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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~  作者: ありの みえ
第5章 再会と別離

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功爵とお父さんのお父さん

 なんとなく貴族という人種は高貴な血がうんぬんだとか、人を人とも思わない居丈高な人間ばかりなのだろう、と思い込んでいたが。

 アルフの説明によると、どうも私の思い込んでいる『貴族』とこの国の貴族は違うようだ。


 まず爵位は大きく分けて五種類。

 王爵、杖爵、忠爵、華爵、功爵というらしい。


 この中で、いわゆる『貴族』は杖爵だけだ。

 ただし、これも古くから続く血を守っている一族という理由ではなく、長く続く貴族家と考えた方がいいらしい。

 長く続いた経験と信頼と知識の蓄積があり、時には王にも知恵を貸す役割を担うことから、賢者の持つ杖が爵位の元になっている。


 王爵は簡単に理解すると、爵位を持った王族ではなく、政治に関われる能力をもった王族に与えられる爵位だ。

 少しあべこべな気がするが、王族であれば誰でもなれるものではなく、王に必要な教育をすべて修め、政治に関わる能力と才のある王の子どもと孫に与えられる。

 王爵の位を頂いたあと、十年以上領地を問題なく治められて初めて王位継承権が認められる仕組みになっているのだとか。


 忠爵は爵位の力関係的には丁度真ん中にあたる。

 意外なことに爵位を得た貴族のスタート地点が忠爵らしい。

 下位から上がっていくのではなく、真ん中から上がるか下がるかだ。

 何代か領地を問題なく経営できたり、大きな功績を挙げると杖爵へと上がり、領民をないがしろにしたり、罪を犯すと華爵へと落とされる。


 華爵は一番下位にあたる。

 ここまで来るとほとんど没落貴族扱いと言っていい。

 領民を虐げ、貴族という地位に胡坐をかいて驕ってしまった者へ与えられる最後の機会、というのが他の貴族の理解するところらしい。

 三代以内に領民との信頼関係を取り戻すか、なんらかの功績を挙げなければ爵位を没収され、一族もろともに平民へと落とされるのだそうだ。


 そして功爵は、文字通り功績を挙げた者に贈られる名誉称号に近い。

 貴族として扱われるが、爵位として親から子へと受け継がれるのは三代限定となっている。

 その三代のうちに新たな功績を挙げれば忠爵となり、曾孫の代以降も貴族と名乗ることが出来るようになるのだとか。

 忠爵になれば、あとは他の忠爵と同じだ。

 功績を挙げれば杖爵に、罪を犯せば華爵へと落ち、三代以内に持ち直せなければ平民に逆戻りとなる。


 ……貴族、大変だ。なんか、思ってたのと違った。


 アルフの簡単な説明だけだったのだが、それでもこれだけは解った。

 この国の貴族は大変である。

 貴族に生まれた、と生まれだけで威張って民を蔑ろにすれば、簡単に下位へと転がり落ちる仕組みになっていた。

 むしろ、常に姿勢を正し、領民の目に映る自分の姿を意識しながら生活をしないといけないだとか、気苦労の方が多そうである。


「貴族って、生まれで威張ってるな人だと思ってました」


「物語の悪役みたいな貴族もいるにはいるよ。そういうのは華爵に多いな」


 すでに功績を挙げることも、領民からの信頼回復も諦めているため、爵位を持つ者からは軽んじられ、平民相手にしか威張れないのだとか。


「……ティナは、家に帰れば大事にされるよ」


「家?」


 私の家はレオナルドの家である城主の館だ。

 すでに充分大事にされている、と首を傾げると、アルフは困ったように眉を寄せた。


 ……あ、家は家でも、お父さんの実家ですね。


 言いたいことを私が理解したのがわかったのだろう。

 アルフは父の実家について少し話してくれた。


「ティナの家は、功爵だったよ。ティナが丁度三代目で、病弱な従兄弟が一人いるが、伯父や伯母は誰もいない」


「功爵の三代目っていうと……わたしの子どもは平民ですね」


 丁度いいのでこのまま黙っていましょう、と提案したのだが、アルフにはやんわりと流された。

 面白くないことに、レオナルドはこの話題について口を挟む気はないようだ。

 おそらくは、言い出しにくい話題だったので、このままアルフに任せようと思っているに違いない。

 その証拠に、レオナルドは私と目が合うと気まずそうに視線を逸らした。


「……状況的に、祖父殿がティナの存在を知ったら、必ず迎えに来ると思う。ティナを今から鍛えて騎士にするのは難しいけど、病弱な従兄弟に功績を取らせるよりは、ティナを跡継ぎにして功績を持った婿を取らせる方が確実に忠爵へと昇格が決まるからね」


