53話:「想定外の来客」
体育館で劇が行われるというアナウンスと共に、先ほどまで教室棟を埋め尽くしていた人波はすっかりと引いた。大平下は誰もいなくなった教室の受付で猫のようにぼんやりとしている。時折伸びをする以外大きな動きはなく、何の支障もなかった。だが、平穏は長くは続かなかった。
すっかりと静けさに慣れてきた昼下がり、一人の少女が二年二組を訪れてきた。
「あっ」
少女は大平下の姿を瞬時に捉え、思わず声を漏らす。反応して視線を合わせた大平下は顔面を凶器で殴られたような衝撃を受けた。肩にかかるかどうかの短さで纏められた艶のある濡れ羽色の髪の毛。全ての元凶となった黒縁メガネ姿がそこにはあった。
「えっ」
おそらくこれまでの高校生活で最も大きな驚嘆。大平下自身、自分がこれほどの大声を出せることは知らなかった。
「久しぶり……」
「お、おう」
挙動不審な動作を気にしている余裕すらない。とりあえず面前の事実を消費するだけで大平下にとっては手一杯だった。
「元気にしてたか」
よって、久々に孫と会った祖父母のような会話になってしまっても致し方がない。
「それなりには」
一ヶ月以上不登校を決め込んでいたのだから、その言葉が嘘であることなど、容易に見抜けた。しかし、大平下にはそれを指摘する度胸はない。別に彼に限ったことではないだろう。誰だって久々現れた同級生に対していきなり強気な態度では接しないはずだ。
「そう」
ということで、保健室での吉水の口調が移ったかのように淡白な返答をする大平下。以降、両者の会話は途切れたかのように思えた。ところが、
「近況報告をしてくれない」
「何もないぞ」
唐突に、今この瞬間閃いたと言わんばかりに話す蒲須坂に対し、大平下は動揺する。
「何もないなんてことはないでしょう」
「何もないぞ」
ただその一点張り。けれどもそれは自然なことであった。一体どこの誰が不登校の原因となった事件を題材にした劇の制作をしていたなんて語れるのだろうか。
深夜テンションです。パズルのピースが揃ってきました。




