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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~  作者: ありの みえ
第12章 閑章:帝国の転生者と黎明の塔

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アルフレッド視点 脱出の算段

 グルノール砦へとコーディが姿を現したのは、夏の終わりだった。

 有り難いことに、コーディは自分の商売を後回しにしてまで、クリスティーナの捜索に協力してくれている。

 そうでなければ、移動にかかる旅程が短すぎた。

 レオナルドはクリスティーナ救出に協力してくれていた期間の損失を補填し、礼金を払うつもりでいるようだが、それだけでは足りないだろう。

 これまで行商をしていた地域を素通りさせているのだ。

 コーディが失った顧客からの信用は、一年や二年の援助では取り戻せない。


 ……いっそ、グルノールあたりにでも店を持たせようか。


 家族ごとイヴィジア王国へと引越し、街に店を構えれば援助もしやすいだろう。

 そうは思うのだが、これはこれで難しい。

 旅の商人にとって自分の店を持てるというのは大きいが、国を跨いでの引越しともなれば、周囲の人間関係がすべてやり直しとなる。

 世話になっただろう故郷の隣人たちと気軽に会えない距離への引越しは、人のいいコーディには難しいかもしれない。


 ……礼金を渡して終わり、というわけにはいかないだろうな。


 信用は金では買えないし、目の届く範囲で店を構えさせるのも難しい。

 ならば、と大金を渡して故郷で店を持たせるという礼のしかたもあるが、人のいいコーディに大金は持たせない方がいい気がする。

 なんとなく、親類や知人に金を騙し取られそうな頼りなさが、コーディにはあった。


「……帝都でクリスティーナを確保した後は、アウグーン領でしばらく療養させる予定、か」


 コーディの持ち帰ったレオナルドからの手紙によると、ジャン=ジャックがウーレンフート領で見つけたはずのクリスティーナは、行ってみれば帝都トラルバッハへと移動された後だったらしい。

 アウグスタ城では空振りに終わったが、そこでベルトランの飼い犬であるオスカーと遭遇したそうだ。

 番犬として役に立つ黒犬オスカーを連れて一度アウグーン領へと戻り、今度は帝都へと向うことにした。


 手紙で判るのは、ここまでだ。


 コーディがレオナルドから手紙を預かってふた月は過ぎているので、今頃はクリスティーナを無事に確保している頃だろう。

 予定通りにことが運んでいれば、アウグーン領でクリスティーナの体調が整うのを待っているはずだ。


「国境を通りやすくしておけ、か。普段なら帝国側の砦も賄賂でどうとでもなるが……」


 ひっそりと攫われたクリスティーナを、こちらもひっそりと取り返す手筈になっていたはずである。

 あまり派手なことはしていないと思うが、クリスティーナを誘拐した者が、クリスティーナを奪い返されておとなしくしているとも思えない。

 追っ手はいるものと考えた方がいいし、相手は貴族なのだから、兵士へも顔が利くだろう。

 となれば、賄賂は通じ難いかもしれないし、国境近くまで来ることも困難を極めるはずだ。


 ……あちらの情報がこちらへ届くまでに、時間がかかるからな。今頃は状況も変わっているだろうし、先を読んで行動する必要がある。


 ズーガリー帝国とグルノールでは、距離がありすぎて情報の鮮度が期待できない。

 ウーレンフート領でクリスティーナを発見したという情報をあちらへと送ってみれば、クリスティーナはすでに帝都トラルバッハへと移動されていた、というようなことがどうしても起きる。

 状況に合わせた柔軟な対処が難しい。


「他に何か変わった話はないか?」


 これについては後でアルフとランヴァルドの知恵を借りよう、とひとまず脇へ置いておく。

 折角コーディが大陸中を動き回っているのだから、他に何か有益な情報はないかとコーディを促すと、コーディは少し思いだすような仕草をした。


「……変わった話といえば、レミヒオ様からサエナード王国で発見された『精霊の座』が無事に破壊された、という話を聞きました」


「サエナード王国にもあったのか」


 仮王レミヒオは神王の血に連なる者として、『精霊の座』の破壊命令を各国の為政者へと出したようだ。

 それが本当はどんな役割を持つものなのかについては触れず、『精霊の座』の特徴を広くひろめた。

 もちろん、広くひろめるといっても、闇雲に触れ回ったわけではない。

 レミヒオは各国の為政者や有力者へと、イツラテル教会を通じて親書を送っている。

 あとは親書を受けとった有力者が、それぞれに慣れた方法を使って『精霊の座』を探すだけだ。

 為政者はもちろん、有力者には手足のように使える人材がある。

 人を使っての捜索活動になるので、レミヒオの捜索範囲はそれこそ大陸中に及ぶといえるだろう。


「探し始めたら急に見つかり始めたな。これがクリスティーナの言う、神王の意思か」


 クリスティーナの言うことには全部で六つあるそうなのだが、イヴィジア王国で二つ、神王領クエビアに一つ、サエナード王国に一つ、と順調に『精霊の座』の存在が確認され、それらが破壊されたという報せが届く。

