IF 転生したら私だった。でも、なんだか周囲の様子が……?
IFモノにつき、ギャグと割り切ってお楽しみください。
今回、作中でメタ発言がございます。
おぎゃあ、と産声をあげて最初に思ったのは、『私、またやっちゃった?』という、なんともまぬけな感想だった。
「おぎゃあ」と生まれた。
うん。生まれたのだ。
そして、『生まれた』という感想が浮かぶぐらいには、『私』としての意識が残っている。
つまりは、前世の記憶を残したまま、また転生してしまったのだ。
……あー、エラース語だ。
前の人生では判らなかったが、今なら生まれた瞬間から解る。
周囲で交わされている言葉は、前の人生で『ティナ』として学んだエラース語だ。
おかげで、今生は両親の会話を乳児から理解することができた。
……小さな女の子の声。『お姉ちゃん』かな?
どうやら今生は、姉のいる家庭に生まれたらしい。
一人っ子ではないし、また誰かの『妹』だ。
……うん? 違うな。『お姉ちゃん』じゃないっぽいぞ?
女の子はどうやら私のことを『お嬢様』と呼んでいるようだ。
両親は『お嬢様』だなんて呼ばなくていいと言っているようだが、聞く様子はない。
……あれ? 今、カリーサって言った?
聞き間違いか? と思いつつ、両親と女の子の会話に聞き耳を立てる。
産声が大きくて聞き取り難いのだが、赤子の私には自分の意思で泣き止むことはまだできなかった。
「――でも本当にいいのかい? この子の誕生を一番楽しみにしていたのは、きみだろう」
「はい。『名前』は赤ちゃんにご両親が贈られる最初の贈り物です。いち子守女中の私などではなく、旦那様と奥様でお嬢様に『名前』を贈ってください」
自分はお嬢様のお世話をできるだけで充分なのだ、と続いた言葉に、私としては女の子の顔を確かめたくてしかたがない。
カリーサという名前の子守女中が、近くにいるようなのだ。
乳児の中の前世が、『カリーサ』を求めて騒いでいた。
……目が……っ、目が、……開かないっ!
悲しいかな、乳児の体は思うようには動いてくれない。
今すぐにでも目を開いて『カリーサ』が私の『カリーサ』ではないと確認したいのだが、しばらくはお預けのようだ。
今生の両親が私に『クリスティーナ』と名付けたのは、誕生から三日後だった。
あまりにできすぎた名前に、驚いて乳児の目も開いた。
ら、両親は私の青い目を見て、母と同じ色だ、と喜んでいた。
どうやら、私の父方の祖母の目は青いらしい。
目が開くようになると、『カリーサ』の顔も確認できるようになる。
私の子守女中を自称するカリーサの正体は、どこからどう見ても――いや、私の覚えているカリーサよりも十歳は若いのだが――カリーサだった。
赤い髪も、黒い目も、前世の子守女中のカリーサと同じだ。
名前どころか顔つきまで同じなのだから、そろそろ今生の様子がなにかおかしいと、薄々気がつき始める。
否。実のところ、両親の名前を聞いた時にはなにか変だとは気付いていた。
ただ、そんなはずはないだろう、ただの偶然だ、と気付かないふりをしていただけだ。
……私、『前世の私』に転生してる!?
こういうのはなんと言うのだっけ? と背負い紐で固定されたカリーサの背中で考える。
乳児の世話をするのは普通実母か乳母の仕事だと思うのだが、今生の家では母とカリーサが乳児を取り合うように世話している。
使用人が主人と乳児を取り合うなんてことができるのか? とは思うのだが、カリーサは別に使用人でもなんでもないらしい。
両親たちの会話から察するしかなかったのだが、このカリーサは『押しかけ子守女中』だ。
私のお世話をしたい、とある日メイユ村へと押しかけてきたのだとかなんとか。
押しかけてきているのだから、給金などいらない――と使用人でありながら使用人ではない、という体裁をとって、時に母と私を取り合い、今日の昼間はカリーサが私のお世話権を獲得していた。
それでいいのか? とは思うが、産後の母がゆっくり休めると思えば、これはこれでいいのだろう。
……あ、思いだした。自分に転生するのは、ループモノとか、タイムリープモノとか言った気がする。
ということは、私はやはり私に転生したのかもしれない。
父の名前はサロで、母はクロエだ。
私は『クリスティーナ』と名付けられ、父は『クリス』と私を呼びたかったようだが、カリーサが『ティナ』で押し切った。
乳児としても慣れない『クリス』呼びよりは『ティナ』の方がよかったので、『クリス』と呼ばれた時は無視をして、『ティナ』と呼ばれたら愛嬌を振りまくようにした。
ら、今生でも私の愛称は『ティナ』に固定されたようだ。
……それにしても?