 ちょうど功績を持った婿として人気の男が側にいる、と言ってアルフはレオナルドを示す。

 レオナルドは王都にいた頃、功績持ちの婿がねとして功爵家の間で取り合われた経験があるらしい。

 功爵家より上位の杖爵家から養子縁組の話があったり、姫君との縁談が持ち上がったりとで、新興貴族の立ち位置でしかない功爵家は引き下がるしかなかったようだが。


「レオのお嫁さんはともかくとして、それ完全に政略結婚じゃないですか」


 政略結婚なんて嫌ですよ、と言ってみる。

 まだまだ結婚だなんて話には実感が湧かないが、苦労をしても好きな人と添い遂げたい、と実行した両親を見て育っているのだ。

 愛のない結婚などお断りである。


 ……ちょっとお祖父じいちゃんと従兄弟には興味あるけどね。


 ほんの少しだけ、血縁者というものに惹かれはするが。

 惹かれた結果が政略結婚の道具にされる、という未来なら、やはり近づかない方がいいだろう。


 ずっとレオの妹でいますと続けたら、聞こえない振りをしていたレオナルドの顔がだらしなく緩んだ。

 食事中でなければ足を蹴っているところだ。


「病弱な従兄弟がいるんなら、健康なわたしはいない方がいいです」


 こちらの方が健康だから、と元々いなかった私のせいで従兄弟の扱いが悪くなっては可哀想だ。

 それに、私にとっては会ったこともない祖父や従兄弟である。

 息子ちちに逃げ出されるような父親そふになど、今さら用はない。


 ……ひと目ぐらい見てみたい、とは思うけどね。


 少し思うが、それだけだ。

 慕わしい気持ちなど、当然湧いてはこなかった。


「アルフさんは、お父さんのお家について詳しく調べたんですか?」


「詳しくはないよ。少し調べれば判る程度のことぐらいかな」


 やはり気になるのか、と聞かれたので、祖父母について聞いてみた。

 こちらから近づく予定はないのだが、それでも少しは知りたいと思ってしまう。


「ティナのお祖母ばあさんは六年ほど前に他界されている。祖父殿は……殺したって死ぬような人じゃない、かな」


「殺しても死なないって……アルフさんはお祖父さんに会ったことがあるんですか?」


 口調的に、なんとなくそんな気がする。

 他者ひとから伝え聞いた人柄というよりは、アルフ自身の感想という響きだった。


「子どもの頃に一度会っている。そうだな……エセルバート様の身内への態度と、アルフレッド様の元気すぎる元気さと、レオナルドの頑丈さを全部足して一人にしたような方だ」


「足して割らないんですか?」


「全部足してまだ足りないぐらいだ」


 王族二人に対しては言葉が多少マイルドになっているが、祖父は相当手強い人物らしい。

 特に、アルフレッドのパワフルさとレオナルドの頑丈さを足したあと割らない、というのはよろしくない。

 話を聞いただけでも、気が合いそうにないのは想像できた。


 ……うん、お父さんのお父さんとは思えない感じの人だね。


 父はどちらかといえば優男風の外見をしていたが、レオナルドの頑丈さがあるということは、祖父は大柄な人物なのかもしれない。

 そこにアルフレッドの人間台風ともいうべきパワフルさが加わるのなら、一度つかまったら逃げるのは不可能と考えた方がいいだろう。


 ……ひと目見てみたいとか、下手なことは考えない方がよさそう?


 まだ見ぬ祖父の近づいてはいけない雰囲気だけはよく理解できたところで、この話はお開きとなった。

 というよりも、私のあまりの拒絶っぷりに、アルフが話題を変えてくれただけな気もする。







 久しぶりの自分のベッドは、少し狭い気がした。

 気がするのではなく、実際に狭いと思う。

 主に、巨大な熊のぬいぐるみジンベーの存在のせいで。


 食事が終わった私は、早々に自室へと籠もった。

 私の部屋はカリーサやタビサが整えてくれるので、すぐにでも寝ることが出来るが、カリーサは違う。

 離れに部屋が用意されているとはいえ、寝るためには多少の掃除や荷解きが必要になるはずだ。

 となれば、カリーサに自由時間を与えるためには、子どもの私は早めに寝てしまった方がいい。


 すでに馴染みつつある猫耳を外して入浴を済ませ、ジンベーの待つベッドに入る。

 見上げるとこちらを覗き込んでいるように見えるジンベーの顔があり、本当にグルノールに帰って来たのだな、とホッとした。


 ホッとして、気が緩みすぎたのかもしれない。


 もしくは旅の疲れが溜まっていたのだろう。

 目を閉じて十秒もしないうちに眠りに落ちたのはよかったのだが、翌日から見事に体調を崩した。

 休めば治るだろう、と寝ているうちにドンドンと熱が上がっていく。

 冬の間に最後の一つの砦も視察してこなくては、と申し訳なさそうに言うレオナルドを見送ろうと毛布に包まって玄関まで下りたら、さすがに怒られた。

 すごい剣幕で怒られた。

 思わず泣いてしまったら、今度は怒りながらも部屋へと抱き運ばれた。

 風邪が治るまでは部屋に仔犬を入れてもいいから、ベッドから離れないように、と。


 私がベッドで寝込んでいる間に、カリーサの屋根裏部屋への引越しは終わってしまったようだ。

 手伝いをする間もなかった。

 カリーサの部屋は、私の部屋の隣らしい。

 いつだったか日本語の研究本を見つけて、みんなで箱の中を改めた部屋だ。

 あの部屋からいらない荷物を出し、小さな薪ストーブを持ち込んだのだとか。

 秋に屋根裏部屋で私は風邪を引いたのだが、やはり薪ストーブを導入すれば冬でも過ごせるらしい。


 ……早く風邪を治して、カリーサの部屋に遊びに行こう。


 もしくは、レオナルドから鍵を取り戻すのが先だろうか。

 レオナルドが鍵を返すと約束してくれた春は、もう少しだけ先だ。

昨日書ききれなかった分なので、今日は短めです。


ちなみにアルフレッドは王爵だけど領地経営の年数が基準に満たないのでまだ王位継承権認められていなかったり、第二王子はそもそも政治に興味なくて王爵もってなかったりします。


誤字脱字はまた後日。

誤字脱字、見つけたものは修正しました。


21日の更新はお休みいたします。

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