2.通販
購入サイトを公表したことは、何か意味がありそうだ。
記者会見が報道されるテレビの前で中年男性が手元の剣を仰視する。
「俺の剣はGakutenで買った物だけど、同じような特殊効果があるのだろうか? 」
心の中でGakuten!? ほなちゃうがなと芸人に突っ込まれる妄想をした。
スマホを取り出し大手通販サイトの購入済みページを開いた。
【売り切れ】と表示されたページを見つめ直すが、詳細は分からない。
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店名シーカーズユニオン
商品No.0001
L'Épée la Plus Puissante 剣|ソード 対モンスター 宇宙人 カッコいい 武器 安全 メンズ レディース
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常人は購入しないであろう商品を購入したのには訳がある、誰だって目先に巨大な杭が落ちたから混乱し正常な判断は出来なくなるだろうと物思いにふける。
ドォン!
まるで爆弾でも落ちたかのような衝撃音が辺りに木霊する。
身を守る為、咄嗟に伏せた身体をゆっくりと起こしながら辺りを見回すと見たことの無い物体が地に刺さっていた。
「う、宇宙人の侵略か。」
ー戦争に備えなくては!
震える手で通販アプリを開き、混乱する頭で剣の購入ボタンを押し決済を済ませた。
「おふくろっ」
徐々に落ち着き、冷静な判断が出来るようになったことで家族に連絡を取ろうとする。
既に電波が繋がらない状態になっていたため、震える足で帰路につくことにした。
パチン
独り暮らしの寂しい部屋でテレビをつける。
チャンネル全てが緊急放送を流していた。
ー 危険なので近寄らないように
ー 他国からの新兵器である可能性
ー 文明レベルが違いすぎる
ー 皆さん落ち着いて行動を
ー 戦争に備えて準備を
垂れ流す情報を後にして水やガスが使用出来るか確認する。
(ライフラインは問題無いようだ。)
念のため、普段使わない風呂桶に水を貯めておく。
家族の確認に行きたいが、離れて暮らしているため無事を祈ることしか出来ない自身が歯がゆい。
夜が明けたが、しばらくは会社に行かずにテレビやネットのニュースを見て情報を確認することに決めた。
1週間ほど経つと今までの騒動が嘘であったかのようにテレビは通常のバラエティー番組が映され、違和感を感じるほど巨大杭についての情報が減っていた。
幸なのは巨大な杭が落ちたにも関わらず、死亡者はいなかったことだろう。
これは奇跡か計画か、はたまた隠蔽であるのかは分からない。
また、世界各地で起きたこの現象を各国が調査を始めることで、情報規制が掛かった可能性も考えられた。
ピンポーン!
と鳴るチャイムに玄関を開けると、そこには誰も居なかった。
「今時ピンポンダッシュか? 」
念のためドアの後まで覗き込むと身長ほどの包みが立て掛けられていた。
今時置き配も珍しくないか、と宛名を確認すると自分の名が記載されていため部屋に運び入れることにした。
「まさか、届くとは思わなかった。」
その後の通信障害で届くことは無いと思っていた武器の名が記載された包みが目の前にある。
「返品するか? 」
悩みながら包みを壁に立て掛けると、テレビ画面が緊急速報に切り替わる。
緊急事態発生ー 。
他国の巨大杭から謎の生物が溢れ出しました。
国民の皆様は決して巨大杭に近付かないように
と報道がされていた。
立て掛けた包みを手に取り、悩んだ末に包みを開封することにした。
長方形の段ボールを開けるとなかには緩衝材と包帯のような布でくるまれた長物が入っていた。
慎重に包帯を外すとまるで大理石で出来たかのような白い剣だった。
石や鉄で作られているならかなりの重量物であるはずだが、剣は宙に浮いているかのように軽かった。
(おもちゃの質感では無さそうだが? )
これは試してみるしか無いようだ。
「ふぅ! 」
夜間の公園で試しに剣を振るう。
大木に向けて剣を振るうと切断することが出来なかった。
それは力が足りなかったのではない。
単純に、当たる前に弾かれてしまったのだ。
「うぉ! 」
跳ね返る剣に重心を崩され、無様に転倒した。
(物騒なニュースのお陰か、誰もいなくてよかった。)
ゆっくりと刀身に触れる。
刀身に触れることは出来た。
何故弾かれてしまうのだろうか?
