理不尽な理由でギルドを追放された件について(神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説外伝)
ギルド追放ものとして自身の書いてきた作品をベースに短編小説として書いてみました。
血の災厄と呼ばれる、血の海が大地を染め多くの命を奪ってきた事件。それを起こすカギとされる紅儡について、まだ不明な点が多かったころの話と合わせ、いきなりギルドを追放されてしまった青年、アーカインの旅について書いてみましたがどうでしょうか。
地球と異なる世界にあれど似ており、多くの命を育む星がある。その名をアクシミデロ星、異世界フォーミッドに存在する地球型惑星では大昔、非常に発達した文明があったが大消滅という災害により退行したという。
しかし転移現象でこの星に飛ばされてきた幸運な異世界の住民と、生き残っていた星の住民は次第に友好関係を深め300年の間にもともと存在していた文明の8割近くまで復興したという。
けれどもそれを阻むものも少なくなかった。何故なら転移現象は恵みをもたらすだけでなく災いも運んでくることがありその中には人類にとって脅威にもほどがある存在、侵略者が少なくなかったからである。
また、件数は未だ少ないもののいくつもの街で突然人間をはじめとした生物が何らかの疫病に罹患し、最終的に溶けて血の海と化したり呪いの血を伝播させる血の怪物に成り果てたりと聞いただけでおぞましさが伝わってくる原因不明の怪奇事件が起きていた。
中でも血の災厄と呼ばれる2億人もの人命、100近くの街に回復不能な損害を与えた事件が数年前に起きており、絶望に陥った人たちを救った英雄たちがいるという。
アーカインという青年はその英雄たちに憧れており、中でも1人で50の都市を血の呪いから解放して見せたハーネイトを尊敬し、目指す目標だと考え日々精進し、所属するギルドで働きながら街を守っていた。
そんな彼の人生を大きく変える出来事が起き、それに巻き込まれた彼はギルドを詳しい説明もなく追放されてしまったのであった。
しかし彼はすぐに追放の意図を理解した。血の災厄が再び起こるのを阻止するためだと彼は旅を始めたのであった。
地球とは違う、同じ時間軸を共有する世界、フォーミッド界。とある超エネルギー生命体の故郷とも言われ、その力を身に宿した人型の種族「古代バガルタ人」が住む惑星。名をアクシミデロ星と言う。その星には100以上の国が存在し、日夜多くの次元侵略者や魔獣らと戦っているという。
その星には巨大な4つの大陸が存在するが、どれもほとんどが地続きであり、東大陸と南大陸の境にある小国、イロウズ王国という国が存在する。他の周辺に存在する国と比べると規模は5分の1ほどであるが、街道が通っているため交通の要として、また周辺に存在する広大な肥沃な土地のおかげで作物などには困らずそれを売買する商人が多く暮らしているという。
この国を治める王、ギルテネムスは優秀な政治能力をフルに使い国をさらに発展させ、交易拠点として物流などに力を入れつつ様々な人材を適宜運用する術に長けていた。また、彼は数年前に起きたある戦いに参加し仲間と共に勝利を収めたという。
しかしこの国にも、ある危険な存在の影がちらついていた。だがそれを知る者はほとんどなく、それはあるギルドに属する一部のもの以外認知していない状態であったという。
「悪いがアーカイン、今日でお前はこのギルドから去ってもらう」
「は、はあ?な、何言っているんですかギルマスぅ! 何が理由なんですか、俺、何かやらかしたんすか?」
ある日、イロウズ王国の南側にあるラティア区にある冒険者・防衛ギルド「ギルツス」ではある騒動が起きていた。それはギルドマスターのオーフェル・ファイドゥース・ギルツとギルド内で一番年が若いアーカイン・ラグナロフス・ドーラヴァッハという金髪の少年によるものであった。
頭が薄く、眼光は刃のように鋭い中年のガタイの良い男であるギルツは、金髪碧目の、少々生意気な感じを見せる少年に対し唐突かつ残酷な一言を突きつける。勿論少年であるアーカインは反論するが、すでにギルツは彼をこのギルドから追放しようと決定しており、互いに主張をぶつけ合っていた。
何故このアーカインという少年はギルドを追放されることになったか、事の経緯は数日前にさかのぼる。ある日アーカインはギルドに入ってきたBランクの依頼を受け、ある薬草と岩の採集のためここから数キロ離れたガーデス森の中に入り、幼馴染2人と必要なアイテムの採集に勤しんでいた。
するとアーカインは湖を見つけ顔を洗おうとしたが、その付近に不気味な赤い、まるで血をそこら中にぶちまけたかのような場所を見つけた。
何か事件でも起きたのだろうか、それとも獣同士が戦ったのか、それにしては血の量が多くしかも地面に吸収できないほどの量に違和感を覚え距離を取りながら、どのくらいの規模があるか伺いつつ見ていたところ、その場所に原住生物・アトピリアと言う鹿にかなり良く似た獣が足を踏み入れた。すると急にそれはもがき苦しみ、その場に倒れるとまるで消化されるかのように溶かされ、血の海に沈んでいったのであった。
それを見た彼は昔起きたある事件のことを思い出し怖くなり、別の場所で薬草などの採取を丁度終えた幼馴染2人に声をかけ、急いで山を下りるように指示し、その一部始終をアイテムを納品した後、ギルドマスターであるギルツに話をしたという。
アーカインの話を聞いたとき、いつも険しい表情を見せるエンドスがそれ以上の、今まで一度も見たことがないような顔を見せアーカインは、自身がとんでもない物を見てしまったのかと思いながら他の依頼も引き受けつつ、ギルド員であるマッカースとダルシャンと共に国の周辺で異変が起きていないかを調べていたという。その矢先、彼に対しエンドスは事実上の追放という、退団命令を出したのであった。
