Prologue2 アドバイザー
握り締めた番号を手に立ち上がった俺は、機械音声が告げたカウンターを探す。
「…95、95…。あれ?」
室内を見渡してもカウンターの番号は1から20までしかない。
天井や床に案内掲示でもあるかと見渡してみても何の表示もない。
聞き間違いか?
手の空いてそうな職員は見受けられず、俺は先程の受付まで戻り、尋ねてみることにした。
「すいません。さっき呼び出されたんですけど、95番窓口ってドコですか?」
ああ、先程の。と言い、受付の女性は書類整理の手を止め、さっきと同じ微笑みを浮かべた。
「95番窓口なら5階ですよ。そこのエレベーターからどうぞ。」
「ありがとうございます。」
窓口あり過ぎだろ。と思ったが、女性の微笑みに軽く会釈して笑い返し、エレベーターへ向かった。
乗り込んだエレベーターは、1階と違って少しレトロな感じのデザインだった。
5階のボタンを押すと、モーター音と若干の振動で上へと動きはじめた。
「夏のボーナスがあれば、失業保険が出るまでは凌げたなぁ…。」
ゆっくりと上昇するエレベーターは、嫌でも俺の現状を振り返り、自己嫌悪するに十分な時間をくれた。
無駄な『たられば思考』を振り切り。「やるしかねぇな」と萎えそうな意思を前向きにする気分で緩んだネクタイを締め直した時、到着音と共に正面の両開きのドアが開いた。
95番窓口はすぐに見つかった。エレベーターから一歩踏み出したら目に付いたというのが正しいか。5階は窓口毎にパーテーションで区切られ、デカデカと番号が貼り出してあったせいもあるが、一箇所だけ、火災報知機が反応しそうなくらいの紫煙が漂い、目を引き寄せられたら目当ての番号が貼り出してあったからだ。
窓口の主の喫煙暦が長いことを語るかのように、周囲の物が色褪せて見える。
世間の嫌煙事情と生活の為に禁煙中の俺には、魔の領域に思えた。
パーテーションの切れ目から声を掛けようと中を覗くと、デスクの向こうにボサボサ頭が見え、銜え煙草で一心不乱と表していい程、パソコンに打ち込み作業をしている男がいた。
「失礼します。」
心持ち大きめの声を掛けると、端末操作をする音が止まり、ボサボサ頭が動いた。
「おっ、今年の夏の第一号が君かぁ!良く来たねー。あ、そこ座って座って!」
「え、はい…よろしくお願いします。」
良く解らない。今年の夏の第一号?どういう意味だ?
疑問が頭を過ぎったが、やけに明るい声でにこやかに話しかけられ、勢いで向かいの椅子に座ってしまった。
「あの、今年の夏の第一号って何ですか?」
銜え煙草のままで何やら探し物をするボサボサ頭に、先程の疑問をぶつける。
「あーあった、あった!これだ。はい、これ!」
ニコニコとしながら、俺に書類を差し出すボサボサ頭。30代半ばくらいに見える。
「僕、叶って言います。君の名前は?」
「…」
聞いてねぇ…。
「?」
笑顔のまま首を傾げるボサボサ頭。俺より年上とはっきり分かる男が、頭をコテンとしたって可愛くない。
「…斉藤ですけど。さっきの『今年の夏の第一号』って何ですか?」
「ああ、それねー。毎年、夏と冬が多いんだよねぇ。斉藤君も大変だったねぇ。で、下の名前は?僕は、叶 望だよ。安直でしょぉ?」
アハハと笑うボサボサ頭が小憎らしい。
会話のキャッチボールが変化球かい。
「斉藤 真幸です。で、『今年の夏の第一号』って、どういう意味ですか?」
「さいとうまさき君っと。えー現在27歳の男性ね。」
再度問いかける俺を見事にスルーしながら、片手で端末操作をし、にやりと笑う叶。
「んー。現状把握ナシ。浄化経験ナシ。回転数は平均以上、そろそろ大台いくなぁ。カルマ数値はー、まぁ範囲内ってとこか。問題ないね。」
話が見えない…。変化球どころか魔球投手ですか。そうですか。
さっき締め直したネクタイを緩めたくなるほどに萎えてきた俺は、ぶつぶつ独り言を呟きながら端末をいじる叶を、諦めに似た気持ちで眺めていた。暫くすると「よし!」と、なにやら自己完結した叶が笑顔で話しかけてきた。
「斉藤君、スキルアップして新しい職業に就いてみない?そうしなよー。楽しいよ?第一号だし、今なら結構求人あるよー。」
「はぁ、まぁ仕事探しにココ来たんですし…。条件イイに越したことないですから、ありがたいですけど。それより、さっきから言われてる『第一号』ってのが凄く気になるんですけど。何で、俺が今年の夏の第一号になるのか、その意味を教えてくれませんか?」
他にも気になる単語があったが、とりあえず最初の疑問を解決したいので、根気強く話を軌道修正してみる。
やっと答える気になったのか、叶は笑顔を引っ込めて俺を見た。
少しの沈黙の後。
「そんな気になる?大した事じゃないんだけどね。まぁ、経緯としては例外に含まれるだけで、ホント大した事じゃないんだよ?…んー。教えるのはさ、この職業適性チェックシートをした後で該当職業が見つかってからだね。」
「見つからなかったら?」
「…その時は、また別に教えないといけない事もあるし。そうなったら、そんな瑣末な事は気にしてられないさ。」
アハハと笑顔に戻る叶だったが、俺には漠然とした不安をさりげなくドカンと投げてくれたように感じた。
まぁ、やってみてよ。と、軽い感じで先程から差し出したままの書類を俺の目の前に置く。ちょっとした厚みのある小冊子だ。
こんなにたくさん何をチェックするんだよ。
置かれた書類の表紙をゲンナリした気持ちで眺めていた俺を見透かすように、叶が言った。
「そんな難しくないから大丈夫。感じたまま、率直にチェックしてったらいいからさ。」
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明日、いえ今日から夜勤なので、更新は2月2日に行ないたいと思ってます。
よろしくお願い致します。