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剣士は悩み、迷走する3




 

 ヴィヴァーネは既に目しか動かせなかった。口も、喉も動かない。思ったよりも、限界はすぐそこまで来ていた。

 けれども“糧”は、まだ体内で循環しているのがわかる。これさえ動かなくなり、循環が潰えてしまえば―――その時こそ、肉体の死に繋がる。Jの肉体は崩壊し、ヴィヴァーネは再び身動きがしばし叶わぬ状態となるだろう。


(………知られたくはない)


 ―――知られたくはない、それが本音。

 しかし、結局は一人では無理だった。だから、手助けとして“何日かだけ”相方となる冒険者を募った。何か不審に感じても、お金で「うん」と頷く相手を。

 ヴィヴァーネの求めていた相手は、そんなしがらみのない相手であって、こんなに好奇心の塊です! と顔に書いた毒舌でやけに世話焼きな奴じゃなかった。

 一度相手の置かれた立場を理解してしまえば、危機にあれば尚更全力を持って事にあたる奴じゃなかった。

 だというのに、現実ではどうか。

 動かなくなったJの体は、あっという間に賢者によって運ばれた。Jの体は賢者より遥かに大きい。だから、魔術を使ったのだろう。ふわふわと浮くJの体は、すぐにこの清潔な部屋に運び込まれた。

 清潔な部屋の、清潔な寝台にJの体は横たえられ、今に至る。


「―――どうして、私に助けを求めなかったんですか、あなたは自分で自分を窮地に追い込んで悦ぶ趣味でもあるんですか」


 天井しか見えない視界の中、賢者の怒りの滲む声が周囲に響く。その声は部屋だけではなく、ヴィヴァーネの頭の中にも響く。


「私達は仲間ではなかったのですか?!」


 ―――仲間だからこそ、知られたくはなかった。


「アンタは仲間のつもりではなかったのですか?!」

 動かない体は、どうしても動かない。まるで石のように、びくともしない。指を開こうにも、やはり動かない。

 賢者は、必死にヴィヴァーネの体を動かそうとしていた。けれどもそれはすべて無駄だとヴィヴァーネだけが知っている。

 賢者がヴィヴァーネの体と思っているのは、ヴィヴァーネの体ではない。

 これは、Jの体。10番目の体。ヴィヴァーネという魂が、自分の魔力を持って拵えた人形の体。


(……知られたくはなかった……)


 人形の体の周期は一年持てばいい方だ。けれども、ヴィヴァーネは今回は無理を押して、一年以上人形の体を使用した。

 理由は、魔王が現れたから。

 魔王というものは、あると一定の周期を経て復活する。

 先代の魔王は、五百年ほど前に生じ、滅ぼされた。……ヴィヴァーネによって。

 ヴィヴァーネの本当の名前は、ツィスカ・ヴィヴァーネ・エンヒェン。滅び間際の魔王から呪いを受けた悲劇の先代の女勇者。

 呪いは―――真に解くものが見つかるまで、ただひたすらに眠りにつく呪い。

 女神はその呪いを緩和するしかできなかった。それくらいに、先代の魔王の力は強かった。

 呪いは緩和されて、ヴィヴァーネは五十年を周期にして、人形を使用して大地に降り立つことができた。

 今が十回目の五十年目。

 呪いはいつまで続くのか。

 女神とともに、ヴィヴァーネは呪いを解く手段を探して、探してさまよった。

 自身の魔力をもとに、強い人形をいくつも拵えて、人形に宿り、女神の啓示を受けて、さすらって。

 そしてついに、次代の魔王が生じた。女神は再び勇者を選出し、ヴィヴァーネは旅の一行に加わった。

 そして、ついに。

 旅の始まりに、真に解くもの―――それは、魔王より魔力の高いものではないかと女神からの啓示を受けて。

 けれども、先代の魔王よりも次代は弱かった。それを倒す勇者も弱かった。

 ならば、探すしかない。ひたすら、探すしかない。

 限界が近づいた体は、無理が来ていた。だから、ヴィヴァーネは探した。

 神殿に向かい、代わりに啓示を受けてくれる相手を。

 ヴィヴァーネは、もう神殿に赴くだけの魔力もなかったから。遠く離れた神殿に赴くには時間がかかる。それまでに体は持たない。

 なのに。

 賢者に見つかって。

 ヴィヴァーネは、次まで待つしかなくなった。


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