「先日、お前が見つけてきた物が原因だ」
「何だと? そんなのがなぜ退団理由になるんだ!」
「……ガルムランの血災事件、分かるか?」
「なっ、それは授業で習ったあの……村が1番で消滅したあれですか。血の災厄、その始まりと言われる……凄惨な事件、ですよね」
どうやっても納得のいかないアーカインは声を荒げてギルツに迫るが、彼の発した言葉を聞くと思わず言葉が詰まり、自身の見たあの光景が、過去に起きたある事件で目撃されたものと同じものだったという認識は間違っていなかったのだなと思いつつギルツの話を聞く。
「800人中、500人もの村人が、一夜にして血を求め彷徨う屍人になった。ここからさほど離れてはいない、アドル川のほとりにある村がな」
「その時に、魔法協会とBKが協力し村の封鎖とかしたんですよね」
それは今から5年程前の春から夏にかけて起きた、悲惨な事件であった。農業や畜産業などが中心のとある小さな村が、一晩でほぼ壊滅した事件である。当初異世界から来た侵略者、魔獣の仕業かと思っていたが、その痕跡が全くないことから魔法協会と呼ばれる魔法使いの最大規模ギルドのメンバーが現地に派遣され、その調査の結果500年程前に起きた大災厄の1つと類似しているということが分かった。
その後BKと呼ばれる、魔法協会から分裂した若手の魔法使いが集う魔法秘密結社も調査に訪れ、ある魔法剣士の活躍で事件の犯人を倒すことができたという。その男の義理の父とギルツは友達であり、今回の異変が事実ならば、魔法剣士を探し出し、ここに来てもらわないといけないと考えていた。
「あの男は今、各地で起きているDGとの戦闘で忙しいと言うが……。アーカインよ、あの血の池を見た以上、もしかするとお前も危ない。となるとこの国も危ないわけだ。後は、分かるか?」
ギルツはそうぼやいた後、アーカインに対し椅子に座るよう促し、自身も近くにあった椅子に腰かけてからこの小国に裏で伝わる話を彼に教えたのであった。それは、元々アーカインはこの国の人間ではなく、遠い町から流れてここにやって来たからである。
その後ギルツは、この小国は5年前の事件の被害者を多く受け入れていること、彼らがずっと恐怖に怯えながら生きていること、それを国王も理解しており、彼らに配慮していることなどをアーカインに教える。それを聞いて察した彼は、ため息を深く吐いてからうなだれ、仕方ねえかと言わんばかりな感じの表情を見せ、ギルツにこう言う。
「……そうかい、分かったよ。まあ俺は今のところ健康ピンピンマンだけどなあ」
「血を求める屍人、いわば吸血鬼ゾンビになるには潜伏期間という物がある。今のうちに、荷物をまとめて出て行ってくれ。金は渡す。あれと接触している可能性がある以上、そのままではこの街が危機に陥りかねん」
「だからさあ、俺は血を見ただけで触れてはないんですって。触れた人が、そうなるんだったらさあ」
「しかしだ、近くにいたのは確かだろう。それと、お前は元々別の国からここに来ただろうから分からないことがあるだろうから言うがな、もしお前があれを見たことが国王にまでばれれば、即刻処刑だ」
「ちょ、ええええええええっ!」
「声が大きいぞ」
「だ、だってよ。そんな話は一度も聞いてねえし」
「そりゃそうだろう。それほどに、あの事件を恐れている者はまだ多い。命からがら逃げてきた者も、ここに長く住んでおる。国王もかつてあの血の災厄と戦った再葬機関の一員だったと聞く。いたずらに刺激すれば大騒動だ。もしかすると魔法協会などもやってきて、国ごと今度は焼き払われるかもしれん」
もし事態が予期せぬ方向に広がり、騒乱の元となればどうなるか予測がまるでつかない。そう考えたギルツは魔法協会の件について話した。
「へっ、そういうことかい。確かに殺されたくはねえなあ……。魔法協会の連中はとんでもない変人奇人ばかりだし、過去に何人も犯罪者を出しているしなあ。なあギルマス、あんた隠し事してねえよな」
「隠し事だと?」
「俺が見た、血の沼みてえなあれの正体、ギルマスはちゃんと知っているっすよね」
「知っていても、教えるわけにはいかん。お前は元々口が妙に軽いからな」
「ぐっ、あの件については重々反省しているっての」
「……せめてもの情けというべきか、持たせたいものがある。この本を持っていけ」
アーカインの質問に対し、そう答えたギルツは近くにある机の上に置いてあったやや分厚い、図鑑あるいは辞典のような大きな本を手にし、彼に渡したのであった。その表紙を見た途端、アーカインの表情がぱっと明るくなる。
「これは、俺が欲しいと思っていた機士国の機械図鑑っ、なぜあんたが」
「お前が、生まれが機士国だってことを知ってな。俺が持っていても無用の長物だが、お前にならそれの価値を引き出すことができるだろう。困ったときは、それを開け。中にある真実と事実を判断し、行動に移せ。最後の教えだ」
あれは今から何年前だろう、ボロボロの姿でこの国を訪れた少年を拾ったのは。そんな彼が今では立派なギルド員として働いている。
ギルツは彼の素性を可能な限り調べてみた。すると彼はどうも機士国と呼ばれる近代化が凄まじく進んだ機械の国から来たことが分かった。
自身はその手のものには疎いが、この少年ならば昔古い友人からもらった本の内容も分かるだろう。それに昨日書いた手紙を挟み込み、追加で大量の金貨と紙幣が入った魔導袋を彼に渡したのであった。
「……そう、だな。ギルド長、今まで、お世話になりましたぁあああ!不本意ではありますが、国とギルドに迷惑はかけられねえっすから」
「ああ、達者でな。それと、急いでここを出た方がいい。俺も、お前をあのような形で失いたくはない。生きていれば、どこかで会える」
「そうっすね……はい。では、ギルツギルド長もどうか元気で」
「ああ、お前の無事を祈るぞ、アーカイン」
