銀色の翼
「どんなスタイルにする?」
行きつけの美容院で親しい美容師かさんが尋ねる。
「やっぱり明菜ちゃんカットにしよう」
1984年、28才の私は大の中森明菜ファン。
可愛い中に、どこか哀しげで、儚げで、でも、一本筋の通った強さを秘めている感じが好きだった。
多くのヒット曲を出し、独特の雰囲気と歌の上手さで、一時代を築いた。
その中でも、「北ウィング」が一番好きだった。
外国にいる彼に逢うため、一人で夜間飛行に出る女性の情熱、強さに憧れた。
しかし、現実の私は恋人も彼もいない淋しい毎日。一日中、オフィスに居て、パソコンに伝票を入力していくだけ。女性の多い職場なので、男性との出会いもない。職場と自宅の往復で時間だけが過ぎて行く。たまに、女性の友人と食事に行くのを楽しみにして。
ただ、仕事に励み、不器用に、真面目に生きても良いことは起こらない。
かといって、好きでもない人と結婚するのも気が進まない。
そして、2004年
いろいろあったが、まだ、独り身。
そんな私に奇跡が起こる。
転職した先で、15才年下の男性を好きになったのだ。脈はありそうな無さそうな。一緒にいても楽しいことは楽しいけれど。
やがて、彼はパリ勤務となるが、私は離れたくはない。女48才。怖いものなどない。当たって砕けろ式に、その夜、空港に向かった。彼に追い返されたら、ヨーロッパ旅行をすれば良い。それだって貴重な経験だ。
しかし、何より嬉しいのは、逢いに行ける彼のいること、長年憧れた「北ウィング」のヒロインになれることだ。
ひとり、搭乗ゲートに向かう。この大きな双つの翼の力を借りて、あの曲に背中を押され、勇気を出して、新しい私へと飛び立ちたい。今が、その時。この時の為に今までの人生があったと思いたい。
あのメロディを心の中で、何度も何度も繰り返しながら、、、。




