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New History  作者: 鷹野悠乃
第一章
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プロローグ

「所長、所長。起きてください」


 誰かが僕の体を揺さぶる。意識は覚醒しかけているが、昨日の徹夜が響いた。その為かまぶたが重い。


「死にたいんか。 起きろボケ」


体に受ける冷たい衝撃と、顔が濡れる不快感から僕の瞼の重りは何処かへと飛んでいた。


「うぅ、コーヒくさい……」


 どうやら徹夜する為に置いておいた、飲みかけのアイスコーヒーをかけられたようだ。



「目ぇ覚めたんか。こっから避難すんぞ」


「やだ、ミユキ君怖い。それにベトベトする」


 ふぅ……とため息をついた藤堂美雪とうどうみゆきが僕に微笑みながら言った。


霧島きりしま所長、サバイバーがここまで進行して来ました。所内は警戒レベルEです。あと、ベトベトしてるのは貴方です」


「やだ、藤堂君…… 目が笑ってない。怖い」


「さっさと動けや。はっ倒すぞ。オラ」



 僕がなかなか動かないからか、僕の言葉が彼女の逆鱗に触れたのか解らないが、彼女に腕を引かれて執務室から出た。



「アカリさん達は、無事避難したのかい?」


「アカリ先輩は多分、Esユニットの所だと思います」


「そう、まずハルカさん達と合流しようか」


「分かりました。3番通路は隔壁が下りてるので8番通路から迂回して下さい」



 状況はかなり切迫してる様だった。

 所内には対サバイバー用に戦闘用インテンダーと呼ばれる合成人間が配備されている。

 それでも対処に追い付かず所内に侵入されていた。



 8番通路からEsラボに向かっていると霧島陽莉あかりと合流することができた。


「ハルカさん。良かった、無事だったんだね」


「えぇ、大丈夫よ。アキハル君も無事でよかった」


 そういって僕達は抱き合った。


「う…… なんか、コーヒーくさい。しかも、ベトベトする……」


 アカリはジト目をしながら僕から離れた。


「ひ、ひどい…… 心配して探してたのに」


「所長も、アカリ先輩も今はそんな事してる暇ないですよ。 急がないと!」


「そ、そうね。 避難しないと。 でも、アキハル君が余りにも……」


 どうも女性陣は僕に当たりが強い。

 どうにか話題を変えなければと思いつつも、流暢りゅうちょうに話している暇は無かったので必要なを聞くことしにた。


「アカリさん、ハルカとヒナタは? 」


「Esユニットは、地下シェルターのラボに移せたわ。アキハル君の夢はまだ続いてる」


「アカリさん、あの子たちは私達の娘なんだよ。 それを、物みたいに」


「今その事を話してる暇なんてないわ。 無事避難できたらつきあ…… 」


 アカリさんが言い切る前に、通路が爆発した。

 大きな爆音と共に、散弾の様に弾け飛ぶコンクリート片。

 通路には大きな穴が開き粉塵が舞っている。


 爆発した場所は、僕と離れていた為無傷ですんだ。

 爆音から意識も手放さずに済んだが、突然の事で呆けていた。


 そして……

 粉塵が止んで目の前に現れた光景は、最悪のもだった。


 先ほどまで僕と話していたアカリさんには、背中にコンクリート片が刺さり、僕の手を引いていた藤堂君は壁に叩きつけられて頭から血を流していた。


「アカリさん、藤堂君…… 大丈夫かい……」


「うぅ…… すこし頭をぶつけたみたいですが大丈夫です。 それよりもアカリ先輩が」


「アカリさん…… アカリさん……」


 そう言って僕はアカリさんの側に駆けよった。

 けれどアカリさんは動かない。



九条くじょう、木偶人形はいないみたいだぞ。 おっと、鈍間のろまがいたァ」


 そう言って穴の開いた通路から大柄な男と、髪の赤い細身の男が出てきた。


「おい、お前。食糧庫は何処にあるんだァ?」


 通路を爆発させたのはこいつ等だ。何か言ってやりたいのに、僕の口からは言葉が出ない。


「しょ、食糧庫は。この通路をまっすぐ行って突き当りを、左に曲がれば食堂があるので、その隣です」


 僕の代わりに藤堂君が説明した。涙目になりながら、大きな声で。通路の先を指さしながら。


「なっさけねぇオッサンだなァ。女に言わせて恥ずかしくねーの? ちょっと、死んどくかァ」


 そう言った大柄の男の腕が膨れ上がった。

 それがサバイバーとしての彼の能力なのだろう。こんな時でも僕の頭は状況を分析する。

 身体強化系の能力。しかも腕特化か……

 名付けるならば剛腕爆砕とでも言えばいいだろうか。

 さっきほどの爆発もその能力で壁を殴りつけて吹き飛ばしたのだろう。

 サバイバーの能力に、ただのコンクリート壁が耐えられるはずもないか……


「どうせ死にかけだ。 ほおってけ。 それよりインテンダーが来る方が面倒だ」


 九条と呼ばれていた男が、大柄の男にそういって止めた。


「ハッ、命拾いしたなぁオッサン」


 そう言い残して二人は通路を走っていった。



「アキハル……く……ん…… 」


 アカリさんの血に濡れた手が私のほほに触れる。 

 さっきまで、言葉を紡げなかった口から嘘のように声がでた。


「アカリさん! よかった。意識がもど」


「アキハルくん、私はもう駄目みたいだよ」


 僕が言い切る前に、小さな小さな声でアカリさんはそう言った。

 ゴッホと咳き込むように吐血して。


「あぁ…… あぁ…… 大丈夫だよ。 アカリさん、すぐソコに医療設備がある。 助かるよ」


「私は悠陽ゆうひないがしろにするみたいで、あの子たちを愛してやれなかった。 ご……めんね。 でも私は自分の夢を…… 追いかける君の姿が好きだ…った」


 そう言い残して僕の頬から、アカリさんの手が落ちた。


「所長…… こんな状況では医療設備を使えるかどうか…… 」


「彼女を見捨てろっていうのか! 」


「す、すいません」


 僕の肩に触れかけた藤堂君の手がびくっと引くのを申し訳なく思いながら、叫ばずにいられなかった。



「そうだ! 地下のラボに行けば、ガーディアンシステムがある。 彼女を助けられる。 藤堂君、ラボへ行くぞ」


「所長…… まさか、アカリ先輩の魂をガーディアンに書き込むきですか!? 」


「あぁ、体が駄目でも魂が生きていれば……」


「そんな、まだ実験段階の研究を…… 倫理的に問題がありますし、それに上手くいったとしても先輩が喜ぶとは……」


 藤堂君が止めようと僕に言ってくるが、それを聞くわけにはいかなかった。

 僕の夢の中にはアカリさんも居たのだから。

 何かが一つでも欠けては達成できない夢。


「それでも、僕は……」


 そして藤堂君はそれ以上何も言わず、僕たちは地下のラボへを向かった。

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