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『天の住人』は星を拾う ~伝説の怪盗を継いだオレ達のある一夜の任務について~

作者: 千秋 颯

公募用に書いてた癖を詰め込んだやつです。

いつか長編で書きたいなぁとぼんやり思ったり思わなかったり。

 都内のとある高級ホテル。

 その屋上に立つ四人に眩いライトと警報が浴びせられる。


『ご覧ください! かつて世間を騒がせた大怪盗が、今またその名を轟かせようとしています!』


 カメラを前にするニュース番組のリポーターが声高らかに四人の正体を語る。


『屋上に立つあの四人こそが――怪盗団【スカイ・ドウェラーズ】です!!』



***



 春麗らかな気候。暖かで穏やかな昼時。

 見栄えのいい料理で有名なカフェのテラス席でオレは


「ごめん、別れて」

「……へ?」


 ――彼女にフラれたのだった。



***



「――だっはっはっはっは!!」


 アンティークと機械の修理担う小ぢんまりとした修理屋に豪快な笑い声が響き渡る。

 営業用の一階から一つ階を降りた先にある地下室。

 そこは一見すると古めかしい雑貨や機械などガラクタが散らかる大部屋になっていた。

 部屋の中央に置かれた大きなテーブルを挟むように二人掛けのソファが二つ。


 テーブルの上で突っ伏すオレの横でバンバンと激しくテーブルが叩かれる。

 腕の隙間から奴を睨みつければ腹立たしい程に整った顔立ちの男が目尻に涙を溜めながらこちらを見ている。


「お前……」

「いやぁ、別れるの早かったねぇ千颯(ちはや)ちゃん」

「ちゃん付けするな」


 テーブルの前にノートパソコンを開いたこいつは、金髪且つ派手な容姿をしているが職は純文学作家だという――圓城寺(えんじょうじ) 悠李(ゆうり)

