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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
4章:人間関係は複雑怪奇
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35話:「それでも日常は続いていく」

 パトカーと救急車が現れたのは殆ど同時タイミングであった。教師に両手を掴まれた国定は速やかに警察官へと引き渡される。彼は一切抵抗することなくそれに応じると、サイレンが鳴り響いて渦中から去っていった。救急車は猿を連れて最寄りの病院へと移動する。血だまりの周囲には規制線が施され、人々は日常へと回帰していった。しかしそんなに簡単なことではない。中間試験は当然のように中止され、生徒たちは各々の教室待機を言いつけられていた。


「えー、皆さん。少しばかり待機していてください」


 二年二組の担任である宇都宮も取り敢えずの対策として教室に集めさせられたクラスメイトに一言だけ告げると、そそくさと職員室へと帰っていった。おそらくこれから緊急会議でもあるのだろう。その顔つきはいつもみたいに穏やかではない。


「何ていうか…… 最も無茶苦茶だったのは国定君ね」


 本当とんでもないことをしてくれたわ。頭を抱えているのは吉水。彼女は比較的落ち着いていた。お通夜のように静まり返った二年二組。その多くはトラウマで泣き出す女子とただ無言で魂が抜けかけているような男子で埋め尽くされており、まともに話しができるだけでも奇跡に近い。正常を保っていたのは俺と吉水しかいなかった。


「ああ、ところでお前は平気なのか?」


「ええ、私は早めに登校していたから事件そのものを直接見ていないわ。それよりも、運悪く見届けてしまったさくらの方が心配」


 現在、彼女が危惧する蒲須坂はこの教室にいない。暴力に対して抱えていたトラウマが制御できなくなった彼女は周囲にいた生徒によって保健室へと運ばれており、静養中である。吉水は宇都宮からその情報を聞き出してから瞬時に保健室へと向かおうとしたが、教室外への移動は禁止されていた。


「蒲須坂は大丈夫なのか?」


「分からないことを質問されても答えられる自信なんてないわ。ただ精神面は無事ではないでしょうね」


 吉水はここではないどこか遠くを見つめながら淡々と話す。俺は二の句を継ぐことができず、会話はそこで自然消滅した。それにより言語として聞き取れる音がこの場からなくなった。俺は周囲から嗚咽しか聞こえない空間で勉強をする気になどなれなかったため、適当に本を取り出して読書に耽る。今日持っていたのは『愛と幻想のファシズム』であった。だが、こんな状況で没入して楽しむことなんてできる訳がない。作品が作品なので尚更そうであった。


「遅くなってしまいまして、誠に申し訳ございません」


 再び宇都宮がやってきたのはそれから少しして。ようやく周囲が落ち着いてきた頃に彼は戻ってきた。その手には、おそらく先程まで会議で使用していたと思われるメモ帳が携帯されている。


「皆さんに伝えることがいくつかあります」


 そこからの説明は非常に義務的なものだった。これだけで今回の騒動に対して学校側が取ったスタンスを理解できる。それはいささか納得のいくものではなかった。


「先生、SNS等に拡散しないようにということは理解できます。けれども両親にも伝えないなんていうのは、少し横暴ではありませんか」


 吉水がすぐさま反論を講じる。この役割をこなせる人物はもう彼女しかいなかった。


「ご家族の方々には、いずれ保護者説明会を行いますから……」


「それまで待てというんですか?」


「はい。それに今回の出来事に関しては、学校側が火消し以外に関わる気はありません」


 説明を終えると、宇都宮は一方的に話を打ち切った。そして自習を行うように促す。彼曰くこういう場合、普通は全校集会を行うケースが多いようだ。しかし、今回は精神的に不安定な生徒が多発したため中止になったとか。


「先生は再び会議になりますので、皆さんは静かにお願い致します」


 言いながら宇都宮は黒い袋を取り出す。どうやら行事の時みたくスマートフォンを没収する運びとなっているらしい。皆不安そうな表情でそれに従う。


「お願い致しますよ」


 彼はドア前で再び忠告すると、重苦しい足取りをして廊下へと飛び出していった。


皆様、毎度の如く閲覧・ブクマ・いいね等々ありがとうございます。

4章もいよいよ完結に向かっております。

こんな展開にしてどないすんねんという思いは作者にもありますが、完結までの道のりはちゃんと想定しております。問題は、筆力が追い付かないことだけです……

それでも、失踪だけはしないよう努力していきます。

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