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王子様は可愛いものが好き2

 ヤクトは目を疑った。

 ……アズサの部屋には百以上のぬいぐるみが丁寧に飾られていて。

 これは幻覚なのかと目を擦った後、もう一度部屋全体を眺めてみた。

 ――幻覚、じゃない。

 ヤクトは内心でそう呟きながらも、アズサの嬉しそうな表情を見てしまえば何も言えなかった。


 ――認めてくれた!

 そんな嬉しさを込み上げながら、部屋全体を眺めているヤクトを見つめながらそう考えていたアズサ。

 アライグマのぬいぐるみをギュウギュウと効果音がつきそうなくらい、抱き締めているとアズサの目にはとあるぬいぐるみが目につき、何かを思い付いたのかその方向へと駆け寄り、少しだけ目付きの悪い熊のぬいぐるみを持ち、ヤクトの前へと「ん!」とそう言って差し出した。


「お上手ですね、王子」


 そう言ってくれるヤクトの言葉は嬉しいが、アズサがしてほしいのはこの熊のぬいぐるみを受け取って欲しい、それだけだった。意図が全く伝わっていなかったが、めげずにもう一度「ん!」とそう言って、爪先立ちをしてヤクトの方へと差し出すと……、ああと呟き、こう聞いてきた。


「その熊のぬいぐるみを俺にくれる……ってことなんですか?」


 その言葉に何度も何度も頷くアズサに、いらないだなんて言えるはずもなく、必死に渡そうとする彼からヤクトは熊のぬいぐるみを受け取って、断りを入れて事務室へと戻った。

「どうしたんだよ、その熊のぬいぐるみ」

 と、ヤクトの同期からそう聞かれ、動揺した声でこう答えた。

「……王子からもらったんだ。ん!って言って、差し出してきたんだ……」

 そのヤクトの言葉に同期は目をさ迷わせた後、動揺した声でこう一言。

「この熊、お前に似てたからくれたんじゃねーの? それか、あれだ。王子にとって言われて嬉しい言葉をくれたからそのお礼とか、……まさかな」

 ヤクトの同期の予感は見事に的中していた。上機嫌にアライグマのぬいぐるみを見つめながら……、

「あの熊に似てたなぁ。ふふっ、ちゃんとお礼出来た。僕、進歩したよね?」

 と、そう一時的に開かずの間化にし、そう呟いていたなんてアズサを囲んでいるぬいぐるみ以外誰もしらない。


◇◆◇◆◇◆


 アスカは決意した。

「……アズサ、お前には最低でも一人の従者をつけなければならない。その理由がわかるな、アズサ」

 と、白うさぎと黒うさぎのぬいぐるみを抱えながらコックリと大きくアスカの言葉に頷くアズサ。

 そんなアズサの様子に安心して、アスカは誰が良いかをとりあえず聞いてみた。


「アズサは従者にするなら誰が良い?」

 と、そう聞かれ、アズサは満面の笑みを見せながら指したのは……。

 ……ヤクトだった。

 側に居させたことがないはずのヤクトを選んだことに疑問を感じながら、見た目では判断出来ないだろうが、ヤクトは優しい人柄だと知っているアスカは、アズサが彼を従者にしたいと選んだ理由を聞いてみることにした。


「何でヤクトが良い?」

「ぬいぐるみ褒めてくれた。熊のぬいぐるみ、嫌な顔しないで受け取ってくれた。ヤクト? 優しい」


 アズサが片言なのは前世とここでは言語が違うから、覚えたてで長文で話すのが苦手なのである。

 ぬいぐるみを受け取ってくれたから優しい、その判断の仕方は正しいのかは謎だが、とりあえず可愛い息子がそう望んでいるのだからとそう思い、アスカはヤクトに視線を向けた。


「ヤクト ハルサク。君に第四王子の従者になることを命ずる」

 そう言われた途端、他の王子、姫の従者候補にはあげられていたものの、素直に引き受けることなく断り続けていたヤクトが素直に片足を床につけ、真剣な表情でアズサの従者になる話を考える間もなく、引き受けたのだった。



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