第6話 謝罪
「本日から生徒会の一員となりました、城島孝です。よろしくお願いします」
岸本先輩と共に生徒会室に戻った俺は、改めて三人に向け、自己紹介をする。
頭を下げた俺の耳に、三人分の拍手が聞こえてきた。
「じゃあ、まずは私から。私の名前は東雲志緒。役職は執行部兼会計で、クラスは二年十組です。よろしくね、城島っち」
そう言って、東雲先輩はにぃっと歯を見せて笑った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
それにしても、〝城島っち〟ってなんだ? 俺の仇名か?
「次は私かな。私の名前は岸本由佳里。役職は副会長兼書記で、クラスは三年十二組だ。城島君には、私の書記の仕事を引き継いでもらおうと思う」
「あ、はい」
書記か。何となく、会計よりは俺に向いてそうだが。
「えーっと、姫城静香です。役職は生徒会長で、クラスは由佳里と同じ三年十二組です。……城島君には、何とお詫びしたらいいものやら」
「いえ、そんな。全然気にしてないので」
寝ている女性に近付くなんて、思えば、俺も不用意だった。しかも、姫城先輩は寝起き、ああいう行動に出られても仕方がない。
「そう言ってもらえると、助かります」
こうして姫城先輩と実際に対峙してみると、舞台上とはまた違った印象を受ける。屋上での件があるにしても、少し挙動不審気味だ。人見知りするタイプなのだろうか?
「じゃあ、今日のところはこれで。また明日、放課後にここに来てくれ」
「はい」
岸本先輩の言葉に頷き、教室を後にする。
「失礼します」
頭を下げ、扉を閉める。
そういえば、岡崎、どうしたかな? さすがに、帰ったよな。帰っていいって言ったし。けど……。
そんな事を考えながら、階段に向かって歩を進めていると、
「城島君」
背後から名前を呼ばれた。
足を止め、振り向く。こちらに向かって、小走りで近付いてくる、姫城先輩の姿がそこにあった。
「どうしました?」
何か伝え忘れた事でもあったんだろうか?
「いえ、あの、もう一度、ちゃんと謝っておきたいなと思って。すみませんでした」
そう言って、頭を下げる姫城先輩。
「止めて下さい。寝ている所に近付いた俺も悪かったんですから」
「……頬、大丈夫でした?」
「あ、はい。全然。何とも」
まだ多少赤みは残っているが、明日にはきっと元通りだろう。
「本当ですか? なら、いいんですけど」
「あの、一ついいですか?」
「はい。何でしょう?」
「敬語、止めませんか。俺の方が年下ですし」
実は、秘かにずっと気になっていたのだ。年上の、しかも、学校の先輩からの敬語は、何だか無性に違和感を覚える。
「ダメ、ですか?」
「ダメではないですけど……」
一般的に考えたら、おかしいだろう。
「その、今まで、あまり同世代の男の子と話す機会ってなくて。ずっと女子高でしたし」
「あぁ……」
色々な意味で、姫城先輩の言葉に納得してしまう俺だった。
「なので、出来ればもう少しだけ待って頂けないでしょうか? 慣れてきたらきっと、なんとかなると思うので」
「分かりました。そういう事なら」
こちらとしても、最初から無理強いする気は毛頭なかった。
「ありがとうございます。では、私は生徒会室に戻ります。明日からよろしくお願いします」
「お願いします」
二人で頭を下げ合う。
顔を上げる。目の前に姫城先輩の顔があった。どうやら、奇跡的に頭を上げるタイミングが一致したらしい。
「あ、あの……失礼します」
言うが早いか、姫城先輩は踵を返し、生徒会室の方に走り去って行ってしまった。
なんなんだ、一体……。まぁ、いいか。
気持ちを切り替え、再び下駄箱に向かう。
なんだか、凄い事になってしまった。一年目から生徒会。しかも、あのメンバーの中に入るのか……。傍から見れば、とても羨ましい状況なんだろうが、実際に入れられる身としては不安でしかない。それに、いきなり一年の男子が生徒会に入って、周りがどう思うか……。
「城島君」
先程とは違い、今度は正面から名前を呼ばれる。下駄箱の所で、岡崎が俺を待っていた。
「岡崎。待ってくれたのか」
目の前まで行き、立ち止まる。
「うん。迷惑かなと思ったんだけど……」
「全然。むしろ、待っててくれて嬉しかった」
「ホントに? なら、良かった」
俺の言葉を聞き、岡崎が安堵したように微笑む。
「生徒会の人、何だって?」
「なんか、生徒会に入る事になった」
「えー!?」
岡崎の反応も分かる。俺自身、まだ実感が湧いていないのだから。
「凄いね、城島君。おめでとう」
「おめでたい、のかな?」
「おめでたいよー。生徒会だよ。しかも、一年で。……あ、でも、そうなると、こうやって帰れる機会も減っちゃうんだね」
「悪いな……」
「ううん。生徒会の仕事を任されたって事は、その仕事は城島君にしか出来ないって事だもん。だからさ、頑張ってね」
「ああ」
岡崎の言葉に、俺は力強く頷いた。