既に荷造りは済ませており、アーカインはギルドのドアを開け、彼は涙を浮かべながらギルドマスター・ギルツに別れを告げると静かに出ていき、人が少ない道を選び大きな街道に出たのであった。
一方で、彼を送り出したギルツも今までのことを思い出しながら、感傷に浸り飲み物を口にしていた。すると部屋のドアをノックし、10代後半のような見た目の茶髪で瞳が美しい女性が入ってきた。
彼女は副ギルドマスターこと、エリシア・ミフォンと言い、元々魔女の森と呼ばれる魔法運用集団に在籍していた支援と防御に長ける魔法使いである。
彼女はギルツの真の目的について知っていたものの、もう何年も家族同然の付き合いをしていたアーカインを追い出したのかについて、どうしても我慢できなかったところがありつい彼にそれを問いただす。
「ギルツ様、本当にあの子を追放するのですか?あれだけ手塩にかけて育てたあの子を……彼は貴重な医療魔法の使い手で、期待されていたのにっ、どうしてなの」
「……フッ、何を言う。あやつにはこの国の存亡をかけた大仕事をしてもらうことになる。治療できる魔法を扱える素質を、奴にはさらに鍛えてきて戻ってほしい。それと恐らく彼は今のままでは……長くは生きられない」
何故50人近くいるギルドの中で、最も若いアーカインをああいった形で退団させたのか、それは彼の素質と過去、何よりこの先起こるだろう戦いに、彼を巻き込みたくないという親心のような物が理由であった。
彼はもともとこの国の生まれではないし、昔BKに入り、良い成績で卒業し医療系の魔法と感知魔法に長けた人材であることはよく知っている。だからこそ彼のおかげでギルドは大きく成長し現在に至る。あれから7年ほどアーカインを実の息子のように育ててきたギルツには、元々妻と息子、娘がいた。
しかし10年前のあの事件で、帰らぬ人となったのであった。だからこそあんな思いはしたくない。それと彼の能力の可能性に賭け、血屍人をも治せるような人材になって戻ってきてほしいという思いが彼にあった。
それは、あの本に挟んだ封筒の中にある手紙を読めば今回の退団の目的がはっきりと分かるだろう。そう考え、様々な保険をかけるがゆえに荒い形で彼を送り出したのであった。
「昨日手紙を書いていたのは、まさか……」
「ああ、そうだエリシア。わしの言った言葉の意味が分かっているならば、彼は誠実に動きこの地に再び戻ってくる。手紙を本に挟んでおいたが、ああは言っても中々頭のキレる若者だ。機転がよく聞く聡明な男だ。だからこそ今のままでは血の怪物になるかもしれん、それを止めるには伝説の英雄王、彼に会って治療してもらうしかない」
「ええ……アーカイン、どうか道中に命を落とすようなことは、あってはならないわ。無事に、戻ってきて」
改めて話を聞いたエリシアは、血で染められた土地がこれ以上増えないように根本的な対策を取る必要があると言い、それに対しギルツはできるだけ問題が何かとある魔法協会の手は借りたくないと言い、だからこそBKと縁のあるアーカインこそ最適任であると少し笑いながらそう言う。
BKにはあの事件の犯人を倒し、治療できるものが数名いること、何より伝説の英雄王はBK創立に携わっているという。それを聞いた彼は、魔法協会に悟られることなく支援を求めるためああしたのでもあった。国王とその英雄も縁の深い人物であるが国王は性格に難があり下手をすればアーカインは事件を未然に防ぐためと言え処刑されかねない。だからそうなる前にアーカインをあえてギルド追放処分にすることで逃したと言える。
すると部屋のドアを激しくノックし、背の高いぼさぼさした茶髪とラフな格好が目立つ青年が部屋に入り、ギルツに声をかけた。
「おーいギルマス、例の会議の時間が迫ってますよ、支度しないと」
「そうだなダルシャン、何せ国王直々の依頼だ。……5年前の惨劇が再び起ころうとしているのならば、希望を彼に託すほかない。くれぐれも調査の際、血の海を見つけたらすぐに離れろ」
ダルシャンと言う男に対し、ギルツは席を立つとかけていた上着を羽織って、少し肌寒い夕方の街にギルド員8名を連れ繰り出した。街中は至っていつも通りで、露店や飲食店などが中央大道の縁に並んでいた。人混みの中を歩く8人は、その先に見える大きな宮殿に向かっていた。
それは、アーカインが見た例の血の池に関する話であり、各大臣及び国王ことギルテネムス・ルイズファルデン5世と共に協議するためであった。
「国王もかなり焦っているようですね、各大臣もせわしなく動いているし。だけどギルマス、本当にアーカインを旅に出させたんですか?各国の情勢も良くないし、いつDGと呼ばれる侵略者が来るかもわからないのに」
「それでもだ。下手をすればDG以上に恐ろしい敵が相手になるのだからな」
「では行こう、彼が新たな力を身に着けて戻ってくることを願おう」
「はい、ギルツ様」
「そうだな、俺たちは俺たちでやることをやるまでよ! アーカイン、今自由に動けるのはお前だけなんだ、早く彼を連れてきてくれよ」
アーカインが見たという血の池は、この地区からおよそ6メイガズ、つまりほぼ6㎞ほど西にあったことを聞いたギルツは、3か月のうちにその血の海がこの国の西端に到達するであろうと話し、その前に手を打ち犯人を倒さなければならないといけないと他7名と話をしながら、宮殿のある方角に姿を消したのであった。
「あーあ、これからどうすればいいんだ?」
その間にアーカインは国を出ようとしていた。ギルドについて思うところは色々あれど、ギルドマスターが何の理由もなく追放などするわけがない。
確かにあの血の災厄の件と、今再びそれが起きようとしているかもしれない情勢ならばあの事件に関わり解決した人たちも過敏になるだろう、そう思いつつ彼は国を出る前に立ち寄った売店で購入したキャラメルバーをかじりつつ、2つの月のような衛星に照らされた夜の街道を1人静かに歩いていた。