 事あるごとに人を……主にオレを小馬鹿にしてくる男だ。


「え、ボクもちーちゃんの事ちゃん付けしてるけどぉ?」

「ケイは何か……別枠だろもう」


 オレの向かいに座るのは薄い桃色の髪をハーフアップにした少女――いや少年だ。

 透き通った肌にはもとの華やかな顔立ちを上手く活用した化粧を施しており、髪もアイロンで丁寧に撒いた上で編み込みをこさえている。

 おまけに高校の制服であるブレザーを着ているが下はスカート、声は作っているらしいが違和感のない中性的な質を保っている。

 知人でなければ彼の性別を疑える人間は殆どいないだろう。

 浪花(なにわ)慶一郎(けいいちろう)――本名で呼ぶと機嫌を損ねる為ケイと呼んでいる。


「ケイは良くて俺は駄目なの? 差別だぁ」

「ケイは誰相手でもこうだろーが!」

「とか言っちゃって~。彼女にフラれた八つ当たりなんじゃないのぉ~?」

「なワケ……!」

「きゃー! 二人共ボクの為に争わないでぇ~!」

「どう見たらそんな解釈できるんだよ!」


 すぐに茶々を入れる悠李の顔を見ている内に彼女にフラれた悲しみは沸々とした怒りへ塗り替えられていく。

 オレと悠李の間でくだらない言い合いが勃発し、今度はケイが活き活きとした様子で口を挟んだ。

 オレ達の間で言い合いが激しくなり始めていたその時だった。


 ダンッ! という激しい音と共にテーブルが叩かれる。

 音がしたのはオレの対角線上に座る男――萩原(はぎわら)聡正(そうせい)の方からだ。

 大学生でありながらこの修理屋を営む天才で、オレ達のアジトの家主でもある。

 やや深い紺色の前髪を目元まで伸ばした聡正は眼鏡の奥にある鋭い目を更に釣りあげてオレ達を睨みつけた。


「……無駄なじゃれ合いしかしないなら帰れ。何しに集まってるのかわかってるのか」

「こっわぁ」

「悠李……!」

「ごめんねぇ、そーちゃん」


 気が立っている聡正の神経を逆撫でるような呟きをする悠李を慌てて窘める。

だが幸いにもこいつのいい加減な振る舞いはいつものものだと聡正も理解していたおかげでそれ以上の雷が落ちる事はなかった。


「今夜の『任務』の話だろ。ごめんな、聡正」

「色恋のせいで脳が全焼した訳ではないようだな」

「うっ」

「ブフッ!」


 オレは咳払いを一つするとテーブルの脇に避けられていた地図を全員が見えるように広げる。

 随分厳しい言葉や吹き出される気配があったが、それには気付かないふりをした。


「今日のターゲットは『ホテル・SUGOKUロイヤル』に持ち込まれるアンティーク……手鏡だな」


 オレはホテルの場所にペンで丸を付ける。

 任務の詳細を時系列に話しながら更にいくつかの小さな丸を足した。


「ま、『アイの象徴』ではないんだけど、このお宝の持ち主――ホテルのオーナーが闇オークションの常連客らしいし、これの出所から『アイの象徴』に関する情報を拾えるかもしれない」