明らかに普通ではない剣に興奮しつつも正直使えるのか、使えないのか分からないなと思い直して少し不安に感じた。
大きな声を出してしまったこともあり、早めに帰宅することにした。
剥き出しの剣を持って移動すると不審者に間違われ兼ねないので段ボールに戻して持ち運ぶことにした。
暫くして、ニュースはある会見の話で持ちきりになった。
ー 巨大杭の名称を世界共通でダンジョンと呼ぶ
ー ダンジョン内の宇宙生物はモンスターと総称し個体別に呼び名を付ける
ー モンスターは攻撃的なので、近寄らないこと
ー モンスターの討伐に尽力を尽くす。
と言った内容だった。
報道ではダンジョンを探索する職業、冒険者等が設立されそうだ、などの討論が進んでいた。
これを見て気持ちに整理がついた。
いや、自分の気持ちは既に決まっていたのだ。
翌日、今では違和感を感じてしまうスーツ姿に身を包み、職場へと向かった。
おはようございます! と元気に挨拶すると自分以外殆ど欠けていない事務所が静まりかえった。
「これは佐藤君、とうに辞めたかと思ってましたよ。」
と嫌みを言う課長に「辞めに来ました! 」
と心からの笑顔で辞表を差し出すことができた。
鳩が豆鉄砲を食らったようなとは良く聞くが、正にその通りの顔が見れた。
それからスムーズに辞めることは出来なかった。
辞めることが出来なかったのではない、手続きに手間取ったのである。
私物を整理していると応接室に呼ばれ、社内保険だの退職書類の記入などを指示された後、支給されていた作業着等貸出品の返還期間や
有給消火による正式な退職日について、その後に発行される離職票についての説明があった。
解放され、私物整理に戻る頃には日の落ちる時間帯になっていた。
意外と時間が掛かったな、とすっかり暗くなった夜道を帰路につく。
家に着くなりどっと疲れた身体をソファーに預け、テレビを点けた。
チャンネルは全て記者会見を映していた。曰く
ー モンスターの討伐に成功した
ー 討伐には特殊な武器が必要である
ー 現在、把握できている武器の所在は
会見の中心席には芸能人かと勘違いしそうな容姿の青年が座っていた。
どうやらモンスターを討伐した武器の持ち主のようだ。
質疑応答の時間になると順番があるだろうに
記者達はいっせいに質問を投げ掛けた。
「どうやって入手されたのですか」
「他に武器は存在するのでしょうか」
「武器をお譲り頂くことは可能ですか」
中でもやはり、武器の入手経路についての問いが多かったように感じた。
喧騒の後、私は、と口を開こうとする青年に時が止まったのように場が静まり返る。
「Awazonで購入しました。」
と宣言した。
テレビの前で中年男性が手元の剣を仰視する。
「俺の剣はGakutenで買った物だけど、同じような特殊効果があるのだろうか? 」
心の中でGakuten!? ほなちゃうがなと芸人に突っ込まれる妄想をした。
だけど、この剣切断することが出来ず跳ね返ってしまうのですよ。
ほな、特殊武器やないかい。
いつまでも続けられそうな妄想を中断して
GaKutenの購入履歴を辿るが、何も分からなかった。
そこで通販最大手Awazonのサイトを開き武器の検索をしようと考えたがページはerrorのみを表示して一向に開くことが出来なかった。
夜の公園で剣を振るう。
剣道等の武術経験の無い自分には努力が必要だろうと考えたためだ。
静まり返った空間にブンッと素振りの音だけが響く。
ウゥーウゥー!
突如り響くサイレンにびっくりし、そそくさと隠れるように武器の片付けを進めた。
(不審者として通報されてはいないだろうか? )
明日からは練習場所を変えようと心に誓うと
挙動不審な様子で帰路に着いた。
その姿はまさに、不審者であった。




