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そうだ、俺とコウタが手を組んだように、同年代のこの二人が手を組まない訳がなかった。俺たちはこの二人と殺しあう気はないが、彼らも俺たちを殺さないという保証はなかった。俺たちがするべきは探検の前に、図書室に戻って二人と話して、状況を。俺たちの考えを四人で共有するべきだった。
ナナちゃんが抱える手榴弾を前にして、これまでの反省が走馬灯のように流れた。そして、続いて来るのが死への恐怖。今更かよ、と思うが......いや、違う。怖いのは俺が死ぬことじゃない、というかここで脱落しても俺が死ぬとは消えるとは、今でも思わない、思えない。
怖いのは俺が、何も把握できずに脱落することだ。これがとっても、いらいらするくらいに怖い。でももうどうにもならない。
そう考えながら目をきつく閉じ、もう避けられない終わりに備える。
目をつぶったのみで助かるとは思わないが、せめて最期まで正気を保っていたかった。
......。
............。
................................................?
いつまで待っても終わりは来ない。いぶかしんで目を開けると、ナナちゃんはまだピンを抜いていなかった。
「......む、無理だよ......」
真っ青な顔のナナちゃんは、そう呟いて首を振った。
「もう、さっさとやってください!」
少年がいらいらと叫ぶ。しかしナナちゃんはピンすら抜けない。
がくがく震えて冷や汗をかく。どう見ても彼女は怯えていた。俺たちを殺す事に恐怖している。
「早くしないと、こいつらはあなたを殺しちゃいますよ? それでもいいんですか!?」
「わた、私死にたくない......でも、殺しちゃうのも嫌だぁ......!」
「わがまま言うな! 大人しくピンを抜いて、投げ込んで、ドアを閉めるだけだろ!」
「嫌だ!」
ナナちゃんは小さな駄々っ子のような口ぶりになっていた。もし、少年がコウタを押さえていなければ、少女の頬でも殴っていただろう。俺はこっそり立ち上がり、ナナちゃんに近づいた。
「!?」
怯える少女の警戒心を解くように、俺はニッコリ笑って見せた。
「あー......まずは落ち着こう。その、危ないモノは渡してくれ......そして俺たちの話を聞いて、くれないか」
「......」
少女の瞳がふらっと動いた。チャンスを見つけて、俺はゆっくり話を続ける。
「なぁ、信じてくれないか。俺たちは、そっちを傷つけるつもりは毛頭ない。手榴弾を渡されたら、廊下の誰もいないところで爆発させる。そのあとにまた話し合おう。だから......」
「ああああもー! 」
少年が吠えた。
「人格の残り滓がいっぱしに、自我持ったふりして判断してんじゃねぇよ!!」
少年が飛び出してナナちゃんに突っ込む。
「アンタはおれの言うこと聞いてりゃいいんだよ! そうすりゃこんな変な世界に入り込んだり、高橋くんに心配かけたりしなかったんだ! 馬鹿!!」
エゴイスティックな少年の言葉に、ナナちゃんは怯えながらも腕をいっぱい逸らして少年から逃れようとする。少女を押さえ付けながら手榴弾を奪おうとするも、小さな子供の体では難しいようだった。もみ合う二人は廊下にまろびでた。
俺はナナちゃんに加勢しようとして「待ってホラさんッ!」
「!?」
いつの間にか、俺の腰にコウタが抱き着いていた。全力で俺を止めているらしい、重心を低くして全体重をかけている。
「今出ちゃあ、逆に危ないでしょうよ!」
俺は一瞬だけ迷った。奴相手に取り繕う必要があるか、否か......
カチリ。
迷っているうちに、背後で妙に大きな音がした。振り返らずとも状況が、コウタから流れ込んできた。
《ピン抜けた》
考える前に、俺はコウタの襟首を引ったくり、廊下に投げ込んでいた。そして頭を抱えて丸まった。
目を閉じても俺には廊下の様子が見えた。廊下にいる俺は、近くにいる誰かを引きこみ教室に入ると爆風避けになる引き戸を引く。腕の中の人物の手には手榴弾がないことを見て、俺、いやこの視界の主は会心の笑みを浮かべているだろう。
......廊下には、一番小さな人影が残されたーー少年、だ。
この視界の主は......いや、コウタは少年の最期の表情を見届けた。
《3秒、男の子は驚いたように僕らと彼を仕切るガラス窓を見る。
2秒、でももうどうしようもないよねぇ。目を閉じ自分を落ち着かす。
1秒、目を開け笑った。そうして僕に、いや僕とそっくりなタカハシクンにご挨拶。そうして、そして......》
ドゴォン。小さな手榴弾は大きな音を立てて爆発する。
部屋の壁は振動板のように、ビリビリ音を鳴らして揺れた。そのあとビシバシと何かぶつかる音がする。幸い、壁は全てを堪え切り俺たちには怪我一つない。ガラス窓も無事で、低い体制を保っていた俺もナナちゃんも、ただ突っ立っていたコウタさえ怪我一つ負っていなかった。
深呼吸して、さっきまで見ていたコウタの視界の幻覚を振り切る。
立ち上がる......よし、ちゃんと立ち上がれた。多少ふらつくがもう歩けさえする。俺はコウタのいる、教室の引き戸を開けた。
廊下には、赤い少年ダルマが転がっている。
《......どうやって片付けよう?》
「......」
コウタが心配そうに思ったが、俺は黙ってもう一度、手足を失った少年の死体を示してやる。
死体は、まるでゲームのキャラ死亡時のようにキラキラ光るエフェクトに包まれて消えゆくところだった。
「......」
「......」
時間にして十数秒。少年の体と流れ出た血液が消えて、廊下には薄い血痕のみが残された。
「......ここはやっぱり現実世界じゃないんだねぇ」
コウタが感慨深げに呟いた。