「それで出てきた試しないけどねぇ。今のとこ俺達の収穫ってゼロに近いよ」

「そう簡単に見つかったなら先代のさん達は苦労しなかっただろうしねぇ。仕方ないよ」

「先代【スカイ・ドウェラーズ】であっても手が届かなかった唯一の宝『アイの象徴』。――後継の僕達が集まったのは彼等の無念を払拭する為だ」


 かつて日本中を騒がせた大怪盗団【スカイ・ドウェラーズ】。

 十年前に表舞台を去った先代は後継としてオレ達を選び、現役時代に唯一手に入れられなかったお宝『アイの象徴』の回収という一つの使命を預けた。

 元々面識がなかったオレ達はその任務を完遂する為だけに集められ、『アイの象徴』の情報を追いながら怪盗として活動しているという訳だ。


 聡正がオレ達の本来の目的を改めて提示したその時。

 地下室の壁に掛けられた鳩時計が音を鳴らす。

 それと同時に俺達は一斉に立ち上がった。

 時刻は十七時十五分。今回の任務開始の時間だ。


「んじゃ、行きますかぁ」

「はーい!」

「僕が鍵を持ってるんだ。さっさと出ろ」


 伸びをする悠李、手を上げて明るい返事をするケイ、眼鏡を外しながら文句を吐く聡正。

 それぞれの支度が整った事を確認してからオレは地上へと続く扉を開けた。


「――任務開始(ミッション・スタート)だ」



***



「胃がいてぇ……」


 高級ホテルのロビーの壁にオレはもたれ掛かる。

 行き交う人達は揃って高級なドレスやタキシードに身を包み、堂々とした振る舞いで横切っていく。

 勿論オレの格好も高級ホテルの客として相応しい姿に整えられているものの、中身が庶民であるオレにとってこの場はあまりに居心地が悪い。


 なるべく不安が顔に出ないようにオレは視線を動かす。

 するとロビーの反対側で女性に声を掛けられている悠李の姿があった。

 オレとは打って変わって場慣れしているらしいそいつは女性の声掛けに丁寧に応じながらも任務の為に移動する機会を窺っていた。


 今回、ホテルの玄関から潜入するのはオレと悠李、従業員用の裏方から潜入するのが聡正、外で待機しているのがケイという分担になっている。

 オレと悠李は共に三階の端にある隠し部屋へ潜入し、お宝を盗む役割だ。

 それぞれ違う道順で移動し、隠し部屋の前で合流する算段となっている。


『こちら”アダフェラ”。持ち場についた』

『”シェラタン”、同じくだよ~。外ちょっと冷えてるから早く終わらせちゃお』


 耳に付けていた通信機から声がした。

 “アダフェラ”――聡正のコードネームだ。

 “シェタラン”はケイのコードネーム。


 本格的に任務へ着手する支度を終えた二人がオレと悠李の応答を待つ。

 悠李も通信は聞こえているだろうが、他の客と何やら話をしており堪えられそうにはなかった。


「こちら”レサト”。オレは問題ないけど……あー、”グラフィアス”が客に絡まれてる」

『やっぱりあいつ潜入向いてないだろ』

『イケメンだもんねぇ。ボクも負けてないけど?』


 オレは自分と悠李の名前をそれぞれのコードネームを用いる事で伏せ、現状を報告する。

 だがその直後、客から離れた悠李は一瞬だけオレのいる方へ振り向いてから片目を閉じ、先の廊下へと歩いて行った。

 それからすぐに通信が入る。


『はいはーい、イケメンの”グラフィアス”だよー。こっちもオッケー』

「おせぇよ……。じゃ、気を取り直して」

「『『『星を拾いに行こう』』』」


 一つの合言葉と共にオレもまたロビーを離れるのだった。



 客室が並ぶ廊下を真っ直ぐ歩く。

 通信機からは心強い仲間の指示が何度も届いていた。


『その先も問題ない。丁度警備の入れ替わる時間で、適当な雑談をしているな。気が緩んでいるからただ横切るだけで怪しまれる事もない』

(了解、っと)


 聡正の役目は主にターゲット周辺のセキュリティーの掌握。

 その為に彼は裏方へ潜り込み、隙を衝いてセキュリティールームへ潜伏、中にいた従業員を薬で眠らせている。

 設置されたカメラの映像から建物に配置された人員の殆ど把握できる上、隠し部屋やお宝周辺に張り巡らされているだろうセキュリティーを全て停止することも出来る。

 所謂ハッカーって奴だ。


 廊下を曲がれば聡正が話した通り、二名の警備が何やら会話をしている。

 オレは素知らぬ顔でその横を通り過ぎた。




 聡正のナビゲーションのお陰でオレは驚く程スムーズに三階の廊下の一番端まで辿り着く。

 周囲には人もいない。これも読み通り。

 オレは事前の情報通りに行き止まりの壁を触り、僅かな窪みに気付くとそれを押す。

 すると壁の一部が僅かに奥へ沈み、更に横へスライドし、隠していた廊下を晒した。


(オッケー、順調……っと)


 オレが隠し通路へと足を踏み入れればすぐに壁が元に戻る。

 廊下はそこまで長くはない。

 本来の行き止まりまで見通せたオレはこの廊下に存在しているたった一枚の扉の前に悠李が立っている事に気付き、顔を顰めた。


「お。遅かったねぇ」

「いーんだよ。速さ競ってるわけじゃねーんだから」

『隠し部屋のセキュリティーは全て切ってある。後はターゲットを回収したら終わりだ』

「了解」

「オッケー」

『気は抜くなよ。周囲の警備は厳重な癖に中にカメラは設置されていない。何かイレギュラーがあっても事前に確認できないんだからな』


 聡正の忠告に再度返事をしてから俺達は自身が身に着けていたアクセサリーに触れる。

 オレはペンダント、悠李はピアス。

 それに触れた途端、俺達の格好は一瞬で変化する。


 顔を隠した仮面とさっきまで来ていたものとはまた異なる型のタキシード、そしてマント。

 怪盗としてのドレスコードへ着替えたオレ達は目配せをすると部屋へと飛び込んだ。


 本来なら様々な罠が仕掛けられていただろうそこは質素な小部屋だ。

 中央にコレクションケースが一つ置かれているだけの部屋。

 だがオレ達の視線はそのコレクションケースではなく、その前に立つ警備服を着た数名の男、そして派手なドレスに身を包んだ女性へ向けられていた。


「やっぱり来たのね」


 女性は勝ち誇った笑みを浮かべて持っている手鏡をオレ達へ見せつけた。


「”アダフェラ”? 西園寺(さいおんじ)玲奈(れいな)がいるよ。鏡持ってる」


 西園寺玲奈、五十歳――今回のターゲットの所有者であり、このホテルのオーナーだ。

 オレ達は事前の情報収集で彼女がこの時間はVIPと食事会である事を把握した上で計画を立てた。

 だが彼女はオレ達を警戒し、嘘の情報を流していた……もしくは後から勘付き、予定を変更したのだろう。


 これはイレギュラーだ。

 ――だが、想定内。

今まで何度も経験してきたケースの一つに過ぎなかった。


『そうか。なら――』

「――プランBだな」

『オッケー、聞いてたよ~。任せて』


 プランの変更を聞いたケイから心強い返事がある。

 すぐに応援が来るだろう。

 その間にオレや悠李が試みなければならないこともあった。


「貴方達、例の怪盗団? にしては、随分若いように見えるけれど」

「えー、ほんとですかぁ?」

(変な謙遜すな)