メイユ村での私の家は、こんな様子だっただろうか? とカリーサの肩越しに部屋の中を観察する。
全体的に、小奇麗になっているような、明るいような、奇妙な違和感があった。
……子守女中がいるから、お掃除が前世より行き届いている、とか?
小奇麗な家には違和感があったが、前世のメイユ村での記憶も薄れているので、気のせいかもしれない。
そう一先ず考えることを脇へ置いて、日々を過ごす。
とにかく、乳児の間は自分ではどこへもいけないのだ。
なにか違和感があったからといって、自分で納得できるまで調べることはできない。
多少の違和感を無視し、日々を穏やかに過ごす。
一歳半まではあっという間にすぎて、洗濯物を干すカリーサに引っ付いて家の外へ出るようになると、さらなる違和感を見つけた。
……なんだか、村の景色が違う……ような?
山や木の形は記憶にあるものと同じなのだが、村の家々が微妙に小奇麗になっている気がする。
もしくは、記憶にあるよりも家が増築されていたり、戸数が多い。
他所の家なら私の記憶違いということもあるが、さすがに自分の家なら違いははっきりと判る。
今生の私の家は、前世の家よりも大きく、外観も綺麗に整えられていた。
……そして微妙にカリーサを怖がっている人がいるような気が……?
洗濯場で顔を合わせる女の人はそうでもないのだが、大人の男性は違う。
はっきりと遠巻きにカリーサを見ている。
なんだったら道の向こうから歩いて来ていても、カリーサに気がつくと、そのまま道を引き返していったり、物陰へと飛び込んで隠れたりとするのだ。
……カリーサ、私が知らないうちに何やったの!?
そういえばと気がついて、村長ジャコブの姿を探してみたが、カリーサの行動範囲――つまり、私の行動範囲でもある――で村長の姿を見かけることはなかった。
かりにも『村長』がそんなことでいいのだろうか、と思っていたのだが、どうやら村長は『村長』ではないらしい。
というよりも、メイユ村が『村』ではなかった。
今生うまれたこの村は、村ではなく『メイユ町』と呼ばれているようだ。
前世では半年に一度来るかどうかといった旅の商人も、町には月に一度ぐらいの頻度で来てくれるらしい。
……そして、お父さんが町長だったんだね。
何があったのか、と聞きたい気はしたが、今はまだ無理だろう。
まだ呂律が回らなさすぎて、スムーズに他者と会話ができない。
ただ、大雑把になら察することはできる。
村長の姿が見えず、父が町長となっているのは、父が読み書きできるからだろう。
メイユ村の住民たちは、ほとんどが読み書きのできない者たちばかりだったはずだ。
読み書きのできる人間が代表者として選ばれるのは、当然といえば当然の流れだろう。
……や、村長はホントにどこに行ったの?
三歳になると、はっきりと前世とは違う出来事がおきた。
私に弟が生まれたのだ。
村長からの嫌がらせがないと、私には三歳で弟ができていたらしい。
今生での新発見だ。
もしかしたら、生まれることができなかっただけで、前世の私にも弟妹がいたのかもしれない。
村長、マジ許すまじ。(でも生後三年をすぎても未だに姿を見かけないのは考えちゃいけない気がする)
父が弟に『テオ』と名付けようとしたので、全力で反対した。
『テオ』はよくある名前どころか、よくありすぎる名前なので、他の名前にしよう、と。
……あと、このお話だと名前が『テオ』は死亡フラグ(※メタ発言)
四歳の誕生日に、カリーサが手鏡をプレゼントしてくれた。
私を独占したいがために両親から給金を断っている、というカリーサのお金がどこから出てくるのか、と思っていたら、カリーサは旅の商人に商品を売って、小遣いを稼いでいるのだと教えてくれた。
この商品というのが糸巻レースことオレリアンレースだったので、このカリーサは『前世知識でチート』なカリーサだと思う。
どうりで、周囲の様子がいろいろとおかしいわけである。
メイユ村はカリーサに魔改造されて、メイユ町になりました。
……あれ?
