王子様の兄弟2
――猫みたいに気まぐれだからって、そんな話の反らし方はちょっと……。
弟であるアズサを甘やかすアースの姿を、気配を消しながら扉を少し開けてその隙間から眺めつつ、不器用な主に内心で苦笑をするゼン。穏やかな雰囲気を空気を読むことなく壊す訳にもいかず、息を潜めながら穏やかな目で見守ることにした、それを主が望んでいると感じ取ったから。
アースは確かに変わっているが、ゼンだけはわかっていた。
一番、王位の位ごとで争って欲しくないと願っていたのはアースなんだと。
だからこそ、その揉め事に関わろうとしないアズサだけはせめて、兄達のように決定に抗わないように一番可愛がり、二人には近づかせないようにしているのだとそうわかった時、ゼンはアースに忠誠を誓うことを決めたのである。
目立つことを嫌い、争い事を嫌うアースが王となれば……と望んだことも一度もないとは言い切れないゼンだが、彼が望まないのにも関わらず王位を手にするように影から手を回すつもりなんてなく、身勝手に気持ちを押し付けるつもりは毛頭なかった。
「なんで兄上達は王位を欲しがるんだ? 国は国民がいるからこそ成り立っている、そんな欲をむき出しにしながら王位を手に入れようとしたらいつかはこの国も滅びてしまうかもしれないのに……。いつかは誰か、恨まれ役をしなければいけない、それをするのは俺でもアズサでもないから変えられないかもしれない。変えられない予知を見るのは辛い。ゼン早く帰ってこい、とても虚しい」
いつの間にかアズサが眠ってしまったのか、弱音を吐くアース。
気が強く、どちらかと言えば弱音を吐くようなタイプではないアースの弱音に、ゼンは隠れてみるもんだといかにもさっき着きましたと言うように装って二人の前へと現れた。
「悲しそうな顔」
「ああ……、また予知を見たんだ。予知なんて出来ない方が良い、変えられない未来を見るのは辛い」
もう一度、ゼンの前で弱音を吐いた。
予知など見えるものじゃないとアースは傷ついたような表情をして言った。
それほど予知とは精神的に苦しめる。
だから、悪用されても困るから必死でゼンはその秘密を守るために、情報が出回らないように手を回していた。
強い能力は時に自分を傷つける。
強い能力があるからってその人生を謳歌出来るとも限らない。吸血鬼だったヤクトがそうであるように、強くても自分の力では制御出来ない強い能力など、周りから恐れられる要素にしかならないのだ。それを幼いながらわかっていたアースは、そんな自分に近づけないように変わり者を演じていた。そのことに気づいたのが従者になると決めたあの日のことである。
「俺は貴方の側にいます。例え貴方が化物と恐れられようとも、貴方の味方でいます。だから辛かったら言って下さい、立ち直れるまで貴方が望むままにお側にいると誓いましょう」
……例え、貴方が必要がないと言ったとしてもそう誓ったから。