「えーっと、お姉さん。一応お伺いしたいんですけどぉ、その鏡を譲っていただく事ってぇ……」

「駄目に決まってるでしょう?」

「デスヨネェ」


 心の中で悠李に突っ込みながらも交渉を試みるが結果は予想通り。

 だがここで退くわけにはいかない。

 言葉で説得しようとする怪盗が愉快なのか、可笑しそうに笑う西園寺とは打って変わり、オレは真剣に話した。


「その鏡が貴女の命を奪うものだとしてもですか?」


 真剣そのものであるオレの目に一瞬相手が怯む。

 しかし彼女は何度か瞬きをした後、大きく吹き出した。


「プッ……アハハハハッ! なぁに? オカルト話? そこまでしてこれを手に入れたいの? 大怪盗って言っても大した事な――」


 ツボに入って、笑い続けていた西園寺の声はしかし、突如として途切れた。

 彼女が持っていた鏡からどす黒い煙が溢れ出したのだ。

 それは獣を模した大きな怪物の姿を作る。

 初めは輪郭が不鮮明だったそれはやがてドスンという大きな音とともに着地し、実体となった。

 化け物は一番近くにいた西園寺を見下ろす。

 西園寺と近くにいた警備の悲鳴が部屋中へ響き渡った。


「っ、やっぱり『アーティファクト』か! ――”グラフィアス”!」

「全く、言わんこっちゃない」


 悠李が西園寺のもとへと駆け出す。

 そして彼女を横抱きにすると大きく後ろへと飛び退いた。

 刹那、先程まで彼女がいた場所へ怪物の拳が振り下ろされ、床にクレーターを作った。


「ヒッ、ヒィィィッ」


 警備達はその様子を見て一目散に小部屋から走り去った。


「こちら”レサト”。ターゲットがアーティファクトである事を確認。召喚型だ」

『了解。今” シェラタン”が向かっている。ターゲットの回収と召喚物の気を引いてくれ』

「了解」


 ――アーティファクト。

 それは科学では説明できない力が存在していた時代を生き抜き、現代に残った古代の産物。

超常的な力を秘めたそれらは時として人を殺す。だから一般人の手に残しておいてはいけない。

オレ達がターゲットとして選ぶお宝はそんな危険な道具ばかりだった。


 オレはポケットに隠し持っていた金属の棒を取り出す。

 それに付けられたボタンを押せば棒は瞬く間に長いステッキとなる。

 窓際には西園寺と共に退避した悠李がいる。

 彼は窓の鍵を開けながら西園寺へ説得を試みていた。


「マダム、その鏡を渡してくれるかな」

「ひっ、こ、こんなの……! いらない、いらないわ……っ!」

「どうもありがとう」


 自分の持つアンティークがまさか化け物を召喚する道具だとは思いもしなかったのだろう。

 彼女は悠李へ押し付ける様にして鏡を手放した。


「ほら、”レサト”!」

「ったく、死なせるなよ! オレの事!」

「情けないなぁ」


 受け取った鏡を悠李がオレへと投げる。

 すると怪物の標的は瞬時にオレへと切り替わった。

 オレは怪物と距離を詰める。

 目の前に拳が振り下ろされた。それをステッキで往なしながらすれすれで回避する。


 オレは怪盗団の中で一番足が速く、瞬発力に長けていた。

 だからこういう囮の役割は誰よりも得意だ。


「っ、”グラフィアス”!」

「俺、文弱なんだけどなぁ」


 何度も怪物の攻撃を避けていれば流石に体力も尽きる。

 西園寺に部屋の隅で息を殺しているよう言い聞かせた悠李をオレは呼ぶ。

 悠李は怪物の背後から距離を詰めると正面へ回り込み、オレと化け物の間へ入る。

 そこへ振り下ろされる長く太い腕。

 しかし悠李はそれを往なして掴み上げると背中からその巨体を投げ付けた。


「……寝言は寝て言え。マジで」


 轟音と共に怪物が背中から落下した。

 武道によって上手く身体の負荷を分散しているのだとしても、一見儚げな容姿をしている奴から繰り出される業ではないだろうとオレはドン引きした。


 その時だ。

