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賢者の秘密2





「ええ、私で間違いありませんよ」


 フィンカーズは少しむっとし、表情にあからさまに出してみた。

 フィンカーズは、普段であれば顔には出さない。だが、今回はあえて出してみた。

 なんとなく、なんとなくだ。リーレイの反応がいただけないので、少し意地悪をしたくなったのである。

 気になる子ほど、意地悪をして反応をこちらへ向けたくなるという、まさしくいじめっこの心理である。


「…………髪は!?」


 ぽかん、としばらく口を開けて固まっていたリーレイ。彼女が口を開けたかと思えば、出てきたのはその言葉だった。


「……切りましたよ、目立ちますので」


 フィンカーズが予想していた言葉とは違う言葉だった。予想していた言葉を期待していたわけではないけれど、やはり期待が裏切られたような感じがした。

 それでも、賢者はリーレイの斜め上な答えを面白がっていた。旅の途中、いつも予想外な反応を示すリーレイに、賢者はいつしか目が離せなくなっていたのだから。


「今では勇者一行は有名です。行く場所行く場所、狙われるんですから、普通の生活を送りたい私には迷惑なんです」


 だから、賢者=おさげというイメージから離れるために、髪をバッサリと切り、毛先を肩につかないくらいの短髪にしたのだと、フィンカーズはリーレイに説明した。

 いまでは、フィンカーズの肩の上でふわふわと揺れている。フィンカーズはくりんくりんの癖毛である。

「もったいない…」


 リーレイのいうもったいない、は長いからという意味だろう。長い髪を切ってもったいないという意味だ。リーレイは、髪に魔力が溜まるのを知らないからだ。


「で、も。賢者? ……あの、その」


 リーレイがあたふたして、視線をさ迷わせた。どうにも落ち着かず、そわそわしている。

 フィンカーズはそれを見て、なんとなく気分が落ち着いた。リーレイの思考が自分の方へ向いているのを感じたのだ。気になる子の意識が自分の方へ向いている、それは気にする本人にとっては何にもかえがたいものである。


「えっと……」


 リーレイは旅の間、滅多にあたふためいたりしない性格であった。だからこの光景は、とてつもなく貴重だとフィンカーズは思い、思わずじっと凝視してしまった。


「なな、ななな、何か顔についてる?!」


 すると、リーレイの顔が一気に真っ赤になった。それを見て、賢者は可愛いなと思う。そして、自分が彼女にこんな顔をさせて、なおかつ今の彼女が感情を向ける相手が自分だということが、なんとなく清々しかった。

 本人は気付いていないし、認めたくはないだろうが―――リーレイは年のわりにはうぶなのだ。ようするに、恋愛慣れしていない。おそらく、婚約者と長年暖めてきた愛情も、かなり初々しいものだったのだろう。だからこそ、狸の腹黒王女に横からまんまと奪われた。

 でもそんなうぶで初々しいところと、普段の姉御肌のギャップの落差が賢者が惚れた理由なのだけれども。……すぐに失恋したけれども。


(でも、私は長生きなんです)


 フィンカーズは長命種のハーフエルフだ。リーレイ達より必ず長く生きる、確実に。


(だから、失恋したからといって、想うのは自由でしょう)


 フィンカーズはこの先長い間、リーレイを想って過ごすだろう。想い出になって、次の恋をするまで想い続けるだろう。というよりも、想い続ける気満々である。

 フィンカーズがひとりにこにこと楽しんでいれば、真っ赤なリーレイが爆弾発言をした。


「……賢者……男装が趣味なの?」


 ……機嫌の良かった賢者の思考が、ぴしっと音を立ててフリーズしたのはいうまでもない。


「……男装……?」


 確かに、フィンカーズは男性の装いをしている―――しかし、それはフィンカーズが……


「私は……もとから男ですが……?」


 しかも実年齢数百歳の、が頭につく成人男性である。種族上、見た目年齢と実年齢は一致しないけれど。


「嘘ーっっ!!」



 賢者が予測していた反応は、これだった。ようやく予測していた反応を得たけれど、成人男性としてはやはりショックであった。


(覚悟はしていたんですがね)


 やはり、失恋したとはいえど―――心をよせる相手に、性別を間違えられていたというのは酷である。








 きっと、この先彼がリーレイに想いを伝える日は来ないだろう。

 けれども、彼は想い続けるだろう。ずっとずっと、想い続けるだろう。

 彼の人生は長いのだから。






 しかし、運命はまわる。

 運命は、まわる。

賢者……ネネ(ニネット)・フィンカーズ。ネネは愛称です。ニネットは西欧の男性の名前です。本編からこの設定でした。

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