櫻子の企画
人は時に、非情な選択肢を選ばなければならない事もあるだろう。前田櫻子は、そう自分に言い聞かせながら、新たな企画のプレゼン資料を整える。国立大学の農学部を卒業し、大手製菓メーカーに採用されて3年。かねてからの希望だった企画部へ異動になってからの初めてのプレゼン。櫻子はとても張り切っていた。
「昼休みくらい、休んだらどうだ?」
企画部部長、田辺雄三が珍しく部下を気遣う。
「ありがとうございます。ですが私はまだまだ未熟者なので、人一倍頑張ります。」
「程々にな。」
「はい。」
その後も順調に資料を整え、帰りに懐かしい場所に寄ることにした。
―――――
いよいよ、新しい企画のプレゼンの日がやってきた。
企画のテーマは和菓子の新商品開発。
巷では、じわじわと和菓子人気が出ているらしく、早めにその波に乗ろうという魂胆だ。
先輩社員が次々とプレゼンを行う。どれも、きらきらした和菓子と洋菓子を織り交ぜたような、そんないかにもブームメンティックなものばかりだ。
櫻子の番が来た。
「私の提案する新商品。それは……団子です。」
スクリーンに写ったスライドには真っ白な、誰もが想像する、団子の儚げな姿がある。
活発に意見が飛び交っていた会議室に、団子の丸みに全く似つかない鋭利な空気が流れる。
「ただの団子ではありません。この団子は、私が幼い頃によく訪れていた「すずや」という小さな団子屋の団子です。」
「その団子をどうするつもりかね?」
田辺が呆れた口調で言う。
「はい。その前に、1度皆さんに食べてもらおうと思い、すずやの団子を買ってきました。」
櫻子は皆に団子を配る。
櫻子の勢いに流され、田辺が真っ先に食らいつく。続いて他の社員も食らいつく。
「なんだこれは……?」
一同、あまりの衝撃に言葉が出ない。
「わかってもらえて良かったです。」
「端的に言うと、私の企画はすずやを買収すること。すずやの団子の製法はすずやのおばあさんしか知りません。しかし、とても小さな団子屋なので幸いなことにほとんど存在を世に知られていません。」
「つまり、買収して我が社のオリジナル商品としても、問題ない。」
田辺はにやけるのを我慢しながら言う。
「はい。」
満場一致で、櫻子の企画が採用された。




