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魔術師と進まない恋愛事情  作者: 神戸コウ
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始まりはコピー&ペースト


 落ち着け、落ち着くんだ。


 今はキスのことは忘れろ。


 まずは状況を整理する。ベッドでキス待ち状態の葉月に床ドン、もといベッドドンしてたはず。それが今やおっさんにしがみついた状態だ。キスからは逃れたが、いまだ背中に腕と足を回してしまっていることに変わりない。


 いや、そもそもそれがおかしい。重力のかかる方向が足側にきている。つまり、俺はベッドドンしたまま瞬間的に90度回転したことになる。うん、何を言ってるのか分からない。


「ちょっとぉおお~。あたしのこと好きなのは分かったからぁ。そろそろ離れないと怒っちゃうわよ♪」


 おっさん、もといおネエさんに、トントンと可愛らしく肩を叩かれた。今の大変気持ち悪い状態にはっと気づき、すぐさま離れて距離をとる。


「すいません。俺もよく分からないんですけど、えっといつのまにか抱きついてしまったみたいで……」


 キスのことは忘れた。きっと未来永劫思い出すことはないだろう。


「いいのいいのぉ。こんな若い子とキスできるんだったらいくらでも抱きついてあげる。いえ、抱いてあげるっ♪」


「……で、その、変な質問だと思うんですけど……ここってどこなんでしょうか?」


 おネエさんは妄想癖なのだろうか。キスがなんだ言っているが微塵も記憶にない。

 そして、なぜか、いや明らかに作為的であろうスポットライトが俺とおネエさんだけを照らしている。

 

 周りに目を向けてもあたりは真っ暗で人の気配すらしない。分かることといえば、教室ぐらいの広さの部屋にいるであろうことぐらいだ。


「もうっ!目上の人の冗談には笑顔で応えるって教わらないのかしら!意地悪する子には何も教えてあげないんだからぁ」


 落ち着け、落ち着け、俺。今は堪え時。たとえ彼女とのハッピータイムが奪われた原因がこいつにあったとしても。たとえまともに話すだけで血圧が上がりそうな相手だとしても。人にものを訊くときは下手から、下手から。ふぅ。


「ハハッ、すみません。ちょっと動揺してて、ハハッ。そこをなんとかお願いします」


 これでいい。円滑なコミュニケーションの秘訣は負けるが勝ち。下手に出ておけば相手も悪い気はしないだろう。ちょろい、ちょろいな。


「えぇーどうしよぉかしらぁ。教えてあげてもいいけどぉー。教えてあげるかわりにぃ。もう一回。してほしいな、なんて♪」


 ちょろかった、ちょろかったのは俺の頭だ。

 覚悟はある。怒りに身を任せろ。あとはずきゅゅゅゅゅゅゅゅん!!とやるだけだ。


 俺は右手をチクチクする顎に添え、直線コースで突撃した。


 柔らかい感触とともに、俺の心はくだけ散った。


★★★★★


「んっん、あーおいしかったぁ♪」


「で?」


「あらあら、早漏さんは嫌われちゃうわよぉ」


「あ?」


 円滑なコミュニケーションの秘訣は、勝つが勝ち。必要なのは威圧。苦節二十年、今ようやく学んだ。


「はいはい、わかってるわよ……ここはね、死後の世界」


 おネエは一転して、ぎらりとした目でこちらを見つめる。い、いや、怖いって。おネエがシリアスモードで眼光強めたら普通に怖いんだよなぁ。


「あなた、木内貴樹は彼女にキスをしようとした瞬間に、思い果たせず死んでしまったの。死因は極度の緊張による心筋梗塞よ」


 なん……だと! 俺は卒業もできず、ましてや葉月とベロチューせずに死んだっていうのか!? そんなの嘘だ。嘘だって言ってよバーニィー!


「嘘だ!」


「そうよ、嘘よ!真っ赤な嘘よ!」


「いい加減真面目に話してくれませんか? もうそういうの無しで。目上の人の冗談苦手なんで」


 マジでキレそう5秒前。奥義「キレる10代」発動しちゃうぞ? 最近20なったけど。


「そうね、本当のことをいうとあなたは生きてるわ。今まさに彼女と生まれたままの姿で一つになろうとしてるところよ」


 うっそマジで! めっちゃ羨ましいんですけど。てかこんな頭のおかしい夢見ながら一つになろうとしてんのかよ俺。ちょっと変な顔になってないか不安じゃないの。


「残念だけど夢じゃないわよ。これは現実。そしてあなたは生きているわ。あっちのあなたも、“こっち”のあなたも」


「あなたはあの時あの瞬間をもって複製されたの。記憶と魂だけ正確に。いわばここにいるあなたは、家でハッスルしてるあなたのコピーになるわ」


「そしてここは世界と世界の狭間」


「あら、ちょっと想像ついたかしら♪」


「コピーといったら次はペーストよねぇ」


「まさかって顔してる、可愛いわぁ♪ 」


「もうそろそろ時間ね。すでに五感が機能してないでしょ。あ、でもでも、あたしの声は聞こえるから安心して」


「これから、あなたの魂は今までの世界とは異なる世界に書き込まれる。そして、元の肉体が再構築される。そこで生きていくことになる」


「新たな世界でどう生きるかは自由よ」


「ただしこれは現実」


「あちらの世界も確固たる世界として存在している。それだけは忘れないで」



 ーー願わくば、君に祝福あらんことをーー



 世界が、記憶が、意識がーー消失した。

 

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