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夢の中の弦史は、平均的な背の高さだけど、身体はがっしりしていて、懐かしい褐色の肌に堀の深い顔立ち。髪型は短く清潔感があり、あの頃のようにアラブの王子様みたいに爽やかに微笑んでいた。
『きらら……』
「弦史?」
弦史は私に手を伸ばし、頭を撫でてくれた。弦史の手の動きに合わせて、胸を高鳴らせる香りがふわりと香る。
弦史の手がやがて頬まで降りて来て止まると、とても煽情的な目で私を見つめていた。
その瞳に吸い込まれるように、私は弦史の腰に手を回し、唇を近づけていく。
『きらら……』
「弦史……」
『目を覚まして』
「え?」
パッと視界が開けると、目の前に飛び込んで来たのは真っ赤になった葵の顔だった。しかも葵の体勢はなぜか私に壁ドンならぬ、ベッドドン状態で覆い被さっていた。
「ななななにっ!? 何してるの!?」
「え? 違うっ! 心配で見に来たら、きららが寝ぼけて俺の腕掴んで引っ張ったんだよ。それで体勢崩して、倒れないように咄嗟に両手を出して自分の身体を支えたらこうなって、そしたらきららが目ぇ覚まして」
「え」
私は自分の手を見ると、がっしりと葵の背中に手を回して掴んでいた。
「ごごごごごご、ごめんっ!!」
手をパッと放せば、葵もパッと上体を起こした。
「いや、うん、大丈夫」
しばらく互いに目を合わせられず、言葉も出なかった。
そわそわと落ち着かない様子だった葵は、思い立ったようにパイプ椅子を取りに行き、ベッドサイドに置いて座った。
「ごほんっ……それで、体調はどう?」
私も上半身を起こした。
「うん、だいぶ良い。葵は授業どうしたの?」
「仮病使って抜け出して来た」
葵は二ッと悪戯な笑みを見せる。
「ばかじゃないの」
「そこはありがとうだろ」
先ほどまでの緊張感が段々とほぐれてくる。
葵が優しくしてくれると、ついあの頃のように心を開きそうになる。そして、考えるよりも先に自分に予防線を張った。
「念の為だけど、どんなに優しくされても私は弦史が好きだよ。それは絶対変わらない」
つい葵から視線を外してしまえば、聴こえて来た葵の声は少し寂し気で、それでいてとても優しかった。
「うん……それでいいよ」
私はゆっくりと葵に視線を戻す。
そこにあった葵の表情は、とても大人びた笑顔で、本当に私の気持ちを大切にしてくれているのがわかり、不本意ながら胸がキュンとしてしまった。
「葵は……誰かに夢中になったことないの?」
「きらら」
「え? いや、冗談じゃなくて」
「本当だよ」
「またまた……」
「だからいまだに彼女いない歴イコール年齢だから」
「え? 告白されるでしょ?」
「告白されたからって、誰とでも付き合うわけないでしょ」
「意外……」
「きららにとって俺はどんな目で見られてたんだよ」
葵がイスをガタンとベッドに近づけてきた。
「告白されたら、まずはお礼を言って、最後に必ず、好きな子がいるって伝えてる」
「好きな子?」
葵から笑顔がなくなり、真剣な眼差しで私をじっと見つめてきた。
「だから、きららだよ」
「だから、私は——」
葵が急に前屈みになって、私の顔を覗き込んでくる。
少し上目遣いで葵に見つめられたら最後、どんな相手であろうと心臓を打ち鳴らさずにはいられないだろう。
「俺の気持ちだって変わらない」