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Prologue1 ハ☐ーワーク

 その日は連日の猛暑記録を更新するほどの酷暑だった。


うだるような暑さの中、街の風景は陽炎のように歪んで見えた。


排ガス臭い空気は頭を酸欠状態にするし、僅かな街路樹の日陰さえもアスファルトからの照り返しで熱気を孕み、体細胞から水分を容赦なく絞り取る。頭上から降り注ぐ鋭い陽射しは眩暈を起こさせる。


俺は朝から受けた就職面接の手応えが良くなかったので、昼飯を取る気力もなく面接会社からそのまま馴染みの薄い駅前でハ☐ーワークを探していた。


「夏のボーナス貰ってから退職すればよかったかな…」


 残高の心もとない通帳を思い浮かべながら、見慣れたハ☐ーワークの看板を探す。


出来るだけ出費を抑える為に食費から削っているせいで回る世界が恨めしい。食べる気力が減っているのもあるが、一人暮らしの俺には貯蓄を削りながら生活することに恐怖を感じていた。


偏った食生活に極度の暑さからくる脱水症状が意識を朦朧とさせ、ブレる視界の中でハ☐ーワークの文字を街中に見つけた。暑さに辟易していたので、ホッとした俺は足早にハ☐ーワークの自動ドアをくぐった。


 暑い外界とは違う涼しい冷気が俺を包み、思わず歓喜し目を細める。


 瞬間。眩暈が襲い、視界が暗転する。眩暈につられ傾ぐ身体を重力が引っ張る感覚。危ないと感じ、慌てて身体を立て直すべく脚を一歩踏み出し、地に足を掴む。


「危なかった…」


 回復した視界で、ハ☐ーワーク内を見渡す。


そう広くないエントランスの先には受け付けカウンターがあり、待合ブースとパソコンでの職業検索ブースが見えた。奥には個別の窓口カウンターがある。





「こんにちは」


 持ち直した身体で受付カウンターに向かうと、受付の女性が笑顔で声を掛けてきた。


「…えっと、パソコンで求人情報を閲覧したいのですが」


 見られていたのかもしれないと少し恥ずかしい思いがあったので、少し早口になる俺。慌て気味にリクルートバッグの中からハ☐ーワークの登録カードを探し出し、差し出す。


カードを受け取った女性はチラリと眺めた後、カードを返しながら微笑を浮かべて答えた。


「こちらは初めてのご利用ですね。では、少々お時間を取りますがアドバイザーとの面談からお願いします。こちらの番号札をお持ちになってお待ち下さい。」


 ん?営業所別に登録しないといけなかったかな?


「え、あ、はい。」


 ちょっと違和感があったが、今日は特に予定もないので多少の時間は気にしない事にした。座る場所を求めて室内を見回し移動する。昨今の不況を表すかのように、老若男女でいっぱいだ。国籍も判断しにくいようなタイプの人もいる。最近の国際化は半端ないなぁ。本当に様々な格好が見受けられた。


「78430番の番号をお持ちの方、8番カウンターまでお越し下さい。」


 俯いて携帯をいじる俺の視界の端を、白いスカートの様な衣服が床をずるずると引きずりながらカウンターの方へ移動していった。


「もう嫌なんです!!この仕事には耐えられませんよっ」


 大きな声に思わず視線を上げると、カウンターの相談窓口で切実に訴える後ろ姿が見えた。古代ギリシャのヒマティオンの様な装束に身を包む金髪、泣いているようだが声からすると青年。なんと背中には二対の大きな白い翼を背負っている。


 なんの仕事だ?イベント系か?あの翼、良く出来てんなぁ。何羽分の羽根が使ってあるんだ?


 珍妙な格好に視線を奪われ、ぼんやりと気の抜けた事を考える。順番待ちでカウンターになるべく近いソファに座っていたせいで会話も聞き取れた。


「酷すぎますよ…争いが絶えないし、結果ばかりに目がいって人が少なくなってるのに周りの迷惑を考えない者ばかりなんですよ。」


 泣きながらも窓口相談員に掴みかからんばかりに唾をとばす青年。


「まぁまぁ、仕事を始めたばかりじゃないですか」


 冷や汗をかきながら、とりあえず落ち着いてとなだめる相談員。


職場の連携がとれないと何処も辛いんだな…。


感情が高ぶっているのだろう、背中の翼がプルプルと震えている。


「確かに最初はとてもやり甲斐がある仕事だと思ったんです。使命感もありました…私が求める仕事だ、って。けど!あの人たちは自分達以外を傷つけるような事しかしないんです!それが結果的に自分達の首を絞めるのに!!」


「そうですか…辛い思いをなさったんですね…。どうですか、別室で今後の方向性を一緒に考えましょう。」


「うわあぁぁぁ!!」


 金髪青年がカウンターに突っ伏して頭を振った拍子に翼が震え、純白の羽根が数枚舞い落ちた。


目の前に落ちたので、思わず拾ってしまった。


「さぁ、行きましょう。大丈夫ですよ、一緒に考えましょう。」


 羽根はついさっき鳥から抜いた様に艶があり美しく、なんだか温もりがある。不思議だ。


「あ、あの!…羽根、落ちましたよ。」


 手元に一瞬見とれていたせいで、声を掛けた時には金髪青年と相談員は少し遠ざかった場所まで行っていた。


「まぁいいか。」


 羽根をクルクルと回しながら、相談員に抱きかかえられるように去る金髪青年を見送った。


呼び出し番号の電光掲示板を見て、俺の番号が呼ばれるのは暫く先だと思い、改めて周囲を眺めた。


俺と同じくらいに見える男女や俺より若い男女もいる。慣れないパソコンにかじりついているオジサンやオバサンも。この国の職業難が伺えた。ホントため息しかでない現状だ。


今日だって面接先の募集要項は大体満たしていたから、ちょっと期待もしてたが、面接官と話をして募集人数に対しての倍率の高さに苦笑いを通り越して笑えるくらいだったから、面接後にハ☐ーワークに来た。


 しかしここのハ☐ーワークは不思議な格好をした人達が多いな…。


何の罰ゲームだと言いたくなる程の、テカテカというかラメラメな身体にフィットした全身スーツのような中年男性や、豪華な金襴緞子の着物を着ていて、紅白歌合戦のトリでもやるのかと聞きたくなる人は、男か女か判別不可能な生命体。先程の金髪翼青年をはじめ、魔法少女の実写版女性(少女の域は脱している)等々。


それらの目立つ人達に紛れて、パソコンにかじりついている土方の格好をしたオジサンや、チャラ男君にB系男子諸君が可愛く見えてくる。リクルートスーツ着てる俺が浮く空間って…。


「99918番の番号をお持ちの方、95番カウンターまでお越し下さい。」


 静かな空間にピンポーンと幾度か響いた音が鳴り、次いで無機質な機械音声で俺の持つ番号が呼ばれた。


亀更新ですが、気長にお付き合い下さると嬉しいです。

誤字・脱字などの指摘はありがたいです。感想を頂けるよう頑張りたいです。(*´∀`*)ゞ

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