プロローグはキスとともに
『好きだ。葉月のことが好きだ。』
ベッドの上で重なる二人。
『私も、貴樹のこと好き。』
今まさに唇が触れ合う、その瞬間。
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貴樹の聴覚は衝撃と言ってもおかしくないほどの理解の及ばぬ音に潰された。そして同時に、目の前の葉月の顔も見えぬ程に、眩い光で視界が埋め尽くされる。
「っ!? 今の音何だ? あっ……ごめん、立ちくらみしたかも……」
せっかくの雰囲気に水をさしてしまったか? 慌てて葉月の顔色を伺おうと目を凝らす。
彼女いない歴20年の俺を救ってくれたマイエンジェル葉月。恋愛にがっつかないタイプの仮面をつけ、女子に免疫がないのを完璧に隠していた(当社比)俺の偽りを暴き、そして救ってくれた初めての「彼女」。
そんな彼女と俺ん家のベッドに二人。やることは一つ。童貞という不可視のレッテルとの長き戦いを終える儀式。そう、終わりの始まりが幕を開けるとき。
緊張のあまり謎の聴覚&視覚不全に陥ったが一瞬だ。葉月に動揺と緊張を悟られるわけにはゆかぬ!
つとめて爽やかな顔を作っていると、だんだん真っ白だった世界が色を着けてゆく。
「じゃ、ま、まぁ、キ、キス…しよっか…っっっんんんんん!!?」
葉月の顎が青髭で彩られていた。まるで新宿二丁目にいそうな感じの。
「あ゛っらぁあああ~うれしいこと言ってくれるじゃないのぉ゛! あらやだ、濡れてきちゃた♪」
今にも唇が触れ合う距離に、葉月ことゴリッゴリのおネエさん。
「んっ、ち゛ゅっ〰〰♪ っっっっっっぱぁ♪」
二人の間に架かる橋。
なんでかな……悲しみの味がするよ。
終わりの始まりは濃厚なキスとともに幕を開ける。