恋愛ゲームのシナリオを破壊した意味を答えるだけ
『救世の聖女』
この名は恋愛要素の強いSRPG、その女主人公に与えられる称号だ
ドラマパートの選択肢によってステージでの配置や敵味方、支援効果まで細かく変わるギミックが好きで前世では時間をどれほどつぎ込んだか分からない
前世、そう前世である
今世の前の世の知識
そういうことだったと理解が追いついた
だから先ずは、目の前の問題を片付けなくては
「聞いているの!?貴女も転生者なんでしょ!
悪役令嬢が大人しいせいでシナリオが全然進まないじゃない!
ヒロインのわたしが聖女にならなきゃ世界は破滅するのよ?
だからさっさと勇者と王子を渡して闇落ちしなさいよ!
やさしいわたしが国も世界も救ってあげるから!」
一息に言いたいことを言い終えた彼女は得意そうな顔でそう締めた
しかし私がうんともすんとも言わないでいると少しづつ表情が崩れ始める
「聞こえてるんでしょ!?こんな人気のない所で悪女ムーブしても意味ないじゃない!
無視するなら教室とか騎士団とかでしてくれない?!
そしたら可憐に震えて気丈な演技とかしたのに!
好感度がイマイチなの貴女のせいなんだからね!
世界が滅ぶのも、貴女のせいよ!」
あら、人に見せられない顔をしてるわね
確かにドラマパートの私と比べて今の私はずっと大人しかった
何せヒロインの邪魔を一切しなかったから
そのせいで起こる事も起こらず恋が盛り上がらなかったと言われたら
確かにそれは私のせいである
謝罪の意味を込めて黙礼をする
「目をつむらないで!
シナリオをムチャクチャにした責任を取りなさいよ!
今からでも遅くはないんだから、早く、王子だけでも渡しなさい!
勇者は譲ってあげてもいいわよ?お気に入りなんでしょ?
ホントは全部わたしのモノなんだけど
わたしは、やさしい、だから」
興奮しすぎて言葉が詰まっている
これで王子妃が出来るとは思えないけれど…
けれど彼女はヒロインだ
そのスペックの高さでゴリ押しすれば、
なんて、先の事。それよりも今が大事
「どちらも、あげないわ」
そうはっきりと言うと、彼女の顔が真っ赤に歪む
「は?
…っ!悪役令嬢のクセに!
貴女の場所は!ヒロインで!聖女の!
わたしの!場所よ!
みんなに愛された、わたしの場所!
返して!この世界はわたしの世界よ!」
そんなはず無いじゃない
ここはゲームの世界によく似ているけど
皆、生き生きとしている
そもそもシナリオが壊れたのだ
ここはゲームに似ているだけの、別世界
今、悪役令嬢がヒロインに詰め寄られている
この現状一つ取っても、元のゲームとは似ても似つかない
あぁ…もぅ…
「『救世の聖女』の意味…そして、それに至るシナリオ、どこまで知っているの?」
私は厳しい目で、彼女を見つめた
「全部、全部知ってるわ!
チョロい幼馴染忠犬騎士がすぐコロっとするせいで凄く難しいルートだってことも!
男主人公の場合の!
貴女の行く末の!
メリバエンドだって!」
そう。このゲームはなんとトゥルーエンドがメリバなのだ
通常エンドであれば男女共平和に終わるが闇の力という謎が残る
男主人公の場合、妹姫を攻略すると闇の力を持つ魔王が登場してトゥルーシナリオに入る
その際、悪役令嬢の私は主人公の邪魔をしつつ最後に魔王を看取り、闇の力と共に封じ込める『救世の聖女』になる
ようは、愛の力による人柱だ
そして女主人公ルートでは魔王の正体が判明する
勇者の中に眠る闇の力と、魔力の強い王族の血が反応して生まれたのが魔王なのだ
この時、悪役令嬢の妨害をくぐり抜け勇者か王子と親密になっていれば
ヒロインが二人と共に封印される『救世の聖女』になるトゥルーエンドに入る
だが、今は
私が二人を封印しようとしている
それを泣きながら止めているのがヒロインの彼女だ
彼女にこの荷は重い
そう思ったからこそ私はシナリオを破壊した
彼女はゲームの女主人公より優しすぎた
ゲーム上だとあった強かさや芯の強さが無く、少し流されやすい普通の女の子
それがヒロイン、彼女への印象だ
シナリオ通りの言葉を紡いではいるが、少し想定を外せばたちまち慌てふためく
そして、誘導されるがまま別の話に乗ってしまう
王子には大変好評で、この騒動が終われば婚姻を…とまで好意を募らせていたようだ
だから、私が。
王族の血を引く公爵家であり
勇者の幼馴染兼主人であり
悪役という闇の力に馴染む
この私が、二人から闇の力を奪い取り自身を封印する
そんなシナリオに再編したんだ
そろそろ、封印が完了する
何も聞こえないし視界もぼんやりしてきたけれど
王子が身体を起こすのが、私に縋り付く彼女の後ろに見えた
最後に一言、言えるかな
「メリバより、ハピエンがいいの、」
最後の最後に理解できた、壊した意味の、答え…
聖女様へ
貴女が封印されてから、10の年月が経ちました
わたしは前世の資料集の知識を元に、闇の力の研究をしました
その過程で、貴女の義妹になり、王子妃にもなり、今や王妃です
貴女と暮らした学園生活、こっそり王妃教育が含まれていたのですね
お陰ですんなりと教育は終わり、仕事の間に研究が出来ました
闇の力とは、報われない愛の力が変質した物だと判明しました
あのオドロオドロしい力が、この綺麗な結晶と同じだなんて信じられませんね
さて、研究の成果ですが
愛の力は同じ力で中和されるようなのです
なので、わたしと王のパワーで貴女の封印を解くことができました
貴女と勇者を引き裂くものはこちらで全て対処致します
不埒な王弟やメイド等、粗方掃除はしましたので、ご帰宅なさっても、旅に出られても構いません
ですが、できれば一目だけでも、、、
いいえ、貴女のこれからの未来が良いものであると王城からお祈りしています
聖女より