66話:「久々の登校」
久々に通学路を歩いてみると、普段とは違った世界が見えてくる。こんなところにラーメン屋なんかあったのか。立て看板はここまで目立つのか。風になびく小さい花はなんて儚いのだろうか。
だが、それよりも気になるのが茹だるような暑さだった。暦の上ではまだ七月である。しかし、スマートフォンには四〇度とかいうこの世の終わりのような数字が表示されていた。こんな気候でも学生は重いリュックサックを背負って、制服を着なくてはならない。体調を考えたら体操着で登校をしてもいいではないか。そんな戯言を脳裏に浮かべながら黙々と歩みを進めていくと、見慣れた校舎が見えてきた。
いつも通り正門をくぐり、見張りをこなしていた厳つい生徒指導の教員に挨拶する。教員は不審そうにこちらを見つめてきた。
「お前は例の問題児か」
どうやら、縁もゆかりもないおっさんに認知されるほど自分は有名人になれたらしい。全く持って誇らしくはないが、忘れ去られるよりかは幾分マシである。とは言え、問題児かと聞かれてイエスと答える気概はなかった。
「返事くらいしたらどうだ?」
「あ、はい」
「はい。じゃないだろう」
「はい!」
「……」
どれだけ大事を起こしても性根というものは変わらない。大平下は動揺しながらその場を何とか切り抜ける。周囲の視線なんかここまで来ると気にしてはいられなかった。
やがて昇降口へと辿り着いた大平下は確かな違和感を覚えていた。自分の下駄箱内に嫌がらせをされていた訳ではない。それよりも分かりやすい変化がそこにはあった。
人がいない。
通常時であれば、昇降口付近の水道には井戸端会議をしている女子生徒がいるはずだった。しかし、その姿は一切ない。けれども生徒がいないという訳ではなさそうだ。廊下の奥からは明るい談笑が聞こえてくる。
単に場所を変えただけであればそれでいい。けれども嫌な予感がした大平下は、慌てて靴を履き替え、やたらと長い階段を全力疾走した。二年のフロアに辿り着いても、廊下には人の気配を感じられない。
代わりに紙が一枚、目立つところに貼り付けてあった。ガムテープで大雑把に四隅を固定されたそこには「以後、廊下での立ち話はいかなる理由があれ、これを禁止する。また特別教室授業と生理現象以外での休み時間の移動はこれを固く禁止する」と書かれていた。大平下は溜息をついてその場に立ち尽くす。階段を勢いよく駆け上った疲れが汗という形でどっと押し寄せてきた。
「……」
起こした事件の対価。それがあまりに大きいことをこの時大平下は改めて理解した。
いつも閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。タイトルは「久々の投稿」の方が良かったかもしれませんね。――冗談です。すみませんでした。




