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第52話 十年後


 子供の状態だと逃げることは不可能だ。


 神器があればすぐに逃げられると思って、余計な事を言ってしまった。


 そう言えば大人状態になる方法をノエルか、テトナに聞いておくんだった。 


 こんな危険生物が街中にいるとは思わないだろ。


「何年も何年も勇者様がほっぽり出した魔王討伐に駆り出されてイライラしてんのに、ガキにまで舐められる始末」


 そうか、今はソフィアが倒せそうもない魔王をマドが処理しているのか。


 勇者が居なくなっても、コイツがいたか。俺が本当に居なくなったらマドも人族の為に働くんだな、俺が応援を要請しても来なかったぐらいだ。


 人族のため? コイツが? 



 マドは組んでた足を解き、ベンチから立ち上がる。


「おいガキ、私のお眼鏡に適ったことを誇り思って死んで行け」


 マドが臨戦態勢になった所を見ると、俺はすぐさまポーチから剣を取り出す。


 右横からの気配に身体のマナが騒ぎ出し、後ろへジャンプする。すると長い足がブォンと目と鼻の先を過ぎた。


 俺は蹴りの風圧だけで吹き飛ばされる。


 地面に着地して、剣にも身体にもマナを循環させると、マドはまた蹴りの体勢に入っている。


 俺はマドの足を真っ二つに切るようにマナを剣に注入して、マドが蹴り出した足に向かって思いっきり振り下ろす。


 何故かガキンと、足を切ったとは思えない音が鳴る。


 何故か足と剣でつばぜり合いが起こっていることに、マドの恐ろしさが垣間見える。


「剣が折れないだと!?」


 マドはマドで剣の耐久度に目がいっている。さすがは化け物だ。俺も化け物と言われ慣れているが、コイツは本物だ。



「ラックーサ様なにをやっているのですか?」

「いやまぁ、このガキにケンカを売られてな。遊んでやろうとしただけだ」


 マドは足を下ろし、警戒している俺を他所に後ろの壊れた家を直していた。


 俺は警戒を解いて、剣をポーチにしまった。


 




 マドの奇行を止めた人物に目をやる。優しい目をした綺麗な女の人と言う感じだ。


「……迷子?」

「いいや、使命がある」

「そうなの」


 この人は知っている顔をしている。昨日会ったムスリの大人になった姿か。でも奴隷の首輪がない。


 あぁ、そうか、マドがココに来たのはムスリを解放するためか。



 ムスリはベンチに座り、俺に手を向けて、ちょいちょいと手の指を繰り返し曲げる。


 ここに座れということだろうか。


 ムスリのアピールにより、俺はベンチに座った。


 家を直していたはずのマドは、いつの間にか居なくなっていた。


 ムスリは紙袋から串焼きを一本、手にすると俺にくれる。


「良いのか?」

「どうぞ」


 炭の香りが食欲をそそる。ガブッと噛むと肉汁が溢れて、皮でバリ、身でジュワのコンボが噛む度に襲いかかる。


「幸せだぁ〜」


「私ね、十年前にココで、十年経ったら迎えに来るって言われちゃった。それを真に受けて一ヶ月近くもずっと待っている私も私だけど、ラックーサ様はそんな私に付き合ってくれているんだ。奴隷の首輪を嵌めてない人族は目立つからね」


 えっ? ノエルが間違うはずはないし、子供の時の約束だから時間感覚は曖昧だったんだろう。


 マドはムスリの護衛役と言うわけか。


「俺もココにその約束を守るために来た」

「……」



 俺はベンチからバッと立ち上がり。


「十年間良く耐えた! 俺が責任を持って一生を出来る限り幸せにしてやる!」


 両手を広げ。


「無限に考えて来ただろうな! 夢を! それを全部叶えてやるよ!」


 夢をいっぱいに語る。




 そして、長い長い沈黙。




 ムスリは俺を見ながら大きな目を更に大きくさせて、口を開けている。



 そしてポロポロと目から涙が溢れた。


「モブオ君変わらなすぎだよ」


 涙は止まることはなく、だがムスリはそんな中でも笑ってみせた。


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