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初恋ロマンティカ  作者: みゅう
1.始まり
4/34

第4話 優しさ

 思えば、電車を降りてから、この一時間程、一度も椅子(いす)に腰を下ろしていなかった。座るという感覚が、これ程までに(なつ)かしく素晴(すば)らしいものに感じたのはいつ以来だろう。


「ごめんね。なんか、私だけ楽しんじゃって」


 現在、俺達はフードコートにいた。ちょうど時刻も三時前だったので、休憩(きゅうけい)がてら軽く食事を取ろうという話になったのだ。


「別に気にしなくてもいいよ。テンション高めの岡崎(おかざき)見るのも、新鮮で楽しかったから」

「やっぱ、私、テンション高かった?」

「うん。(すご)く」


 俺としては、日頃あまり見られない岡崎の一面が見られて少し得した気分だ。


城島(きじま)君はどこか行きたい所なかったの?」

「俺は別に。元々、買い物らしい買い物を普段からやらない方だから」


 よく行くのは本屋ぐらい。たまに服屋や靴屋に行く事もあるが、本当に〝たまに〟だ。後は大体、コンビニで用を済ましてしまう事が多い。


「そっか……」


 (つぶや)くようにそう言って、岡崎がストローに口を付ける。


 俺達のテーブルには、今、ドーナツと飲み物が置かれている。適当に何個か買って摘まんでいる感じだ。


「城島君って優しいよね。昨日も急な誘いだったのに、すぐOKくれて」

「俺もちょうど買いたい物あったからさ」

「でも、今日買った物って、全部、近場で(そろ)う物ばかりだよね」

「……」


 確かに、わざわざショッピングモールまで出向かなくても、俺の買い物はそこらのデパートで事足りた。というか、こんな機会でもなかったら、そもそも文房具なんて新たに買っていなかったかもしれない。


「やっぱり、優しいよ。城島君は」


 笑顔で断言されてしまった。


 岡崎に、そう言い切られてしまっては否定のしようがない。


 何となくバツが悪くなった俺は、視線を岡崎から別の方向へと移した。


「ん?」


 外した視線の先に、見知った人物を発見する。


「どうかした?」

「ほら、あれ」


 俺達のテーブルから大分遠くのテーブルに、ウチの生徒会長と副会長の姿があった。仲(むつ)まじげ様子が、離れたこの場所まで伝わってくる。あの二人は、学校外でも顔を合わすような間柄のようだ。


「ホントだ。二人共、この辺に住んでるのかな?」


 体を()じって背後を見る岡崎。


「この辺りじゃ、一番大きい買い物施設だから、市外から来てる可能性もあるけどな」

「それもそうだね」


 視線を感じたのか、ふいに姫城(ひめしろ)先輩がこちらを振り向いた。


 慌てた俺達は、二人から視線を()らし、テーブル上で顔を見合わせた。


「気付かれたかな?」

「俺達が見てた事には気付いたかもな」


 とはいえ、一新入生の事なんて三年生の先輩が知っているはずもないので、俺達が誰かまでは分からないはずだ。


「でも、びっくりしちゃった。会長さんもこういう所来るんだね」


 岡崎が体勢を戻したので、俺もそれに(なら)う。


「どういう事?」


 生徒会長も普通の高校生だ。ショッピングモールにくらい来るだろう。


「なんか、聞いた話に寄ると、会長さんのおウチ、凄いお金持ちらしくて、(うそ)みたいに立派な家に住んでるんだって」

「へー」


 それはまた、想像通りというか期待を裏切らないというか。

 岡崎の話を聞き、姫城先輩の高嶺の花感が俺の中で更に上昇した。


「それにしても、どこでそういう情報って仕入れてくるんだ?」

「え? 女の子同士の会話とか?」


 なるほど。女子のネットワーク、恐るべし、だな。


「男の子の噂もたまに耳にするよ」

「どんな?」

「聞きたい?」


 俺の聞き返しに対し、岡崎が楽しげな笑顔を浮かべる。

 嫌な予感がする。


「やっぱ、いいや」

「え? そう?」

「なんか、聞いたら不味(まず)い気がした」

「ふーん」


 そう言った岡崎の声は、少し不満げで。どうせなら聞いてあげれば良かったかな、と思う反面、聞かなくて良かった、と俺は直感的に何かを察するのだった。

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