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王子様の兄弟3

 第三王子には予知の力がある。それは王であるアスカさえも知らない。

 知っているのはゼンと本人とヤクト。

 だけど、アズサはなんとなく事情を察していた。弱虫でも、内気な性格でも魔法使いと呼ばれている彼はアースの行動はまるで未来が見えているかのように、模範的な行動をしているように見えていて、もしかして予知が出来るのではないかとは思ってはいたものの、恐らくアスカも知らないことを察し、あえてその事実を見て見ぬ振りをしていたのだ。

 でも、予知が見えるのは毎日ではない。見える時は必ず、そうなることでこの世界に大きな変化が訪れる時。その時のことを細かく脳内で映像化され、利用されることを恐れて予知の記憶でアースは一人、精神的に追いつめられていた。

 ゼンやヤクトが知っているとは言え、安易に未来を変えることはアースはしていけないことだとそう直感していた。だから、例え誰かが知っているとは言え、一人その記憶を抱えて生きていかなければならないのは変わらなかった。

 ちなみに暗殺者の存在に気づけたのはアースの実力であり、予知のおかげではない。……だから、アズサはまだ生きるべき人間だったとこれからもそう考えて生きていかなければいけないことを、アース本人が一番良くわかっていた。


 その予知の的中度はほぼ百パーセント。その予知は外れることは一度もなく、時代が変化するたびに度々見る、アースの予知には少し変わった特徴がある。

 もし、未来にいくつかの選択肢があった時、全ての記憶を見ることの出来るのかそれがアースの天性的な才能である予知の全貌なのだけど……、人には記憶を一度に覚えられるのには限りがあり、一度に記憶が流れ込んでくることはアースにとっても、とても苦痛に感じることであった。

 自分は恐らく、長生きは出来ないだろうとアースは幼いながら悟っていた。


 第四王子、アズサには生き物に好かれる力があった。妖精に愛され、動物にも愛され、自然にも愛されるその代償から“感受性”が豊かすぎて人付き合いに出来なくなってしまった。

 前世の記憶もあり、余計に人付き合いを出来なくなったきっかけでもある。

 何故、ゼンやヤクト、アースとは接することが出来るのか? ……それは明らかに穏やかで優しい目をアズサに向けてくることを自覚出来たからだ。

 そんな二人には王位につくことは向かない、だから王位を放棄した。

 ……それなのに第一王子や第二王子が敵視するのは、優秀すぎる従者がいると言うのも理由だが、何よりも本気を出せばアースもアズサも王位につける実力が備わっているから。


「……臆病だな、放棄すると言っているのに……。それほど、王位につきたい理由が俺にはわからない」


 いつ、予知がバレても良いように身につけた武術の力が第一王子や第二王子が恐れる一番の理由だった。護身術程度ならわかるが、アースはその道を極めるがごとく武術の鍛練に勤しみ、実力をつけたがために警戒されてしまっている。

 例え、第一王子が王位についてもつかなくてもアースには結論は見えていた。この国の王位に誰がつくのかも、どのように変化していくのかも全て。

 未来がわかってしまうほど、この世界はつまらなくさせる……とアースは考えながらため息をついた。


「ため息をつくなんて、珍しいものを見たものです。幸せが逃げちゃいますよ?」


 茶化すような口調で言われたこの言葉、アースにはあえて茶化すような口調で言ってくれているのがわかり、思わず自然と笑みが溢れてしまった。

 ――これだからこの世界も捨てがたいと思えてしまう。なあ、ゼン?

 この言葉を言葉にする気はないんだろう、クスクスと笑いながらゼンの顔をアースは見上げた。


「ため息をついたところで俺の運の良さなど底辺だ、たまにはストレス発散のためにため息だってつきたくなる」

「それは失礼」

「構わん。……それよりもまあ、自分の運の悪さを憎むならゼンをおいて死ぬことかな。それだけはきっと変えられない運命、“未来を覗く者”として決められてしまった人生だから。

強い力を持つべきじゃないな、あまりにその代償は大きすぎる。ゼン、辛いかもしれないが、死ぬ時までずっと側にいてくれ。そして強く生きて、悔いがないまで生きて死んだらまた俺の元へと戻ってきてくれるか? せいぜい、あまりこの世界を見たことがない俺に土産話でも作って俺の側に戻ってこい」


 ……自分の死の時期すらも悟るアースは、これが最初で最後の我儘らしい我儘だった。ゼンにとってはこれもまた、可愛らしい主の我儘としか捉えられないんだろうが、この我儘をかなえるかどうかは勿論、言わなくたってわかるだろう。主に忠実な従者は満面の笑顔で我儘に答える。

「貴方の望むがままに、アース様」

 その答えに満足げに笑い、ハリネズミのぬいぐるみを抱えるアズサを腹の上へと乗せ、アースは横になった。

 そして小さな声で、

「アズサの面倒を見るのは良いが、それ以外の人間に対してお節介のごとく世話など焼いたら……、納得する言い訳を用意しない限り拗ねてやるからな!」

 恥ずかしそうにそう呟いて、寝る! とそう断言して本当に寝てしまった。


「……言ったはずです、アース様。俺は貴方の望みだけを叶えると」


 ――何もせず、死を見守れと言われた時は流石に傷ついたけれども。

 ゼンはそう考えながら、二人の王子にバレないように涙を流したのだった。


 ……数日後。

 出張から帰ってきたヤクトにさっそく待っていましたとばかりに抱きつくアズサの様子を見て、ちらりと視線だけを向けてゼンはいかにも独り言ですよーと顔をしながら、飄々とした態度をしつつ、独り言のような小さな声で……、

「あれくらい俺の主も素直な姿をたまには見せてくれると有難いのですが」

 ゼンがそう呟けば、ふくらはぎ辺りをアースに蹴られていたのだった。



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