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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
1章:こういう出会いも悪くない?
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4話:「カラオケ」


 時刻はもう午前一一時を過ぎていた。蒲須坂はツタヤを出ると、慣れた足取りで階段を利用して駅ビルの外へと移動する。見える景色は敷き詰められたコンクリートに広々としたロータリーによく分からないトロフィーのようなモニュメント、そして白い壁を彷彿とさせる箱状の駅だった。ここはもう位置的には西口周辺に該当する。


「次カラオケ行くから」


 毎度のことながら、こちらの許諾などおかまいなしに物事が進んでいく。


 カラオケ屋は狭いビルの二階に店舗を構えていた。薄暗いコンクリートの急階段を上りきると、自動ドアが開いて入口までとは別世界が到来する。


 昼間にも関わらず人工灯で照らされたホールは際限ない音量で流行歌の宣伝を流していた。開店時間は意外と朝遅いのか、受付には多くの人が並んでいて、半袖の制服を身に付けた若い女性店員がその対応に追われている。客層は老若男女ファミリーと非常に幅広い。


 待ち時間だけでも五分以上の時間を取られ、ようやく自分たちの番になる。紙に必要事項を記載し学生証を提示すると、ガラスのコップが手渡された。


「先に部屋行くからドリンク入れておいて、何でもいいから」


 部屋番号は二八だと述べて蒲須坂は足早に歩いていく。取り残された俺はドリンクバーの方へと向かっていった。


 子供の頃ファミレスなどのドリンクバーでよくやった混ぜる行為において、コーヒーやお茶を除いて最もマズイ組み合わせはアップルジュースとホワイトソーダであると俺は考えている。ここまで散々自分勝手なことを繰り広げてきた蒲須坂にせめて一本喰らわせようと渡す方でそのレシピを実行する。注ぎ込まれる白と黄色の液体は、混ざり合っても色合いがあまり変化することはない。これで良いだろう。自分の方には適当にコーラを入れて、二八番の部屋へとラビリンスのような廊下を移動する。


 半透明で中が見えにくいガラス扉の奥では蒲須坂がしゃがんでモニター下にある機械の音量調整をしていた。デュアルモニターとL字のソファーがただでさえ狭い部屋の面積を圧迫する。俺は机に運んできた飲み物を置いてそのうちのコーラが自分のものであることを象徴するため口を付けた。善は急げという言葉はあるが、(いたずら)も急がなくてはならない。種明かしまでスムーズに行ってこそいたずらである。


「音量大きかったら勝手に直して」


 いつの間にか真横のソファーに座ってデンモクを難しい顔で眺めていた蒲須坂は数刻の後、マイクを握って起立した。画面には曲目が表示されている。


「交互で歌うからなんか入れておいて」


 そう言ってさっき広告で流れていた話題の曲を歌いだす。男女二人っきりのカラオケで何を選べば無難な回答になるのだろうか。俺にはそんな議題に対する持ち合わせがない。


 八九点と画面に点数が映し出される。おいおい、採点機能ありかよ。


「ま、最初は声出しだからこんなものか」


 そんな声になど反応せずに俺はマイクを持って立ち上がった。選んだ曲は『残〇な天使のテーゼ』平成三〇年間で最も歌われた楽曲だ。これはもはやレジェンドなのでアニソンに括っていいのか分からない。しかしアニソンが頂点な辺りカラオケにおける陰キャの人権は剥奪されていないようだ。そういえばひとりカラオケとかもあるしな。


 歌いやすい曲に感謝感謝。大きく音程を外すこともなく、どうにか八六点というザ・普通の点数で場を繋ぐ。合唱コンクールのような公開処刑ではない一対一ならどうにかなりそうだった。


 意外と上手いじゃんという顔をする蒲須坂。その笑みは強者の余裕故のものだろう。次に選んだ曲はなんと『b〇autiful wo〇ld』だった。合わせて来たのか。詳しいなとか思っていると高音が響き渡る。ちょっと待ってくれ。さすがにこの後歌いたくないわ。


 画面にデカデカと九二点とかいう次元の違う数字が表示される。俺は困惑しながら次の曲を選択した。






日に日に投稿頻度が落ちて誠に申し訳ございません。

言い訳はしません。何とか書き続けられるように善処します。

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