「あの事件、魔法派閥のせいで面倒なことになってんだよな。いがみ合っている場合じゃない、ハーネイト様とロイ首領のようにみんな動けばいいのによ」
そうして歩いていると、夜遅く小さな街にたどり着いた。すると体にかすかな異変というか、首元に痛みを覚え早く休もうと宿を見つけそこで一晩を過ごそうと宿を取った。荷物を置き、寝具に体を預ける形で横たわり、今後のことについて考えていた。
「昔BKに在籍していた時は楽しかった。あのハーネイトと言う先生の授業と、リコルシアと言う魔女の調合学については今でも感謝しているのだが……相変わらずロイ首領も滅茶苦茶に暴れまわっているというし、戻るにはなあ。いや、今頼れるのはあの人たちしかいない。確か、英雄王ハーネイトは再葬機関の代表だった、とマスターロイから聞いたことがあるが、最重要機密だと言っていたな」
きれいに整ったベッドの上にあおむけになりながら、身の振り方をどうするべきか考えつつあの血の海の件は早く周辺の国などに知らせないといけないと思いギルツから渡された本をふとバッグから取り出し手に取り、読もうとするとある手紙がすっとベッドの上に落ちる。
「これは、ギルド長の文字だ。開けてみるか」
アーカインは手紙の封を丁寧にナイフで開け、中にあるそこそこな量の手紙を目に通す。
「……はは、そういうことか。ギルド長も、口下手というか、言葉が足りねえってか。そうだな、確かに下っ端である俺は動きやすい立ち位置だけど、だからって……ああ」
一通り手紙の内容を読んで、なぜこのような事態になったかをある程度把握したアーカインは首の痛みに顔をしかめつつ、恐らく気を張って疲れているのだろうと早めに寝ることにしたのであった。
翌日の早朝、まだ3つある陽のうち1つが地平線から出かかっているころにアーカインは身支度をして宿から出る。自身のこれからやるべきことはいくつもある、そう思うと早く目的の街に行かなければ、そう思い整備されている街道をひたすら北東に進む。
道中森林帯がありその中に道がずっと伸びている、アーカインは周囲に警戒しつつ歩いていた。
「やるべきことは、BKのマスターロイと出会うこと、ハーネイト先生に会うこと、そして検査と治療を受け、イロウズ王国まで彼らを連れてくること、だ」
アーカインはやるべきことについて脳内で確認していた。自身の体を調べて、なおかつ血の怪物化を止められる力を持つハーネイトに会うこと、またロイと出会い事件のことを知らせ増援を養成することだと。
「ったく、通信がやられてなけりゃ、あっという間に拠点まで移動できるのによ。ついてないぜ、へへ」
何故ギルツはアーカインに実質名目上ギルド追放をしたのか、それは自分たちが動くと国王が反応し暴走しかねないことと現在魔法通信、電波通信を含めひどい障害が発生しているという。
その影響で連絡だけでなく転送石と呼ばれる各拠点を短時間で行き来できる魔法協会などが設置したワープ装置が事実上機能停止に陥っており、とれる連絡手段が限られているため古典的な方法で連絡を取るしかなかったのであった。
それさえなければ転送石を使える資格のあるアーカインはすぐにBKの大拠点があるゴッテスシティまで迎えるのにと悔しそうにしていたがどうしようもなく、数日かけてでも陸路かつ徒歩でいくか、どこかで移動用の道具、車などを手に入れないといけないと思いつつ森の中にいる魔獣などに襲われないように進んでいると、とある大木の幹に寄り掛かる1人の少女を見つけた。
「あれ、何故女の子が……って、ひどいけがだ、というか、機械化されている体?」
「うぅ、あ、あなたは……え、アーカインっ!」
「え。おま、まさか、ルミナ!」
薄い藤色の髪を長く伸ばした、四肢を機械の手足に改造されている少女。見たところ各パーツが中程度の破損状態であり状態がよくないのをアーカインは見抜くが、よりによってその少女が幼馴染であったルミナという同郷の者だと分かり唖然としていた。
「な、なぜこのような体に」
「私、事故で手足がまともに動かせなくなったの。でも、機士国の研究者が私の体を改造して直してくれたの」
呼吸が安定していない彼女を見て傍に駆け寄り、彼女の手を取り話を聞く。
「行方不明になった、貴方を探すため軍に入って、各地を周りながら捜索していたの。けれど、ある任務で私は、っ」
「な、まずは治療だ。俺だって機士国の生まれだ、すぐに治してやる。BKで魔法工学をならっていてよかったぜ」
アーカインは負傷しているルミナの生身の部分を治療魔法で回復させ、同時に機械化された手足も持っていた工具などを使い部品を繋ぎ合わせたり交換して、数時間をかけて動かせるほどになるまで修理して見せたのであった。
彼はBK在籍時から機械の修復などに関して高い評価を貰っており、ロイも注目していたほどである。先輩たちからもその力を買われ特に組織内で問題などなかった彼であったが、BKを離れることになったのは理由があるらしい。
それは、幼いころに生き別れた妹と父を探すためであった。
「っ、相変わらずね、だけど、貴方が来てくれてよかった」
「ふう、これで動かせるぜ。しかしすげえな、こんな技術もあるとは」
「そうね、ふふ。って、アーカイン、首元に赤いあざのような……っ、もしかして」
「え、まさか……俺、やはり」
「血の怪物になる前の予兆、だよね」
アーカインは久しぶりに会った幼馴染と静かな森の中で話をしていた。しかし彼女の指摘を受け、指をさされた個所に手を当てると何やら発疹のようなそうでないものがあった。ルミナはそれについて、血の怪物になる前の症状の1つだといいそれを聞いたアーカインは青ざめる。
するとルミナはなぜ負傷してここにいたのかを話した。
「あのね、私、血の怪物を利用しようとしている国があるって、そこの調査に向かって潜入していたの、だけど」
「なんだと、あれを利用って、馬鹿な」
