、教室に決まってるでしょ」


僕は言われるがまま連れていかれた


安堂あんどう翔太しょうたくんは寝すぎだね」

「どうして僕の名前を?」

「それは、私があなたの担任だからです」

「先生にしては…」

「ちっちゃいとか言わないでね傷つくから」


僕は黙り込んで先生の後について行った

教室のドアを開けると他の生徒が椅子に座って待っていた


「はい、皆さん揃ったところで自己紹介します

私の名前は佐藤さとう優心ゆみです一年間よろしくお願いします」


先生からのお決まりの自己紹介が始まった

自己紹介は最初が肝心とかよく親が言うが自己紹介じたいできたら…高校生活の7分の3は上手くいったようなもんだろう…そんなもの成功するはずがない


「じゃあ、安堂くんからお願いします」


こういう時、自分の名前があ行なのを恨む

1番最初とか何かをお手本にして自己紹介もできずいきなり先生にふられると困るのがあ行の宿命だな…


「えー…安堂翔太です。趣味は犬の散歩です」


たまたま窓から見えた人が犬を連れていて良かった

これが猫とかだったら相当やばい奴扱いをされるところだった…

その後、全員分の自己紹介が終わると先生は黒板に自分の前を大きく書いて生徒の方を見る


「私は今年からこの学校に赴任しましたが一年間、一生懸命頑張ります!目標はこのクラスのみんなに卒業式で『良かったな』って言わせてやることです!」


何人かの生徒がその言葉を聞いて歓声を上げる

僕ならここで悲鳴をあげる

そんなに一生懸命にされたら卒業式に泣いてしまうからだ


「で、私が黒板に私の名前を書いた理由は来週の月曜日までに私の名前を漢字で書けるようになって欲しいからです!」

「なんだそりゃ…」


思わず心の声が口から漏れた

その瞬間、先生と目が合ったので直ぐに目を逸らした

なんでそんなに目力めぢからが強いんだよ…




卒業式での在校生の別れの挨拶が終わった…

もう少しで高校生としての生活も終わる

思い出すのは三年間学んできた学校の校舎や運動場が今は愛おしく思える、いつもならだるい登校も今日はもう少し遅く歩こうかなんて考えたりもした


「あぁ…卒業式はどうしてこうもこの高校で過ごしてきたことを思いだすんだろうな…」




僕は夏休みに補習を受けさせられていた

理由はプールの授業をさぼったからだった

だからって水泳部と一緒にプール掃除からやらされて挙句の果てに水泳部と一緒に泳ぐとかハードルがキツすぎる

僕は中学生の頃は金槌かなづちとして有名だったのに高校生になってからは友達が増えて一、二年でプールで泳げれるレベルになった程度だ

そんなやつが水泳部となんて…


「なあ…小林…」

「どうした安堂?」

「俺、なんでここにいるんだ?場違いじゃないか?」

「自業自得だろ?」

「身に覚えがないな、ただ教室で寝てたらいつの間にかプールの授業が終わってて教室が少し塩素の匂いがするだけだったぞ?」

「身に覚えしかないなそれ」


小林と話すと体育の先生に叱られたので

クロールで二五メートルを泳がされる羽目になってしまった

しかも相手も用意するという鬼畜っぷり

だが相手が女子だった、しかも県大会に出たことがある水泳部のエースだ


「安堂はまずクロールできるの?」

「クロール自体はできるんだが…息継ぎが得意じゃないからシュノーケルを要求したい」

「無理だね…高校ここにシュノーケルは置いてないよ…」

「くそっ!シュノーケルがあればまだ勝敗は分からなかったのに…」

「ふーん…勝つ気なんだ」

「勝負は勝ち負けだろ?」

「まあーね」


僕はあまりこの人が得意じゃない

小学生から高校いままで同じだったがあまりいい印象は無かった、絶対的自信が何よりも腹が立つからだ

だから僕はこの勝負に勝って恥をかかせてやるつもりだったがシュノーケルがないなら話は別だ


「よーい!!」


小林が意気揚々と合図を送る

完全に高みの見物だ

