一歩踏み出すその時は2
魔王を討伐し終え、勇者は村人に戻った。すでに聖なる剣は彼の手にはなく、創造者たる女神のもとへと戻った。聖なる剣を手にしたときに、女神により魔王討伐の為と授けられた数多の加護も、魔王討伐が叶えば不要とばかりに、彼は女神に返上した。女神は返上しなくともといったが、彼にとって、すぎる加護は身を滅ぼしそうで怖かったのだ。
「ゼー坊や、悪いねぇいつも」
今、彼は故郷の村にて一見穏やかな日々を過ごしている。
近所の老婆の畑を手伝ったり、近所の猟師を手伝ったり、近所の麦の収穫を手伝ったり。とてもとても穏やかな日々を過ごしていた。
でも彼は満たされなかった。戦いが日常だったあの頃に望んでいた“平穏な日常”のはずなのに。
でも、彼は思う。
足りない。
満たされない。
やはり、求めてしまう。 けれども、勇気はでない。
ゼインは勇気が欲しくてたまらなかった。
会いたい、でも恐い。
伝えたい、でも恐い。
「ゼー坊や」
近所の老婆、フィーばぁがゼインのあたまを撫でた。まるで小さな男の子をあやすように、優しく、優しく撫でる。
「怯えんでいいんじゃて」
フィーばぁは、にっこりと笑った。
「大丈夫じゃよ」
ゼインは昔から怯えて泣く子だった。幼い頃に、そんな性格になるきっかけがあったわけではない。本当に、根っからの―――生来の性格だった。
そして恋路に関しては、生来の性格に拍車をかけて臆病だった。これにはきっかけがある。
ゼインは見目が良い。憂いを帯びたように見える大きな目(実際は怯えてる目)、綺麗に整っている顔は、影のある憂いの雰囲気(実際は暗い、臆病、びくびくしてるだけ)を放ち、それが女性にはたまらずにキュンキュン(死語)する、らしい。
幼い頃からそうだった彼は、女の子がより苦手になった。注目されるのが恐いのに、すごく見られるのだ。常に見られているという状況は、幼い彼には耐えられず、彼は結局幼少期を引き込もって過ごす。
そんななか、彼の両親が事故で亡くなり、彼は父方の祖父母に引き取られ、現在にいたる。祖父母の村は一番年が近くて50歳という過疎の地域だった。
引き取られてしばらくして祖父母が亡くなり、彼は以来村の老人たちに育てられた。
「大丈夫、大丈夫」
よく泣き、よく怯える彼をなだめるために、村の老人たちは皆彼の頭を優しく撫でた。それこそ、泣き止むまで撫でた。
「ゼー坊は強い。大丈夫、大丈夫」
ゼインは泣きたくなった。
でもそれは悲しさから来る涙ではなかった。
彼を育て、慈しんでくれるフィーばぁたちに対し、こみあげてきた感謝からくる涙であった。
そして、自他ともに情けないと認める元・勇者は。
一日悩んで、悩み抜いて。
後々から振り返れば、この時彼は、後々彼にとっての転換期を迎える決意をするのであった。
「僕、逃げないよ」
ゼインの目には、強い光が灯っていた。