7話:「違和感の正体」
スライド扉を開くとガラリという音と共に賑やかなクラスが凍り付いたかのように静まる。無言でこちらに視線を向けて一挙手一投足を見届ける何人かの同級生。この沈黙は誰かが何かを言うのを待っている、そんなものだった。
先手を打ってお構いなしに自分の机へと向かっていく。我人関せずだが人我に干渉す。
「お、今話題のイケメン君じゃん」
ターン制ゲームのように動き出した途端、あからさまにこちらを馬鹿にした声色が後方から聞こえてくる。今朝感じた違和感は勘違いではなかったようだ。
「おいおい、反応なしかよ。どうなのよ、ご関係は」
無視。こういう奴は往々にして野生の猿と同じだ。ここで万が一にも目を合わせて同じ土俵に立ってしまうと、同じ立場になったと勘違いしてみるみると増長する。
俺は自分の机に通学鞄を置いて着席する。周囲なんて気にせずに、昨夜から読みかけの『幼年期の終わり』でも開こうとした。しかし、そうは問屋が卸さない。
「おい」
座っている椅子が蹴とばされて、俺は前のめりになる。教科書は勿論、紙辞書などで無駄に重い鞄が床に落ち、大げさな音が教室内に響き渡った。周囲の注目が集まる。
「聴いてんのか? どういうことだよ、これ」
こちらは名前すらもはっきりと覚えていない猿があからさまに使いこなせていないスマホの画面を向けていた。ボロボロの液晶はこいつが物を雑に扱う、俺にとってこの世で最も苦手な人種であることをまざまざと証明している。
反応する気などさらさらなかったが、この騒ぎは他に大きな事件が発生しない限り収まることはないだろう雰囲気を醸し出していたため、仕方なく見るだけで視力が低下しそうな傷有の画面を一瞥する。
「……」
それはあからさまな盗撮。まだ新鮮な記憶がデータとなって保存されていた。
いつ、どこで、どうして。そんなことはどうでもいい。ただ……
「説明責任ってものがあるんじゃないの。ねぇ? ――っておい」
俺は全てを理解した瞬間床に転がった鞄を持って教室から飛び出していた。鞄の重量に肩が持っていかれそうになるものの、これは本能が告げる退却指示なので逆らう訳にはいかない。世の中無理をしなくてはいけない瞬間がどんな生き方をしていたとしても必ず存在する。幸い虚無の一年間で校内の逃げ場所なら少しだけ作ってある。
各々の教室へと行き交う生徒の人波を避けて一点目指して走り出す。逃げ足は経験値を積んでいたのでその辺のやわな破落戸よりも確かなものがあった。
あけましておめでとうございます。何とか失踪しておりません(笑)
年末年始色々しながら構成を練って改めてジャンル違いを痛感しております。
後ろめたいことやら陰湿な部分が好きなのでラブコメからはどんどんと離れていっていることを陳謝いたします。 それでも宜しいという心優しい方は今後もよろしくお願いいたします。