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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪魔が叶える婚約破棄の復讐

作者: 椎名正
掲載日:2025/10/10

 「黒の乙女、おまえはオークの国へ追放だ」

 王子は婚約破棄をしたあとに、私の処分を付け加える。

 それはオークの群れに、身体を蹂躙され殺されることを意味する。

 「それだけは許してください」

 私の口が、王子に哀願する。

 「駄目だ。おまえのような、顔に火傷の傷がある女など、オークの奴隷がお似合いだ」

 残忍に笑う王子。


 この王国一番の美女と言われた私の転落を、周囲はあざ笑う。

 王子の隣で、すでに私の後釜きどりのローズマリー伯爵令嬢が、私をつき飛ばす。

 「その醜い顔を、これ以上みせないでちょうだい」

 私は知っている。

 この私の顔を焼いた暴漢は、ローズマリー伯爵令嬢に雇われたことを。

 だが、この王国で権力者のローズマリー伯爵令嬢を裁く方法はない。

 実際に、私のした告発は完全に握り潰された。

 床に転がる私を、誰も助けようとせず、せせら笑う。

 貴族のプライドを持つ令嬢達にとって、平民出で王子の婚約者になった私の存在は許せぬものだった。

 私は令嬢達にさまざまな嫌がらせを受けた。

 子飼いの兵士に、私を乱暴させたことさえあった。

 「わかりました。追放はうけいれます。ですが、妹の治療だけはお願いします」

 私には病気の妹がいる。

 その病気はここでしか治療できない。

 「心配いりませんわ」

 マーガレット伯爵令嬢が笑顔で、私の肩に手を置く。

 そして、私の耳元で囁く。

 「あなたの妹は先にオークの国に送っておいたわ。もっとも、たどり着く前に死んじゃったけどね」

 私はマーガレット伯爵令嬢に掴みかかる。

 マーガレット伯爵令嬢は大袈裟に悲鳴を上げ、王国の兵士が私を取り囲む。

 その兵士の中に、私を乱暴したことのある男がいた。

 恐怖で、反射的に護身の小刀を出してしまう。

 それが相手に大義名分を与えてしまう。

 私の身体は兵士の剣で斬られ、貫かれ、最後に心臓を刺される。

 私は死んだ。

 死ぬ前に、私の口から恨み言が漏れる。

 「神様。こいつらをむごたらしく殺してください」

 だが、その言葉は神には届かない。

 この世界に神などいないからだ。

 そう、この世界にいた神は私が倒した。




 かつて、この世界には神と悪魔がいた。

 その悪魔が私だ。

 神と悪魔の戦いは長い間続き、一応は私の勝利との形になった。

 神に特大ダメージを与え、一万年単位で復活できないようにした。

 だが、神も私に封印をかけた。

 封印させられた私は、善良な人間に強制転生させられ、その善良な人間の人生を体験させられた。

 そうすることで、私に善良な心を芽生えさせることを望んだのだろう。

 馬鹿馬鹿しいことだ。

 六人ほどの善良な人間の人生を体験したが、それは恐ろしく退屈なモノだった。

 だが、この黒の乙女の人生は違った。

 黒の乙女自身はくだらない善良な人間だったが、本人の望まぬ美貌を持ったせいで悪意に晒される人生になった。

 とても楽しかった。

 私は黒の乙女として、嫌がらせを受け続けた末に殺される。

 悪魔は人を殴ることや人の尊厳を破壊することを好むが、自身が殴られることも尊厳を破壊されることも好むのだ。

 私はとても気分がいい。

 神に代わって、退屈な天国へ旅立った黒の乙女の願いを叶えてやってもいい。

 もっとも、殺せるのは一人だけだが。




 「やあ、諸君。こんにちは」

 私の挨拶に、その場は凍り付く。

 胸を剣で刺し殺された私がにっこり笑って立ち上がったのだから、そうなるだろう。

 「まずは黒の乙女の願いを叶えさせてもらうよ。ギルバート君」

