ぬいぐるみに囲まれた王子様は魔法使い1
「アズサ様、俺が貴方の従者になったからには貴方を命をかけても守り、見捨てないと誓いましょう」
アズサはあまりの真剣な表情にゴクリと唾を飲みながらも、その言葉の意図がわかり、涙目をする。
片言でしか喋れないから、喋るのが恥ずかしく感じていて今まで喋らなかっただけで……、この場で発言しなければ後悔すると思ったアズサは、ヤクトのその言葉に対して「やっ!」と言って反論をした。その反応が意外だったのか、アスカもヤクトも驚きのあまり目を丸くする。
「命かけちゃ、めっ!
ヤクトはずっーと僕の側にいる! だからだめ!
僕も強くなる! ヤクトが命かけて守らなくても良いように強くなるの!」
木の実を溜め込むリスのように頬を膨らませながらそう言った言葉に、ヤクトは大笑いをした。
けして、守られるのが王子様の仕事だと馬鹿にするつもりは毛頭ない。
自分のことを考え、命をかけられることが嫌で強くなると言ってくれるだなんて思って見なかったから、嬉しさのあまりヤクトは笑ってしまったのだ。
「武術は無理そうですから、ぬいぐるみを生かした魔法を覚えましょうね」
そう言ったと同時に、ヤクトはアズサを守り抜き、側にいると決意した。
アズサの前でしゃがむヤクトの頭を包み込むように抱きしめて、
「いいこ、いいこ」
そう言いながらヤクトの頭を撫でた。
大人しく撫でられているヤクトの姿を見て、彼のことを良く知っている親友であり同期であるゼン シルバーは驚きのあまり目を見開いていた。
けして触れさせることがないヤクトが触れられても大人しくしていることが、彼のことを昔から良く知っているゼンは本当に忠誠を誓える人に出会えたんだと羨ましく思った。
――王子、貴方だけはヤクトが昔がどうだったとしても味方でいて下さい。
同時に、ゼンはやっと出来たヤクトの居場所を奪われないようにと内心で静かにそう祈っていた。
……例え、ヤクトが昔、人々から“人外”と呼ばれる存在だったとしても、それでも貴方はそんなヤクトに側に居て欲しいとそう願いますか?
そうゼンは内心で、答えの出ない問いを呟くのだった。
◇◆◇◆◇◆
「アズサ様、俺はズルい奴なんです」
ぬいぐるみに囲まれ、アズサは癒されていればヤクトが苦しそうな表情を浮かべながらそう言った。
アズサは「?」と疑問符を頭上に浮かべながら、「どうして?」とそう聞いた。
「昔、俺は吸血鬼でした。今は生身の人間の体ですが、今でも不味いと感じる血を体が欲する時があるんです」
……それを黙っていた俺はズルい奴です、と悲しそうにそう小さく呟いた。
その言葉にアズサは、
「僕は元人外だとしても気にしないよ? ヤクト、優しいもの」
そう言って、見たことがないくらいにアズサはとても綺麗に笑った。
それにつられるようにヤクトも笑いながら、貴方のための戦う手段を、貴方を死なせない戦う手段を俺が考え、この人が望むように強くしてみせる……とそう考えていた。