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廊下で消えた少年を見届けてから、俺たちが部屋に戻るとナナちゃんは怯えているように座り込んだままだった。
「ねぇナナちゃん。君はこれからどうするの?」
コウタが問うが答えない。
「......なぁ、」
俺も声をかけるが彼女は真っ青な顔のまま、口を押さえて首を横に振る。
(打つ手無し、か)
多少のつまらなさにも似た感情を覚えて戸惑うが、きっとこれはあの体に入る代表者として、一番有力と思っていた彼女に対する失望だろう。こんなんでこの先、ここから出てからも本当に大丈夫か?
「おーいホラさーん! んな子見てるよりこっち来てよ! 柩のなかに面白いものがあるよー!」
コウタは早々にナナちゃんに対する興味を失っているようで、部屋の探索を再開させている。
コウタの言う『面白いもの』とは、柩のなかに詰まったノート、アルバム、子供服だった。
子供服はどれも女児向け。アルバムやノートの表紙もピンクやオレンジ、暖色の地にリボンやレースの柄があり、これらの持ち主は女の子であることがはっきりしていた。
「......なぁ、これらに見覚えあるか?」
アルバムの写真を広げてコウタに聞くと、奴は考え込むような表情を作って見せてから、ぱぁっと目や口を開けて、言った。
「ないよ! ......まぁ、正確に言えばよく知ってる顔があるけど、この写っている人は僕じゃなくって、タカハシクンっていう人だと思うし」
「そうか......」
知らないならさっさと言え。いちいち表情作るなとか言いたいが、きっと言っても変わらないだろう。この数時間でいつのまにか、奴に対する耐性が俺にはついていた。
アルバムを埋める写真には、飄々とした表情の青年ーーコウタの証言いわくタカハシクン、この斎場で弔われている男が写った写真が多かった。
表情はどれも優しそうな顔、笑っている顔。怒っている顔泣いている顔、怖い顔の写真は一枚もない。
写真としてはそれが普通か? でも、ここに貼られた写真は全て日常生活の記憶を切り取ったようなスナップ写真だ。不意打ちのように取られた写真の全てに優しい顔を向けることが可能だろうか。
考え込んでいると、コウタがざっくりと結論を出した。
「ふぅん、この写真撮った子は、きっとタカハシクンに大事にされていたんだろうねぇ」
「?」
「だって、この子にいつだってこんな優しい顔を向けているんだから。もし、これらがこの体の子の記憶を写した写真だとしたら、記憶を唯一持っていたっぽいあの少年がタカハシクンを狂信したのは当然な気もするよね」
「お前、あの話信じるのか?」
俺は驚いて奴に振り向く。その反応に逆に驚いたようなコウタの手には武器になりそうなものはなく、せいぜい角をぶつけて俺を痛がらせるしか出来なさそうな薄いノートがあるだけだった。
ふと、俺はコウタの背後でナナちゃんが動いたのを見た。斎場を出てどこに行くのだろうか。コウタは彼女が出て行ったことに気づいているだろうか。きっともう奴がナナちゃんに興味を持つのは、俺を倒して二人きりになった時だろう、コウタはそのまま話を続ける。
「信じる信じないって話じゃないよ。もう、一人が殺されちゃったんだもの。殺してもなんのペナルティもないし死体は勝手に処理されるし、常識による歯止めは効かない。そんな少人数型デスゲーム世界では、やられるまえにやれの鉄則があるんだ。あ、ホラさんノートってたくさんあるみた」
ばん、と乾いた音が奴の言葉を打ちきった。