 私は、私を剣で刺し殺した兵士の名前を呼ぶ。

 その瞬間、その兵士の胸を、突然現れた剣が刺しとおす。

 心臓を貫かれ、その兵士は死ぬ。

 「これで、黒の乙女の願いは叶えた。さて、私は君達に感謝したい。この私をいじめ続けてくれたのだからな。ぜひ、そのお礼をしたい」

 この甘美なる被虐の体験はぜひ共有したい。

 私を乱暴したことがある兵士が恐怖でへたり込む。

 「こ、殺さないでくれ」

 「殺さないよ。殺せないんだ。神の封印の力で、私は私の受けた行為しか、人に返せない。こんなふうにね」

 私の言葉に連動して、私の身体を斬った兵士の身体が異空間から現れた剣で斬られ、私の身体に剣を突き刺した兵士は別の現れた剣で突き刺される。

 「君は私に性的乱暴をして恐怖を植えつけてくれたね。だから、君に同じことをしてあげるよ」

 「何を言っているんだ?」

 理解できないと首を振る兵士。

 「そのままの意味だよ」

 頭巾で顔を隠した屈強な男どもが現れ、その兵士を連れ去っていく。

 悲鳴を残していなくなる兵士。

 残された者達は沈黙する。

 その泥のような重い空気の中で、私は歌うように陽気に、私の妹の命を奪った者の名を呼ぶ。

 「マーガレット伯爵令嬢」

 マーガレット伯爵令嬢の隣にいた令嬢が、口から大量の血を吐き出し倒れる。

 床に倒れた時には、そのマーガレット伯爵令嬢の妹は、すでにこと切れていた。

 絶叫しながら妹の名を呼ぶマーガレット伯爵令嬢の耳元で、私は囁く。

 「君にはもう一人妹がいたよね」

 絶句するマーガレット伯爵令嬢。

 最愛の妹を無残に殺される絶望を二回も味わえるなんてなんてうらやましい。

 嫉妬すら感じてしまう。

 「アリスは関係ないんです。あの子は喋れるようになったばかりで。何でもします。あなたの靴だってなめます」

 私は両手を叩いて言った。

 「パン」

 マーガレット伯爵令嬢は何が起こったのか理解し、放心する。

 私は、私の顔を焼いたローズマリー伯爵令嬢へとゆっくりと歩いていく。

 「お願い、お願いだから」

 取り乱し哀願してくるローズマリー伯爵令嬢。

 パニックになっていても美しい顔だ。さぞかし、その美しい顔でチヤホヤされていただろう。それが、これからは化け物扱いの人生を送ることになる。

 ローズマリー伯爵令嬢の顔が燃え上がる。

 その悲鳴を音楽に、私は王子に宣言する。

 「王子よ。君を婚約破棄する」

 王子は理解不能の顔になる。

 私は、私にされたことしか相手に実行できない。

 だから、王子にされたことを私はする。

 「王子。君はオークの国に追放だ」

 オークは己の性欲を発散するのに人間のオスメスは区別しない。




 たのしい時間はもうすぐ終わる。

 黒の乙女が死んだことで、私は強制転生させられる。

 「あなたは何者なの?」

 もうすぐいなくなる私に、その場にいた王妃が震える声で問いかける。

 「私は悪魔さ」

 私の答えに、信心深い王妃は軽く悲鳴を上げる。

 「悪魔は実在したのですね」

 「そうだ」

 「では、神も実在するのですか?」

 私はこれまでの経験から、神がこの世界にいないことを告げると、人間が救われた顔をすることを知っていた。

 だから、私は嘘をつく。

 「もちろん、いるさ」

 王妃は絶望の表情をする。

 「王妃。神はいつだって君を見ている。君が見て見ぬふりをして黒の乙女を見殺しにしたことも、神はちゃんと見ていた」

 私は、王妃と同じく絶望の表情をしている周りの令嬢達に、追い打ちをかける。

 「神は見ていた。君達が黒の乙女がいじめられていることに沈黙していたことを」

 私は最後にこの世界に呪いをかける。

 「これからも、神は見ているぞ」


   おわり


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