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76話:「夏の始まり。補習室にて」

 待ちに待った夏休みがやってきた。騒々しい蝉の音や鬱陶しいほどギラついている太陽は分かりやすい季節の象徴として堂々と役割を全うしている。最後の大会が目前に迫ってきている野球部の声をBGMにし、ぼんやりと窓の外を眺めていた大平下は名指しで教師に注意された。


「おい、大平下。話聞いているのか」


 言うまでもなく大平下は今日も補習だった。夏休み開始からもう既に一週間は経っている。二年の問題児たちはすっかりと定位置の決められた教室に閉じ込められていた。


「すみません。少し集中力が切れていました」


 嘘で取り繕う彼の言い訳など気にもせず教師は黒板に淡々と暗号を刻み始める。補習のシステムは単純明快。授業時間の前半で支給された課題を解き、担当教員が後半に解説をするだけのもの。塾などの教育界隈でさえ効率化が推奨される昨今の風潮に正面から抗うオールドスタイル。国公立大学に進学しなければ人ではないというような言い草で伝統的な勉強方法を貫く自称進学校の姿がそこにはあった。


 大平下は再び外を眺める。退屈さからか欠伸も出てきた。一度注意されても改善の兆しなし。これ以上は時間の無駄と判断されたせいか、とぼけた様子を見られてももはや何も言われない。


 悠久に近しい収監タイムもいつかは終わる。やがて本日のノルマ達成を告げる区切りの鐘が鳴り響いた。さっさと帰宅の準備をしていた大平下の元にひとりの男がやってくる。


「久しぶりだな……」


「久しぶりでいい。というか何で今更関わってくるんだ」


「そう尖るな。他人を傷付けてもいいことはないぞ」


「説得力がありすぎる」


 物理的に他人をぶん殴って補習室に連れ込まれている男がそれを語ることは。


 男の周りには人だかりができていた。誰もがクラスから追放された問題児と王国のリーダーとの異質な会話に聞き耳を立てている。王様はそんな状況などお構いなしに本題を話始めた。


「それはそうと、お前はどうするつもりだ?」


 曖昧なけれども確信を突いた質問に大平下は動揺を隠せない。ひとりで淡々と鍛え上げたポーカーフェイスも昨今は簡単にひび割れるようになってきていた。


「ど、どうするって何を」


 質問の意図は把握している。けれど敢えてその具体性を問うた。例え国定だとしても、こんなに大勢が見届けている中で蒲須坂については追求できないはずだ。


「言わなくても分かるだろう」


 大平下の想定通りの回答が返ってくる。しかし、予測は常に外れるものと言わんばかりに回答には続きがあった。


「だが、お前にははっきりと言わないと分からないな。 ――いや、分かってはいるか。ただ、退路を断たないと逃げられてしまうからこちらも全力で行かせてもらう」


 言いながら国定ははっきりとこちらを向いた。じっと見つめてくる大きな黒目からは言葉では表せない威圧感が漂っている。場の空気が一変した。


バツが悪くなった大平下は咄嗟に視線を床に移動する。しかしそれだけでは聞こえてくる声を防ぎきれない。


「はっきり言おう。お前は蒲須坂さんのことをどうするつもりだ。散々と歪めておいて彼女の人生にどう関わるつもりなんだ?」


「どうって……」


 それは大平下こそ聞きたいことだった。期末試験の日以来、大平下は彼女と連絡が取れていない。気が付けば連絡先すらブロックされてしまっていた。


「どうすればいいんだよ」


 空虚な弱音がエアコンの効いた冷たい空気に溶けて消える。頬からはやけに塩辛い雨粒が流れ出ていた。


いつも閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。

頻度が終わっていますね本当に。とにかくマジでノープランなので勢いに身を任せます。

着地点だけは何となく固めてます。

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