77話:「図書準備室、再び」
恥や外聞なんて平常時は気にしたことすらなかったが、さすがに人前でこうも醜態を晒す状況に陥ると戸惑いを隠せない。自身がここまで感情的な一面を持っていたということを自覚するだけでも吐きそうな気分だった。とりあえず落ち着くまでどこかに隠れていたい。そんなごく普通の判断から大平下は無言で席を立ちトイレへと歩き出す。
動くたびに周囲の奇異な視線ばかり気になってしまったが、全ては自身が感傷的になっているせいに違いない。人は自分を弱いものだと考えると、力量では勝る相手の言動でさえ恐ろしく見えてしまう生き物だ。弱り目に祟り目なんて諺があるくらいなのだから、このような傾向は遥か昔から何ひとつ変わっていないのだろう。
「くだらないな」
どこまで正確に客観的に自分を判断しようとも、一度晒した醜態をなかったことにはできない。脳裏で戯言を宣っている内に冷静な判断がくだせるまで回復した大平下は、逃げ場所をトイレではなく図書準備室に変更しようと考えた。というか半ば無意識である。ひたすらに歩き続けていた結果、彼はいつの間にか特別教室棟まで辿り着いていた。
とはいえ、図書室は空いているのだろうか。そんな些細な疑問は浮かべるまでもない。なぜなら廊下の奥に見えるそこは鍵がかかっているどころか扉が開いていた。
すみやかに中へと入りカウンターに侵入、いつものアイテムを回収する。幸いなことに休み期間なだけあって誰もいなかった。司書さんはおろか、受験勉強にはもってこいの場所なのに三年の姿すら見られない。さすが自称進学校。来年の夏はここをキャンプ地としよう。ひそやかな決意と共に大平下は図書準備室の鍵をさしてドアノブをスライドする。面前に広がるいつもの拠点。ふと彼の脳裏には様々な話し合いの情景が思い浮かんだ。
「そういえば、国定と話した場所もここだったな」
嫌な予感は即座に現実と化す。扉を閉めようと背後を振り向くと、そこには見慣れた顔があった。現二年二組の学級委員長かつ復権した国定グループの初代リーダー。今一番会いたくない男がいた。
「やあ、国定君、こんなところまでどうしたんだい」
「どうしたって、皆まで説明しないといけないか?」
鬼気迫る表情はまさに阿修羅のよう。噴火直前の活火山みたいな雰囲気を身に纏っているクラスメイトからは殺意すら感じられる。
「いや、でも、まあ」
そんな彼を宥める手段なんか大平下が持ち合わせているはずもなかった。無理やり接頭語だけを並べて取り繕うのが精一杯である。
「さっさと答えろ」
「とは言われましてもねえ」
「殴るぞ」
こちらの言い訳に対して間髪を入れずに提出されるジョブ。国定王さあ、何か前にも増して凶暴性に磨きがかかってはいやしないか。
「へいへい、分かりましたよ」
結局、逃げることを諦めた大平下は両手を伸ばし頭上で組むジェスチャーをした。拳銃を持っている犯人が降伏する際にやるあの動作だ。
しぐさはその捉え方の差異さえ気をつければ万国共通で使用できる万能コミュニケーションツールである。同級生でありながら、陰陽文化圏の異なる国定も特例ではないらしくこちらの次の発言を今か今かと待ち望んでくれている。
おかげで少し考えがまとまった大平下はゆっくりと話始めることに成功した。
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とうとう77話です。77ですよ、何か縁起が良さそうではありませんか?
それはさておき、またまた話し合いばっかりしてる展開。悪いところはどうにかせねば。戦闘ものでもやるべきか?




