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 ゴポ、ゴポ、ゴポ......

 すぐ近くで鳴る水音で目が覚めた。ぐるぐると回る視界にくらくらする。まるで大きく深いプールの中に沈んでいるようだ。でも、それだけにしちゃ不安定過ぎる。ぐるぐる回っているのがずっと続いて、いつまで待っても足が地面を掴まない。いや、自分に......おれに、足なんてあったっけ。

 考え込んでいると、突然人の声が水を揺らした。

「ようやく起きたか......おい、お前オレの声が聞こえるな? 聞こえたら一回眉を動かせ」

「......?」

 突然聞こえた声におれはぼんやり従った。どこを向けばいいか分からないが、とりあえずおれの顔が向いている方向に向けて、眉をひそめて見せた。これが正解だったらしい。人の声は嬉しそうに言葉を続ける。

「よし、聞こえているな......なら、今度は体を安定させろ。自分がその場に止まって、まっすぐ前を向いているところを思うんだ。ここはまだ精神世界だ、自分の状態は思いのままだ」

 無茶言うな、と考えたがおれはまた従った。つまりは夢を見ているときの要領だ。おれはちゃんと立っている。今、おれが向いている方向が正常だ。異常なのは周りだ。惑わされるな、おれ。

 ......ほら、視界が固定されてきた。

 体が安定して落ち着けるようになると、次第に辺りの様子が見えてくる。

 例えば、おれがいつの間にやら液体の中に沈められていること。透明度の高い、水のような液体の向こうになにか機械が三つ見える。SF世界から出てきたような、成人が入りそうなサイズの培養漕。ミュータントを育てる場面でよく見る、液体を満たした太いガラス管。今、おれは似たようなものの中に入っているに違いない。

 そして、最後におれは目の前に立っている人物の顔を視認した。

 歳のころ十代後半。明るい茶髪に中性的な顔立ち。さっきまで見ていた気がする顔だが、奴よりも思慮深げで賢そうな面持ち。ってか、彼は......

「高橋くん!?」

 驚きでつんのめったおれはしたたかにガラスに頭をぶつけた。

 馬鹿みたいなおれに、少し引いたように一歩後ずさった彼は姿勢を正してから首肯する。

「......まぁ、そうだな。お前はアレか、小さい頃の『あいつ』か。いや、『小さい頃のあいつを守る』人格ってところか。初めまして、と言っておこう。お前は......」

「おれには竹下リュウっていう名前があったんですよ! でも他の奴らはおれを切り落とすわ話を聞かないわ言うこと聞かないわで名もなき少年呼びが最期までッ......!」

 言葉に詰まると、高橋くんがため息をついて吐き捨てるように言う。

「......エゴいなぁ」

「?」

 反応してしまったのが間違いだった。おれの微かな

「名前を呼んでほしかったのなら、何故他の奴らに名乗らなかった? そもそもお前は『代表者』をやる気なかっただろう。脱落することが分かっていた癖に......いや、分かっていたのなら何故事前に溶けなかった? そもそもオレが死んだくらいで何故分離した? 」

「う、ぅ......だって、あいつら......うぅ......!」

 高橋くんの言葉に、心の柔いところがほじくり返される。名乗るのも溶けるのも怖かった、脱落するのは分かっていた、意味がなくても他の奴らを一目見てみたかった。でもそれを正直に彼に言うのもとても怖い。何を勘違いしていたのだろう、彼は『オリジナル』の復活の為にこの実験を始めたのだ。鼻がツンと痛くなった。おれは『オリジナル』と高橋くんとの記憶を唯一引き継いでいる人格だが、おれは高橋くんの友人じゃない。涙は周りの液体に紛れて見えなくなるが、どんな顔を自分がしてるか見ずとも描写できる。理不尽に泣く、くそガキだ。

 そんなおれに、高橋くんが止めを刺した。

「寂しかったんだろう」

「!」

 ぼろり、とおれの左目から大粒の涙が生まれ、培養液に解けた。

「せっかく自我を得たのに、その直後にユングの言う『心の海』......無意識のずっと深い所に沈ませられて。そのあと起きた問題も、見ているだけしか出来なくってその無力感に絶望していたんだろう。だから、自分の存在を認められる今は、どうにか自分の思う結果にするために頑張ったんだろう? 経験値足りなくて失敗したが」

 そうだった。おれは、いつでもこう思っていた。

 切り落とされて、皆に忘れられるなんて。

 そんな、そんなの()()()()()()

 ぼろぼろ泣き出すおれに、高橋くんは再び追撃してくる。

「お前達は、皆エゴイストだ。流石は一つの人格から分かれた分裂人格共だ。その中でも一番最初に切り落とされて、一番幼いお前はそのエゴイズムを上手に繕うことが出来なかっただけだ。それがお前の限界だっただけだ。お前はよく頑張ったよ」

 もうやめてくれ、おれのライフはもうゼロだ。オーバーキル、もうこのままじゃ思い残しを全て失い実験終了を待たずにきっと溶けてしまう!

 高橋くんの優しい言葉に恐怖を感じていると、不意に彼は奥にあるモニターを向いて言葉を止めた。......ふぅ、成仏するかと思った。

 何回か深呼吸して心を落ち着かせた。

「あっちの奴らに、何か動きがあった......ンデスカ?」

「無理に敬語使うことはない......とうとうバトルロイヤルらしくなっただけだ。......ああ、そうそう」

 高橋くんは再び振り返った。

「うっかり死んじまって、悪かったよ」

 ぼろり、と今度はおれの凝り固まった中身が解けた感がした。

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