「そうよね、もしかすると国の代表が既に血の怪物になっているか、何者かに操られているのではと連絡した矢先、その国の騎士団に所属する女性騎士に襲われて、逃げてきたのだけれど」
血の災いを起こす存在、血の怪物。今から数年前に半月で2億人もの命を奪った最悪の事件を起こす存在を利用しようとしている存在がいると、そうルミナがアーカインに説明していると、不穏な気配を感じ道の先を見る。
「ようやく見つけたぞ、フフフ」
「あ、あの人よアーカイン」
すると道の奥から歩いてきた、鎧を身に着けた長身の女性がルミナに気づき声を口に出す。
「何? やい貴様、ルミナに何をするつもりだ」
「なんだ小僧、私はスパイを処分しに来ただけだ。我らが計画を邪魔する者には容赦せん」
「っ、いきなりかよ!」
重武装の女性騎士は剣を鞘から抜くとアーカインに襲い掛かるが、手にしていたスパナを使い剣を受け止め、もう片方の手でドライバーを投擲し騎士の来ている鎧の関節部を突き刺した。
「っ、貴様! 邪魔をするなら」
「待たんか貴様らっ!」
騎士は再度剣を構え、アーカインを突き殺そうと迫る。だがその時、颯爽と現れたスーツを着た老齢の男性が刀を持って2人の間に割り込み、騎士の突き攻撃を的確に受け止めすぐに上方に振るうことで剣を弾き飛ばしたのであった。
「貴様、まさか!」
「貴方は、もしかして伝説の剣豪、ミロク!」
「左様、儂はミロク・ソウイチロウじゃ。声を聴いて駆けつけたのじゃが、間一髪だったの」
背の高い、威圧感のある厳しい老齢の剣士、彼こそ伝説の剣豪として各地で名を轟かせているミロク・ソウイチロウと名乗る魔剣士である。彼は森の中を移動していたが騒ぎを聞きつけ駆けつけ、介入したという。剣を弾き飛ばした後騎士の目の前に立ちこれ以上戦闘姿勢を見せるなら容赦せんといい、彼女はその圧に押され降参したのであった。
「我はグランダム王国が騎士総長、レイア―ナ・フォンダンテ・コルミティーカというものだ。機士国のスパイを追跡しにしたのだ」
「そうか、しかしグランダム王国と言えば最近妙な噂を聞いておるが」
「ああ、ミロク様が言いたいのは上層部が不穏な実験を行っているということだろう。我もそれを調べていたのだがそこの小娘が実験に関与しているのではと思ってな。国を内側から崩そうとする者は容赦せんと」
ミロクはレイア―ナと名乗る騎士団の総長がグランダム王国所属であることを確認すると風の噂で聞いたよくない話を口にする。それを聞いた彼女は自身もその件について調べていると伝える。国王と側近が何やら怪しい実験をしているといい、そこにルミナがいたため問いただそうとしたが逃げたため追いかけてきたという。
「な、そういう理由なの? 私は、機士国の秘密諜報部の命を受けて、血の怪物を生物兵器に利用している国があるといい調査のために来たのだけど」
「なんだと! ……やはり、か。最近体調不良を訴える者や連絡がつかない者が増えていたが、あいつら!」
「おそらく、呪血を取り込まされて怪物になっておるだろうな。既に各地で実験を繰り返していたと聞いておるが血の怪物を任意のタイミングで血海にするため肉体崩壊させ、怪物を増やそうとしていた。全く、手間を駆けさせやがってのう」
「っ、もしかして俺が見たのはそれなのか?」
レイア―ナは実験の現場にいたルミナを関係者だと誤認していたようであり、ルミナはスパイだとばれ逃げたがその際に負傷したという。アーカインはようやく理由がわかり腑に落ちる。しかしミロクの話を聞いてギルドを追放される数日前のことを思い出すと冷や汗が止まらなかった。
「だろうな、あいつら……私たちを用済みにして怪物軍団でも作るつもりか? 正気じゃないな」
「おそらく、お主の仕える主は血の怪物を作る存在と取引したか、依り代として利用されているだろう。でないとそのような真似はせん、何せグランダム王国の代表とは酒飲み仲間だったからのう」
「なんだと、それは初耳だ。確かに、ある時期から突然軍事関係の装備、人員などの方針などを変更するだの、強化兵を作るなどと言っておったが」
レイア―ナいわく、軍事改革という名目で強化兵について研究しているという話を聞いていたがそれが血の怪物の力を使うという代物だと知り気分が悪くなった。ミロクもグランダム王国の王とは友人関係であったがそのような真似をする男とは思っておらず、人が変わったかのようだと指摘しながら血の怪物を生み出す存在、血の魔人という脅威について話をし国王が憑りつかれてる可能性があるなどいくつか可能性を述べてから止めるには戦力が必要だと自身の意見を述べる。
するとアーカインは強い首の痛みを感じその場に膝をつく。
「っ、首の痛みが」
「貴様、もしや怪物になりかけているのではないか」
「だから、さ、治せる人のところまで行こうとしていたんだ、ハーネイト先生なら」
「ほう、ハーネイトか。儂の孫に用があると」
ミロクとレイア―ナは彼のそばに駆け寄ると、怪物化までのリミットがあまりないことを確認する。そして気力を振り絞りアーカインはハーネイトに会いに行き治してもらうという。それを聞いたミロクは興味深そうに尋ねつつハーネイトが自身の孫だと強調して話した。
「ええええええ! ミロク様ってあのハーネイト先生のおじい様だったのですか」
「如何にも、しかしずっと会っておらんでの、儂も孫に会うため探しておったのじゃが」
「それなら一緒に、行きませんか」
「いいじゃろう、目的が同じなら構わん。しかし、目星はついておるのか?」
アーカイン、ルミナ、レイア―ナの3人はミロクがハーネイトとそういう関係だということに驚いていた。そして孫に再会するため動いていたことを知ったアーカインは自身もハーネイトに会いに行くため同行してほしいと訴える。
「BKの拠点に行けば会えるかと。そこまで、まず行きましょう」
「っ、私はどうするべきだ、むむむ」
