52話:「展示と大平下」
重要事項は確実に伝えたので、大平下は足早に保健室から抜け出した。嗅ぎ慣れていない薬品の匂いは勿論、吉水の放つ雰囲気までもがどこか他人事に思えて居心地悪い。
裏があることは明確だった。彼女の微妙な変化からも伝え損ねたメッセージの存在は容易に想像できる。それが単なる思い込みかどうかは時間になれば分かることで、今は気にする必要なんてない。
そんな未来の予定よりも、大平下にとっては直近の暇つぶし方法を模索することが最大の懸念だった。適当に廊下を歩いているものの、彼の興味を惹くものは何もない。
特にどこを回るとかもなく、大平下は二年二組の教室へと顔を出すことにした。展示の見張りをするのにも、それらをどのように運用しているのか学ばなくてはいけない。
「いらっしゃい…… ってお前かよ」
縁日をテーマとした非日常感あふれる教室に入るや否や、氏家に声を掛けられた。どうやらこの時間帯は彼の担当だったらしい。
「冷やかし? それとも当てつけか」
「どちらでもない。単なる暇つぶしだ」
ヨーヨー釣りや人力もぐら叩きで盛り上がっている中、淡々と真実を告げても氏家のいぶかしむ表情は変わらなかった。
「暇なら代われよ」
氏家は作り笑顔を見せるも、その眼は死んでいる。
「劇はいつからだ」
「あと一時間もない」
時計は昼の一二時を示していた。あじさい祭は二日間で行われる。初日は二年の劇や部活動出し物が体育館で催されることから、午後一時以降展示の見張り役以外は全員体育館へと移動することが義務付けられていた。二日目も行われる予定はあるが、そちらの観覧はあくまで任意だ。
「了解。とりあえずここにいる」
「お、代わってくれるんだな」
「代わるか」
誰だって眼下に見える坊主頭のように人力モグラ叩きのもぐらにはなりたくない。
風邪を引きました…… 世間ではコロナだけでなく、ウイルス性の夏風邪も流行っているようなので皆さんもお気を付けて




