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40話:「河川敷にて」

「はぁ」


 大平下は日を追うごとに溜息が隠し切れなくなっていた。顔には疲れと睡眠不足の証拠である隅がくっきりと表れている。


 ――彼は全く原稿が書けていなかった。


 期限とされていた日付まであと僅か。現実的に締切厳守は不可能である。


 さりとて手を抜いていた訳でもない。やる気は確かにあった。その証拠に机上は創作論に関する本で埋め尽くされていた。


「意味分からん」


 大平下は息抜きに自宅の外へと飛び出すことにした。本当に煮詰まった時は新鮮な空気を吸って直射日光にでも当たるのが一番であるというのは先程まで読んでいた本から得た唯一の知識である。


 あてもなく歩き続けて辿り着いたのは等間隔に桜の木々が整備された河川敷。気づいたらこんなところまで来ていたようだ。


「おーい」


 一日の終わりを告げるように夕陽が水面に揺らいでいる。それに合わせて聞き覚えのある不快な声が耳に入ってきた。


「ここだよ。ここ」


 無視して帰宅しようとも思ったが、どうせ明日も会わなければならない相手なので大平下は観念してその姿を探した。面倒ごとは先に処理しておくに越したことはない。


「橋の下」


 階段状になっている土手の奥に彼女はいた。媚びるような声色は相変わらず、大した友好関係もない大平下は吐き捨てるように名前を確認する。


「何の用だ、思川」


「何の用って言い方はなくない?」


 このこの~っと、指で人の肩を突っついてくる仕草は理科室でのくだらない攻防を想起させる。


 思川ユキ。退学した小金井と仲が良かった彼女は例の件以降、二年二組の表舞台からは行方を眩ませていた。といっても別に高校をサボっていた訳ではない。彼女は自身の学生生活を謳歌すべく、交友範囲を他クラスの友人に絞っていただけであった。


「こちらからの要件は何もないからな」


「いいから少し話そうよ」


 コンクリートで舗装された階段部分に腰掛けた思川は大平下にも座るよう促す。如何にも人工的な涙目と合った大平下はどうしようもないなと溜息をつく。


「少しだけな」


 最近諦めの悪い人間と接しすぎた彼は、雰囲気だけでその事象を回避したら後々どうなるか。それがある程度判断できるようになっていた。今回はダメなケースである。間違いない。


「やったー、大平下君っていい人だね~」


 本心では絶対思っていないだろうことに、大平下はイラつきながらも平常心を保つ。ちなみに女子のいい人とは概ねどうでもいい人であるというのは某ラノベで学習済みだ。


「用件を早く言ってくれ」


「え~、もう?」


 今度はぷくーと両方の頬を膨らませる思川。本当に彼女には人をイライラさせる才能があるらしい。


「仕方ないなー」


 思川はわざとらしく首を傾げて語る。それはこっちの台詞だと大平下は思っていた。



いつも閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。

そして投稿遅くて申し訳ございません。

遅いくせに書きかけですが、完結まではダラダラ筆を止めはしませんので、今後ともお暇なときにでも覗いて下さると幸いです。



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