手鏡に映った自分の顔を見つめ、違和感に首を傾げる。
少し毛先に癖のついた黒髪も、青い目も、可愛らしい顔立ちも、記憶にある前世と同じものだ。
同じものだというのに、妙な違和感が鏡の中に映った自分の顔にはあった。
「……カリーサ、わたしのかお、なにかへんじゃないれすか?」
「お嬢様はいつでも花丸満点に可愛らしいですよ」
今生のカリーサは、螺子が少し吹き飛んでいる。
螺子が足りないのでも、緩んでいるのでもなく、螺子を締めようとするそばから螺子を吹き飛ばす超火力カリーサだ。
……なにか変なんだけどなぁ?
なにかおかしいとは思うが、違和感の正体が判らずに首を傾げる。
違和感はあったが、私はもともとのん気者だ。
とくに害もなかったので、違和感についてはそのうち忘れてしまい、思いだすこともなかった。
違和感の正体に気がついたのは、六歳になってからだ。
メイユ町の発展に疑問を持った誰かが、町に転生者でもいるのではないか、と探り始めているらしい。
……え? どっち? 日本人? それともメイユ村を発展させたカリーサ?? どっちに用があるの???
探っているのがイヴィジア王国の王族なら、それほど害はない――精神的にはかなり疲れる――が、ズーガリー帝国の間者であれば、すみやかにお引取り頂きたい。
あの国に対し、私に良い感情はない。
「お嬢様に護衛を付けましょう!」
「ごえい?」
またこの大暴走女中がなにか言いはじめたぞ、と固まってしまった父の膝の上で、カリーサを見上げる。
私が生まれてすぐはペッタンコだったカリーサの胸も、今は前世のサイズに近づいてきていた。
すなわち、たゆんと巨乳美少女の出来上がりである。
「……カリーサ。ティナはたしかに思わず連れ去りたくなるぐらい可愛いかもしれないが、さすがに護衛を雇うというのは、大げさすぎやしないかな……?」
「大丈夫です。費用はすべて国費なので、税金です!」
税金はタダとは言わない。
そんな父からの当たり前の突っこみは、綺麗にスルーされていった。
……そして、やっぱりこのカリーサは『前世知識でチート』なカリーサだ。
今日までとくに何も聞かれなかったが、私が日本人として生きた前世を持っている、と知っているカリーサだ。
頼る相手を間違えなければ、転生者である私の身の安全を図ることはたやすい。
そう考えての発言だろう。
「グルノール騎士団に手紙を出して、お嬢様に護衛を付けていただきましょう!」
「まず、どこからグルノール騎士団が出てきたのかな」
「マンデーズ騎士団でも伝手があります!」
「うん、相変わらずカリーサはティナが関わると他者の話を聞かないなー」
「早速レオナルド様にお手紙しますね!」
「うん? レオナルド……?」
不思議な響きを持った父の声に、視線をカリーサから父へと移す。
レオナルドの『レオナルド』という名前は父が付けたものだ。
その『レオナルド』という響きに、なにか思いだすものがあったのだろう。
……そういえばレオナルドさんって、私が生まれた時にはもう騎士になっていたんだっけ?
今の私には連絡の取りようもないので、これまで連絡をしようとも思わなかったが。
今生でも、思わぬ形でレオナルドと関わることになりそうだ。
こうと決めたカリーサの行動は早い。
今生はどうか知らないが、前世では有能家令に育てられたカリーサだ。
手際の良いスーパーな女中である。
すぐにグルノール騎士団へと転生者の保護を求める報せを送り、ひと月もしないうちに黒騎士が連れ立ってメイユ町へと現れた。
「あ、レオだ!」
遠目に馬から降りるレオナルドの黒髪を見つけ、嬉しくなって駆け出す。
両手を広げて駆け寄る私の頭からは、今生では初対面である、という当たり前の事実は抜け落ちていた。
「レオー」
ハグを要求する。
そんな気持ちで広げた両手は、しかし初対面のはずのレオナルドにしっかりと受け止められた。
かつてのように脇へと手が差し込まれたかと思うと、自然な仕草で抱き上げられて、目線が合う。
今生で初めて合うレオナルドの目は――
……この人、レオ違う! 神王様の方っ!!
顔も服装も、確かにレオナルドと同じだ。
しかし、黒かったはずの瞳だけは、不思議な輝きを秘めた蒼だった。
……あと、この蒼! 私の片目もこの蒼だった!
初めて鏡を見た日の違和感の正体が、ようやく判明した。
私の両目は確かに青いのだが、片目だけが微妙に違った『蒼』だ。
そして、片目が『蒼』色で、女児とくれば――




