60話:「文化祭展示」
大平下たちは横一列になって駄弁りながら二組の教室へと移動する。道中の会話はまさに彼が嫌悪した青春劇そのもの。
「楽しんできなさい」
教室の入口で吉水と別れた大平下は戸惑いながら蒲須坂の方に視線を向ける。
「あの日以来だね」
あの日とは言うまでもなく、大山駅に呼び出された四月二〇日のこと。思えば色々な騒動に巻き込まれてきた。
「そうだな」
間違いなくあの日を境に大平下の歯車は狂っていった。楽しい出来事ばかりだったと言えば噓になるが、退屈しなかったことは真実だ。
それにしても、まだ二ヶ月しか経っていないのか。ふとした瞬間に考える時の移ろいには毎度恐怖を感じる。
「どこ行こう?」
大平下が自問自答、禅問答を繰り広げている中、蒲須坂はいつの間にか取り出したあじさい祭のパンフレットを開いていた。
「近いところ」
「それじゃ質問の意味ないよ」
言いながら蒲須坂は笑っていた。彼女にとって回答は何でも良かったのだろう。あくまでもこれは一種のコミュニケーションに過ぎない。
「まあいいか。すぐ隣の一組観ても赴きないし、一年生のフロアでも行かない?」
予想通り最初から答えは決まっていた。大平下は頷く形で肯定する。
「……」
ところ変わって一年四組の教室。ここまでの流れでテンションの高かった蒲須坂であったが、模造紙にネットで拾ってきた簡易的な情報を載せただけの展示もどきを見た瞬間、何かが弾け飛んだかのように静まった。
「お疲れ様です」
その様子には、見張りを行っていたそのクラスの生徒すらおどおどとしている。とりあえず挨拶だけでもしておこうかという安易な防衛本能から来る言葉は蒲須坂の耳には届いていないだろう。というか寧ろ導線に火を付けるだけなので辞めてもらいたい。
「へー。お前知っていたか。モロのから揚げって海がないのにこの辺でしか食べられていないらしいぞ。中学の時給食で出てきたよな」
身の危険を感じた大平下は慌ててその場に書かれていた雑学を読み上げる。このクラスのテーマは「郷土食」。一年時は担任が定めた教育的観点の高い展示しかできないとはいえ、準備期間全て遊んでいましたと言っても違和感のないクオリティーの擁護は厳しい。
「そうなんだー。私はあまり好きじゃなかったなー」
心ここにあらずという表現がしっくりとくる棒読みの反応。不機嫌メーターの振り切れ速度がおかしいぞ。
「そうか、俺は好きだった。次いこうぜ、次」
大平下は四組の子には失礼にならないやり方でどうにか蒲須坂を教室外へ移動させることに成功した。何で展示を見るだけでこんなに疲れなくてはならないのだろうか。先程までのテンションはどこへやら。
いつも閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。
日常パートです。もう少しだけやらせてください。