 順調すぎて少し怖いぐらいだ。


「……この分なら一つぐらいレオナルドが帝国で見つけて、ついでに破壊して帰ってくるんじゃないか?」


「あー……今のレオナルド様だったら、なんでも破壊できると思います」


 一緒にいた山賊から聞いた話になるそうなのだが、レオナルドはついに熊を拳で屠ったらしい。

 常々人の常識から外れた怪力を持つ男だと思っていたが、私の認識はまだ甘かったようだ。

 イヴィジア王国の騎士であるため、国内では軍神ヘルケイレスの化身だなどと謳われているが、隣国でのレオナルドの呼び名は破壊神コヨルナハルや死の神ウアクスといった不吉なものが多い。

 これまではどう呼ばれようとも所詮は負け犬の遠吠え、と笑っていられたのだが、いよいよ冗談では済まなくなっていた。


 ……クリスティーナを取り戻すまでは、止まらないのだろうな。


 そもそもはクリスティーナを攫ったズーガリー帝国の貴族が悪いのだが、レオナルドを放ったことだけはやりすぎたかもしれない。

 とはいえ、攫われたのはレオナルドの妹なので、レオナルドの中に『グルノールでおとなしくクリスティーナの救出を待つ』という選択肢は初めからなかっただろう。

 クリスティーナに手を出した愚か者が悪い。

 熊を拳で屠るような男に一発や二発殴られても、それは自業自得というものだ。


 ……いや、二発目はないか。熊を屠るようじゃ、人間は一発で死ぬ。


 今頃はすでに死んでいるかもしれない誘拐犯に、そんな筋合いはないのだが冥福を祈っておいた。







「さて、問題は帝国からの脱出か」


 ズーガリー帝国内側の詳しい地理はわからなかったが、イヴィジア王国側と、かつてイヴィジア王国の領土であった町や村についての地理は資料が残っている。

 簡単に纏められた地図を今はランヴァルドが使っている執務机へと広げ、実際にズーガリー帝国を移動してきたコーディの助言を受けて地図に追記しつつ、頭を捻る。

 コーディの持って来た手紙は、書かれてからふた月は経っていた。

 レオナルドたちの足取りについては、こちらで少ない情報から行動を読むしかない。


「普通に考えればメール城砦から戻ってくるはずだが……、ヴィエンヌ湖を泳いで渡るのも面白そうだ」


「追っ手を撒きつつの逃走なら、山道を通ってくる可能性もあります」


「いずれにせよ、必要なのは帝国側の国境を手薄にすることだろう」


 帝都トラルバッハにいるらしいクリスティーナを確保して、最短でグルノールの街へと戻る道を模索するのなら、国境の砦は無視する。

 可能性としては不可能としか思えないが、エラース大山脈を越えることができれば、それが最短の逃走経路だ。

 夏でも雪が残るエラース大山脈は、クリスティーナの体調がたとえ万全であっても、越えることは不可能だったが。


 エラース大山脈を越えることは、健康な成人男性であっても難しい。

 そのため、エラース大山脈近くにグルノール砦はあるが、ズーガリー帝国からの侵略についてはそれほど備える必要がない。

 ズーガリー帝国側の兵士自体が、エラース大山脈を越える前に隊列を維持できなくなって瓦解するのが判っているからだ。

 国防の要となるレオナルドがグルノール砦へと配置されているのは、グルノール砦が三国の国境が面する位置にあり、かつ他の三つの砦への距離がほぼ均一だからだ。

 他の砦で異変があった際に、グルノール砦からならすぐに駆けつけることができる。


 さて、どこを手薄にしてやろうか、と地図を覗き込む。

 国境が手薄になるよう誘導するのは簡単だが、イヴィジア王国と面する国境のすべてを手薄にすることはさすがにできない。

 ここにレオナルドが現れるはずだ、と先を読んでその場の守りを手薄にさせる必要があった。


「クリスティーナには療養が必要らしいから、あまり無茶な道は通れない、と」


「となると、山や森は通れませんね」


「一度アウグーン領へ寄るようだから、むしろクエビア側の国境を越える方が楽な気がするな」


「それだと、イヴィジア王国側の国境へ兵士を集めれば、逆にクエビア側の国境が手薄になります」


 神王領クエビアについては、国の性質上それほど国境に兵士を置く必要はない。

 ズーガリー帝国から神王領クエビアを侵略することがあったとしても、逆はないのだ。

 神王領クエビア側からの脱出を図るのなら、イヴィジア王国側の国境へとズーガリー帝国の兵士を集めればいい。

 国境のどの辺りから抜けてくるか、などと頭を悩ませる必要もなくなるのだ。


「……コーディにもう一度行ってもらうか」


 どう足掻いてもしばらくはアウグーン領で療養をする必要があるのだから、あと一度ぐらいはこちらから手紙を送ることができるだろう。

 コーディには何度も申し訳ないが、旅の商人としての身軽さをまた役立たせてもらいたい。


 ……コーディへの礼は、クリスティーナが戻ってきたら一度ゆっくりと相談した方がいいな。

これで前回の塔へ運ばれたものが『精霊の座』なら、全部で六つのうち五つの所在と破壊が判明しました。

あとの一つはどこにあるのでしょうね(すっとぼけ)


誤字脱字はまた後日。

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