73話:「懲罰室での話し合い」
懲罰室は特別教室棟の一角にあった。階段下に設けられた僅かなスペース。普段は近くを通る学生に見向きもされない。平凡に生きていれば存在を知ることもない場所。大平下は以前一度だけそこを訪れたことがあった。何を怒られたのかはもう記憶にない。けれども、埃塗れのタコ部屋は確かに脳裏へと刻まれていた。
ぼんやりと過去を振り返りながら廊下を移動し、懐かしい扉の前に辿り着く。
「失礼いたします」
面接会場に入るようにノックをする。狭い部屋の奥に宇都宮はいた。パイプ椅子に座ってじっとしている。視線で面前の古椅子に腰掛けるよう促される。大平下は黙ってそれに従った。
気まずい沈黙が流れる。チャイムが鳴って学生の笑い声が聞こえてきた。大平下は完全に会話を切り出すタイミングを見失っている。先ほどまでの積極性はどこへやら。呆れた宇都宮が助け舟を出した。
「こちらから説明します。気になる点があったら質問して下さい」
言いながら彼は現状について語り出す。その大半は大平下が予想した通りだった。
「――という訳で、君が見た車は蒲須坂さんのご両親で違いありません」
当たり前ですけど、他言無用でお願いいたしますと宇都宮は付け足す。
「そうですか……」
分かり切ったことではあったが、大平下は考え込む演技をする。情報を引き出すためには時折賢くない振舞いをすることも大切だ。
やがて話は今後のことへと移行する。大平下の気になる情報は得られなかった。赤点回避をしても意味のない補修が確定している期末テストへ向けての雑談に、貴重な時間が費やされていく。
「勉強面に心配はないですよ」
大平下は担任の明確な話題反らしに辟易しながらも丁寧に回答した。だが、良いように流されてしまった展開が元に戻ることはなく、話し合いはこの話題を持ってお開きとなった。
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