56話:「不意打ち」
時間にしたら一分にも満たないが、永遠とも思えるほど長い苦しみが続いた。ようやく決意を固めた大平下は、展示の見張り役など放置して蒲須坂を追いかける。
とはいえ、彼にあてなどない。ただ、劇の会場へ蒲須坂を辿り着かせてはならないとの想いだけで脇目も振らずにそこを目指すこととした。幸いにも廊下は人がいない。
山前高校はその構造上、劇が行われている第一体育館へと移動するためには、校舎の一階を経由する必要があった。特別棟だろうが教室棟だろうがその点は変わらない。階段を降ると、目の前には年季の入ったトタン屋根で舗装された外廊下が見えてくるはずだ。
やがて、大平下は校舎の内外を隔てる一際重厚なガラス戸へと辿り着いた。
「何してるの?」
やたらと硬いドアノブを動かそうとしている最中、突如背後から聞こえる声を受けた大平下は不意をつかれる形となった。衝動で反射的に振り向くと、そこにはいるはずのないクラスメイトの姿があった。
「な……」
唖然として彼女を見つめる大平下だったが、頭はしっかりと働いている。点と点が線になる感覚。考えてみれば単純なことだった。
ちらりと視線を向けた先にある保健室の教室札がクラスメイトの正体を簡潔に伝える。それはここ一ヶ月、最も大平下を狂わせていた存在。
「驚くことなんてないと思うのだけれど」
吉水は気味が悪いほど落ち着いていた。まるで大平下が現れることを予測していたかのような。見通していたような。
「蒲須坂を追いかけにきた」
「そう……」
目的を話しても、動揺する雰囲気はない。それもそのはず、この時彼女は事の成り行きを的確に把握していた。
「安心して、さくらなら今保健室にいるわ」
「随分と手際が良いな」
「ブラフなんかいらないわ。貴方なら勘づいているでしょう」
「ああ」
いや、正確には全て計算の内だった。今となっては大平下も彼女の思想を何となく理解している。こいつはもう既に大平下を敵と見なしていた。
「蒲須坂に劇の内容を伝えたのはお前で間違いないな」
「ええ」
毎度閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。
一週間悩んでしまいました。未だに書くべきか思案しております。