『小林だって喋ってたのに』と内心思いながらもグッと堪えてこの勝負に臨む


「どん!」

小林の合図に僕は答えるかのように水中に顔をつける

やっぱり相手は水泳部のエースなだけあって凄いスピードで水中を泳ぐ、まるで魚のように

それでも負けるのが悔しくて精一杯水をかく

息継ぎができないならスピードでどうにかするしかないからだ


結果は水泳部の勝ちだった


「ほーら、安堂じゃ私には勝てないね〜」

「水中で負けても陸上で勝てば結果オーライだ」

「悔しかったんだ?」

「そりゃあ負けたからな悔しがった方が勝った気がするだろ?」

「気を遣っていただきありがとうごさいます!」


言葉とは裏腹に思いっきり僕の脇腹をつねってくる

コイツは悪魔かと思った…







そんな水泳部のエースも小林も体育の先生も卒業式では涙を流していた

これを青春と呼ぶなら青春とは、悲しいものだ…

僕は三人が泣く光景を見てもらい泣きをするのを防ぐため心をうわの空にしていると思い出した


「あぁ…」


思い出してしまった

あの日の約束、あの日の言葉

僕は卒業式の日は泣かないと言った

でも、約束は守れなかった





卒業まであと2週間だった

大学に進学する生徒は勉強をして

就職する生徒は最後の思い出作りとして先生と一緒に写真を撮ったりしていた


「安堂、お前は進学だったか?」

「僕は親のパン屋で働くから就職…なはずだ」

「それにしてもさ…佐藤先生大丈夫かな…」

「あんな目力があるんだ生命線も強いさ」


佐藤先生は今から一ヶ月前に入院していた

入院した理由は“がん"だった

生徒代表で選ばれた僕は先生が入院している

病院に向かった

クラスメイトから先生への手紙や千羽鶴を持って

病室に向かったが僕は先生を見た時、別人だと思った

綺麗だった黒髪は抜け、向日葵のような笑顔は今や面影もなく目を覆いたくなるような現実だった


『先生…元気ですか?これ、みんなから先生への贈り物ですよ。早く元気になって下さいね…みんな先生の授業やHRを心待ちにしてますよ…』


先生は答える訳でもなくただ笑顔を取り繕っていた

それが先生ができる精一杯だったんだろう

病院を出るとみんなが病室の前で話し合っていた


「みんなでいけば先生も元気になるんじゃないか?」

「そうかも!」


馬鹿げた言葉が僕の耳を通っていく

あんな先生を見たらクラスメイトは何を思うだろうか

僕が選ばれた理由は1番先生と仲がいいからだった

あんな先生を見るぐらいなら先生とあまり喋らず周りとも喋らず浮いた存在の方が良かったのではないか?と、心の中で自問自答を繰り返しては嫌になる


「そうか先生は元気が取り得だもんな」

「そうだな…だからお見舞いには行かない方がいい」

「わかった」


『お見舞いに行かない方がいい』自分に言い聞かせたのかクラスメイトに言ったのかそれは僕ですら判断ができない






卒業式がもう終わる…

先生と病室で約束した

1つ、先生の状況はあまり話さない

2つ、卒業式ではみんな笑顔で卒業



『3つ目はもし…先生わたしが亡くなっても…

私の名前を漢字で覚えておいてね…』


先生は僕にできない約束ばかりして逝った

『良かったな』なんて言葉は出てこないほどに悲しくこころに残る卒業式になったと僕は思う

それでも佐藤先生が笑っているかどうかなんて分からない…これを卒業式と呼ぶにはあまりにも悲しすぎる

卒業式だ…














卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます

私ごとですが昨日、私も無事卒業式を終えました

そして、卒業を話の核として小説を書こうと思いこの作品を書きました。

些細な感想でも言っていただけると幸いです。

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