プロローグ
自分は前世で侍だった、だとか。
異国の人柱にされた村娘だった、だとか。
オカルト系のテレビ番組は、けっこう好きで見ていた。
けれど、特に生まれ変わりだとか、幽霊だとかを信じていた理由ではない。
なんとなく興味を惹かれるから。
ただの惰性で、家に帰ったらテレビをつける。
自分以外の立てる音がほしい。
理由としてはそんなところだ。
決して、番組内容を信じていたわけではない。
その手の番組では『母親のお腹の中にいた頃の記憶がある幼児』というものも度々扱われていた。
今、自分が体験しているものも、きっと『ソレ』だろう。
暗くて息苦しい。
でも、心地よいぬくもりに包まれていて安心もしていた。
轟々とうるさい音が一日中聞こえる。
轟音に混ざって、愛おしげに何度も呼びかけられた。
時折、優しく撫でられる。
ずっとこの温かで、心安らかに過ごせる場所にいたい。
このまま穏やかに過ごしたい。
そう思っていたのだが、『その時』は突然やって来た。
狭い場所へと押し込められて、何時間も『そこ』にいた気がする。
母の苦悶の声がずっと聞こえて、少し遠い位置から母を励ます別の声が聞こえた。
ああ、ついに産まれるのか。
そんな感動は微塵もない。
狭くて、苦しくて、母の苦悶の声が響き続ける産道は、まるで地獄のようだった。
こんな辛い時間が続くのなら、いっそ生まれたくはない。
そう思っていたのだが。
一瞬で世界は白く染まり、明るさに包まれた。
ずっと全身を締め付けられて苦しかったのだが、それももうない。
慌てて酸素を吸い込もうと口を開くと、盛大な産声が響き渡った。