「レイア―ナ殿か、今一度国の内部を調べてみるのじゃ、最悪血の災厄が起きるじゃろう。それを防がねばならんのだ」
「そうだな、有無。それとルミナか、申し訳ないことをした、謝罪する」
「……そもそもスパイというのは当たってはいますから、むしろ血の災厄絡みとはいえ、その」
「あれについては国がどうのこうのと言っている場合ではない、しかし、そうなると私1人であれらを止めきれる自信がない」
「それなら、俺がハーネイトさんたちを連れてくる、そうすれば止められるはずだ」
「それもそうか、彼ならば、な。だがまずは治療を受けるべきだ貴様。そのあとで、私のところに来てくれ。あの災厄を、再び起こさせてはいかん」
「ああ、そうするぜ。じゃあ一旦お別れだ、増援を連れてきたら合流するぜレイア―ナ」
「分かった、我は一度国に戻って国王の様子を再度確かめる。では失礼するぞ」
グランダム王国のレイア―ナと和解し、共に血の災厄を止める為各自がやるべきことを確認し、すぐに行動するため動き始めたアーカインたちはそれから3日をかけBK拠点のあるゴッテスシティまでたどり着いたという。
道中にいくつも血の海をみつけ、ミロクは片っ端から剣技を奮いそれを消していった。それを見たアーカインとルミナは驚きを隠せずにいた。それとミロクから、どこか血の怪物、いやそれ以上の気配、力を感じることを不思議に思いつつ、頼もしい用心棒と共にどうにか苦難を切り抜け拠点にたどり着けたことに安堵し、拠点の門を叩く。
「やれやれ、誰が来たかと思えば、おおお、アーカインか、久しいな」
「ろ、ロイ総統っ、っ」
「むぅ、お主あの怪物の血でも浴びたのか」
「そうみたいなの、早く手当をして欲しいの」
ロイはアーカインの姿を見て驚き、また隣にいた人たちにも目を丸くしていた。しかしただ事ではない、すぐに理解した彼女は情報をまずは確認するため質問する。
「それは構わんがお主は誰じゃ? その姿、機士国の者じゃろう」
「ルミナ、ルミナ・エフィリシーラといいます。アーカインの幼馴染で機士国の秘密諜報部に所属しております」
「そうか、とりあえず中に入りたまえ、って、まさかとは思うがそこの剣士、もしや」
「ミロク・ソウイチロウだ。我が孫はどこにおる」
「ま、孫? 誰のことじゃ」
「ハーネイト先生、のことっすよ総統」
「え、ええええええぇええええええええええ!!!なんじゃと、興味深いがまずはアーカイン、治療を施してやる」
ロイは表情をころころと変えながら来客者に接していたが、まずはアーカインの治療が先だとすぐに右手に魔力を込め、彼の首元に手を当てて治療を試みるが、怪物の力が強いのか完全に発疹らしき痣は消えなかった。
「すまんの、ハーネイトほどは治療魔法がうまくないのでな。だが猶予は伸ばした。持って3日じゃが」
「いえ、ありがとうございます。ハーネイト様に会えればそれで問題ないです」
「油断はできんが、ハーネイトならば完全に治せるが、今の状態ではどうなるか分からん。中には力を制御して自身の力にできる恐ろしい者がおるらしいがな」
「もしかして、グランダム王国の一部の人は、それを狙って血の怪物を……」
「じゃろうな。まあ、わしらがそれを止めるがのう。それで、ロイといったな。孫がいろいろ世話になったと聞く」
「ま、まあな。私も彼には色々助けられたのでな。ああ、ハーネイトだが現在グランダム王国に向かっておる。血の怪物を生物兵器にしている疑惑を調べるためにな。今ならば追えば追いつくかもしれん。よければ加勢してやってはくれまいか」
「は、はい。それとイロウズ王国の件で……」
アーカインはロイに対し、イロウズ王国周辺で起きている事件について話をし、BKを派遣してほしいと伝えた。その際にギルド長の書簡を渡し、ロイはそれを読むとすぐに近くにいた部下に指示を出す。
「よかろう、すぐに仲間を派遣しようぞ。あれの処理など儂らにかかればちょろいぞ。まあ、ハーネイトを連れてくればもっと楽じゃがな。グランダム王国の件を済ませたらイロウズに来るがよい」
「ありがとうございますマスターロイ」
「では、まずはグランダム王国でおきている事件を解決してくるのじゃ」
こうして、アーカイン一行はBKの施設で装備などを整えるとすぐにグランダム王国に向かうため拠点を後にしたのであった。
そのあと約2日かけて、山道を通りながら最短ルートでグランダム王国にたどり着いたのだが、遠くからでもただならぬ異様な気を全員が感じ、足早に王国へ入るための門に向かった。
するとそこには、おびただしい血が流れており、そこからゾンビのような姿の人間が湧いて出ていた。それを倒すため戦う王国の兵士たちだが、このままでは兵士たちの命はあと10分ほどしか持たない状態であった。
そこでミロクは足に力を込め、高く飛び上がると陽を背にし、腰に差していた黒い刀身の日本刀を鞘から抜いて突きの構えで、地面に向けて強烈な黒い波動斬を放ち、血の海と怪物を一気にまとめて吹き飛ばしてみせる。
それに続いてルミナも腕に仕込んでいたグレネードを発射し、兵士たちに襲い掛かろうとしていた怪物を吹き飛ばす。
「な、ようやく来てくれたか! 危ない所だったぞ、はあ、何なんだこいつらはぁ!」
「加勢するぞレイア―ナ」
「俺はどうすれば……」
圧倒的な力を見せつけるミロクとルミナに、アーカインはどう立ち回ればいいか困惑していた。もともと戦闘員というよりは魔法治療を行う医者、それもまだ経験が浅くましてや戦闘に関する心得は銃を使うくらいしかないのでまずは冷静に全体を見まわす。すると近くにある森の茂みから気配を感じ、街を出る前に製造したグレネードを投擲する。
すると隠れていた血の怪物を数体あぶり出し、それに対して手にした銃に力を込め、渾身の一撃を放つと異形の姿をした怪物の脳天に会心攻撃が当たり葬ることができた。
「やるわねアーカイン。まさか魔銃士の力があるなんて」