 窓から差し込む月明かりが一つの人影によって遮られる。


「あ、ナイスタイミングじゃない?」


 姿を見せたのはオレ達と同じく怪盗としての姿に変身したケイだ。


「”シェラタン”!」

「はーい!」


 オレはケイへ鏡を投げた。

 彼はそれを受け取ると丁寧に床に置く。


 普段とは打って変わり、華やかさを押さえ、動きやすさを重視した格好の彼は腰に備えていたケースから神楽鈴を取り出す。

 神社の家に生まれた彼はオレ達の中で唯一、超常的な力を抑えたり、祓ったりすることが出来る才を持っていた。

 だから任務中にターゲットであるアーティファクトが暴走したり、回収後もいつ能力が発現するかわからないようなものの力を抑え込む役割は全てケイが担っている。


 ケースから取り出された途端、鈴は思い出したかのように歌い始めた。

 その音と調和するようにケイは詞を唱える。


「――掛介(かけ)麻久母(まくも)(かしこ)()伊邪那(いざな)岐大(ぎのおほ)(かみ)……」


 早口で、しかしはっきりとした発音で唱えられる詞と共に鈴が舞う。

 彼が詞を唱える間、怪物は仰向けに倒れたまま苦し気にのたうち回っていた。


「――(かしこ)()(かしこ)()(まを)()


 そして彼が最後の一節を唱え、神楽鈴を鏡の上に被せる。

 それを最後に、怪物は断末魔を残して消滅した。



***



 オレ達はホテルの屋上へ辿り着く。


「遅い」

「ええ、最後何もしてなかった人なのにー!」

「適材適所。悪いが手柄で言うなら僕が半数を占めていると言ってもいい」

「あながち間違ってないのが悔しいなぁ……!」


 聡正は一足先に辿り着いていたようだ。

彼もまた普段とは大きく変わった、任務中の格好をしている。


 暫く待ったのだろう彼は開口一番文句を溢し、それにケイが言い返すものの、結局は言い負かされて終わってしまった。


「そうだ、”レサト”。これ預けとくよ」

「別にお前が持ってても良いんだけど」


 ケイは思い出したようにオレへ手鏡を渡す。

 苦く笑い返しながらオレはそれを受け取った。


「リーダーだからね!」

「一番新参者なんだけどなぁ」


 鏡には尖る八重歯を見せながら苦笑いを浮かべる赤髪の男――|橘千颯が映っている。

 少し伸びた襟足を金色のリボンで結っているのは怪盗仕様だ。


 オレは鏡に異常がない事を確認するとそれを視線の先から下ろす。


 怪物が消えてすぐにケイが鏡を回収し、オレ達は小部屋を後にした。

 あとついでに、悠李が怪物から守ったという手柄と変装では隠し切れていないらしい美貌で西園寺を口説き落とし、騒ぎを聞きつけてやってくるだろう警察らの時間稼ぎをしてくれることになった。

 顔が良いだけであらゆる事がイージーモードなのは普通にずるい。


「マジで滅べイケメン」

「あっれぇ~? 今日フラれちゃった世にも哀れな男が何か言ってるなぁ~?」

「殺す……!」

「アジトに戻ってからにしろ」


 日常的な煽り煽られる喧嘩が勃発しそうになったところで聡正が口を挟む。

 彼は地上を指さした。

 オレの姿が地上からのライトに照らされ、何台ものパトカーがサイレンを鳴らし、数えきれない人々が集まっている。


「圧巻だねぇ」

「もう慣れつつあるけどな」


 悠李の言葉に相槌を打ってからオレは「さて!」と声を上げる。


「帰るか」


 仲間達がそれぞれ頷き、オレ達は屋上の縁へ立つ。

 そして同時に宙へ向かって飛び出したのだった。


「――任務成功ミッション・コンプリートだ!」


 煙幕を宙に放り、オレ達は煙に身を隠す。

 次の瞬間には持ってたアーティファクト(勿論安全なやつ)でアジトまでテレポートしたんだけど……


 ――地上にいる人達には、オレ達が忽然と姿を消したように見えてたんだろうな。

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