「た、たまたま当たっただけだ。俺は後方支援しかできないからな!」
「それなら後方の警戒を頼むぞ若造」
「は、はい! 任せてくださいミロク様」
そうしてアーカインたちは残った兵士たちとともに陣形を組み、血の海から湧いて出てくる怪物たちを相手にしばらく戦うがあまりの数の多さに次第に押される。
あの血の海さえどうにかすれば、そう思いつつも迂闊に近づけば飲み込まれてしまいかねない。このままではまずい、全員がそう思った時助けが来たのであった。
「血の怪物ども、覚悟しろ!」
どこからか聞こえてきた若い男性の声が、周囲一帯に響く。すると軽く1000体はいた怪物たちが突然体の内側から無数の光剣に貫かれ、そのまま光となって消滅したのであった。
「まさか、この攻撃は」
「ハーネイトさんの得意技!」
そう、BKのNo.2にして、魔法剣士にして探偵。数多くの魔法犯罪者を取り締まり、葬ってきた英雄。ハーネイトの参戦であった。
彼は手に魔力を込め、それを地面に向けて解き放つ。するとそれは炎の玉、いや、ドラゴンの龍を模した形となり王国周辺に存在する血の海をすべて着弾地点を中心に焼き払い蒸発させ、怪物の再度出現を阻止した。
「ふう、これで外の方は大丈夫か。だが中の方は……」
ハーネイトは静かに地上に降りると、アーカインたちに対し遅れたことを謝罪する。
「済まない、道中遭遇戦がいろいろあったものでな。ん、そこの青年……体は大丈夫か」
「え、ええ。しかし早く血の怪物になる呪いを解かないと」
「動くなよ、狙いがずれるからな」
ハーネイトは手に1本の霊剣を作り出し、それをアーカインの首元に飛ばす。アーカインは驚くもそれを受けた。するとあっという間に痣は消滅し、彼の体に体力が戻る。
「あ、ああ。あ、ありがとうございます」
「危なかったな。これで大丈夫だ。それで、改めてどういう状態なのだ。ロイ首領から話を聞いて駆けつけたがここまでひどいとは」
「あんたがあのハーネイト、だな」
「そうだ。血の怪物を相手によくやっていたが……王国の中はどうなっている」
「今から約半日前、突然血の怪物が街中に現れ多くの国民が食われたり血を浴びて命を落として、それが怪物になった。それを止めるためわれら国王軍が怪物を外に出さないようにと奮闘していたのだが、押し切られていた」
レイア―ナはグランダム王国におけるここ一か月での異変と合わせハーネイトに手短に説明した後、城の方を見て不安な気持ちに駆られていた。すでに多くの国民を避難させたがこのままでは血の災厄が再び起こるだろう、そう思うと目の前にいる青年、ハーネイトが一番の希望だと信じ強く意思を持とうとした。
「大体わかった。現況をつぶさない限り無限湧きするぞ。それで、そこの少女と老人は」
「ルミナと申します。機士国のエージェントです。国王があなたのことを心配していましたよ」
「ミロク・ソウイチロウじゃ。孫よ、よくここまで育ったな」
「え、ええ? ま、孫?」
「まあ、覚えとらんじゃろうな。前に会ったのはDカイザーと一緒にあの剣士の家にお前を預けた時じゃからなあ」
ハーネイトは突然の言葉に思わず表情が崩れ戸惑うが、事の真偽は後で確かめようとまずは王国内に入り、現況を叩くため道を作るのが必要だと説明しアーカインたちを引き連れて門を突破し、王国中央にある城に向けて走り出す。
レイア―ナが先陣を切り、手にした剣で行く手を阻む怪物たちを切り倒し、ルミナとミロク、アーカインが続いてひたすら前に進む。ハーネイトは空を飛びながら状況を分析しつつ、迫る危機を未然に防ぐため霊剣を使い怪物たちを空爆して仕留めていた。
道中の妨害が激しかったが、最強と称されるハーネイトとミロクの前には何の意味もなくあっという間に城内まで足を進める。
すると階段の上部から血が流れており、それをハーネイトが魔法で消去しながら駆け上る。するとそこにはおぞましい姿に変貌したグランダム王国の王と、彼のそばにたたずむ赤いドレスを着た仮面で顔を隠す女性が手にまがまがしい赤い剣を携え待ち構えていた。
「こ、国王?」
「ありゃもう手遅れじゃな。ハーネイト、あれを治せるか」
「変異度が進みすぎている。治療するにしても情報も時間もない」
「……邪魔を、するな!」
「っ、なんて威力の斬撃だ」
「わしがやろう。影剣術・影喰!」
女性はハーネイトたちに対して剣をふるい、赤い斬撃波を放ち攻撃を仕掛けるがハーネイトがこれを刀で防ぎ弾き飛ばし、隙を見てミロクが影を使い女性の動きを止めながら攻撃しようとするが寸前のところでよけられる。
「よくもこの国を!」
「脅威は排除するまで!」
「ふざけるなよ、何がしたいんだお前は!」
レイア―ナが素早く間合いを詰め、女性に剣をふるい、よけたところにルミナとアーカインの射撃攻撃が直撃するが全く効いておらず困惑する。聞いていないどころか、攻撃自体を食われているような感覚に恐怖を抱くが、ハーネイトとミロクの攻撃が効いているのを見て彼らに任せるしかないと考え、怪物となった国王の動きを止めるため連携攻撃を仕掛け、怯んだ隙にレイア―ナと一緒に頭部を集中攻撃した。
その攻撃は有効であり、怪物は地面に勢いよく倒れ動きを止めたのであった。
一方でハーネイトとミロクの攻撃を受け、女性は近くにあった窓を足で蹴って破るとそこから飛び降り、追いかけようとした2人であったが既に女性の姿はなく、逃してしまったことを悔やんだ。
そのあと動かなくなった国王を見て、ハーネイトは彼が手にしていた本を手に取るとそれを読み、どうも国王は不安に駆られ、それをどうにかするためにあの赤い服の女性と何らかの契約を結んだことを把握する。
「まさか、国王が血の怪物を使い兵力を増やしていたとはな」
「ああ、しかしあの女……どこかで見たような」
「ミロク、どうしたのだ」
「嗚呼、すまんな。いや、気のせいじゃろう。ともかくこれで血の災厄は防げるはずじゃ。後処理をして、ここを出るぞ」
今回の事態は、グランダム王国の王が謎の女性に操られ、血の怪物を生み出すための方法を会得し一部の兵士たちにそれを施したのが原因であった。
王は最近周辺で起きている不穏な事件の数々に不安を感じており、それを謎の赤いドレスを着た女性に利用されより強い兵士が欲しいということで提案を飲んでしまった。その結果、国内だけでなく外でも血の海や血の怪物が発生する事態となったのであった。
血の怪物のことを紅儡と呼ぶ、謎の女性。ミロクはどこかで見たような気がするといい、どこかで自身と繋がっているのではと思いつつもまずは脅威をここで食い止めたことに安堵し、アーカインとルミナに対しねぎらいの言葉を贈るとハーネイトの元に歩み寄る。
「ハーネイト、まだ剣の筋が少し甘いようじゃな。儂が稽古をつけてやろう」
「ええ、そもそも孫って……」
「色々戸惑うことも多いじゃろう。しかし、儂を傍においておけばそれも少なくなるじゃろうて。あるお方からの頼みでもあるのでな。よろしく頼むぞ、孫よ」
「は、はあ……ま、まあ。あれだけの力があるならば、あいつらにも勝てそうだ。よろしくお願いします」
ミロクはハーネイトに仕えると伝え、戸惑いながらも戦力が欲しかったハーネイトは承諾し、城を後にするとレイア―ナはハーネイトたちにお礼する。
「貴方たちのおかげで、最悪の事態は防げた。どうも、ありがとう」
「まあ、こういう事態は多くの国が1つになってあたるしかないっすよね。血の怪物、それを生み出す存在か」
「いまだに謎だらけだが、少し手掛かりがつかめてきたか。引き続き調査せねばならない」
「そうですね、機士国王様も関心を寄せていました。それと、幼馴染の命を助けていただきありがとうございます」
「仕事だから、な。あとはイロウズ王国に向かって、影響を受けている人がいないか調べよう。さあ、急ごうか」
レイア―ナは急いでイロウズ王国に向かおうとするハーネイトたちに対し、装備を整えてから行くように伝えると残っていた兵士たちに指示を出し食事などを用意させ、ハーネイトはそのお礼に街全体に魔法をかけ汚れた街をきれいにすると同時に、負傷していた兵士や国民をまとめて治療魔法で回復させた。
その魔法のあまりの美しさに、アーカインたちはしばらく見とれて言葉が出なかったという。
そうしてグランダム王国を後にした一行は道中も気を抜かず、調査しながら汚染が広がっていないか確かめつつイロウズ王国に到着し、出入り口でハーネイトたちの姿を見たオーフェルたちであった。
「ギルツリーダー! 」
「アーカイン、よくぞ無事でいてくれた。国王も暴走せずに事態の収拾に進んでやってくれている。血の怪物が解き放たれ、ああいうことになっていたとはな」
オーフェルはハーネイトたちに対し感謝の意を送り、ロイ首領たちのおかげでイロウズ王国は無事であり、改めて仲間の命を助けてくれたことに最大級の感謝をしてギルドまで案内するため街中を歩きつつハーネイトたちと話をつづけた。
「しかし、血の怪物を生み出す存在か……」
「あの怪物を生み出す存在がいたというのか」
「ええ、さらなる調査が必要です。貴方たちにもこの先協力していただきたいのですが」
「ああ、かまわないさ。その時は連絡してくれ」
「はい。ロイ首領に報告書を出さないといけないですね。はあ、厄介なことだらけだ」
ハーネイトたちはギルドの施設に案内され、事の次第を説明しエリシアはここから遠く西にある砂漠の方でもよくない噂を旅商人から聞いたと伝え、事実ならグランダム王国と似たようなことが起きるだろうと調査をしに行くと述べ、エリシアの淹れた茶を飲みながらどこか面倒な感じで窓の外を見ていた。
「改めて、皆さんには感謝しきれないっすね。今度はこちらが手伝う番っす。何かあれば言ってください」
「ああ、その時は頼むぞ。それと修行をしっかりするのだぞアーカイン。まだ魔法治療士は数が少ない。俺と肩を並べるくらいには、血の怪物や魔獣たちに襲われた人たちを治せるようになってほしい」
「了解です!」
「私もできることをしたい。ハーネイト様、私も機士国のエージェントとして情報を集めてきます」
「頼もしいな。何かあれば伝えてほしい。今回のような事件は、できれば未然に防ぐのがいい。国同士で争っている場合ではない……改めて機士国王によろしくと伝えてくれ」
「ええ、承りましたハーネイト様」
「んじゃ、全員無事に戻ってきたということで宴だ宴!ハーネイト殿もミロク殿もさあさあ!」
そのあと、ギルド施設内で宴が催され、アーカインの復帰と新団員ルミナの歓迎会と合わせどんちゃん騒ぎの大盛り上がりだったという。ハーネイトもミロクもすこしあきれながらも宴を楽しみ、終わった後オーフェルにあるスクロールを渡し、調査のために各地を回るためイロウズ王国をミロクとともに後にしたのであった。
この後アーカインはルミナとともに再度ギルドに入り、今まで通りの暮らしを送りつつ魔法治療士としての修行を続けている。グランダム王国を救ったように、あのハーネイトと同じようなことができるようにと今まで以上に修行に熱が入っていた。
その姿を見ながらオーフェルとエリシアは微笑んでいた。次世代の魔法使いたちが、未来を開拓していくだろう。期待しながら今回彼らを助けてくれたハーネイトとミロクに感謝し、改めてBKやハーネイトたちと協定を結んだことを示すスクロールを机の上において、しばらくの間眺めていたのであった。
彼らはのちに再び起きた紅儡事件と、DG戦争を乗り越えつつハーネイトたちを支える存在となり、さらに名声を広げることになったという。
しばらくエフェクト素材の製作などでなかなか小説を書くことができず、しかもスランプ気味でプロットはあるのに序盤がまとまらないという事態にずっと悩まされていました。
とりあえず書ける分だけ書いていこうと思います。