33話:「国定の異変」
放課後の図書準備室。直射日光が創り出した快適空間で、俺は半分うたた寝をしながらテスト勉強に取り組んでいた。さっきまで行われていた数Ⅱの出来は良くなかったが、過去を振り返っている余裕などない。明日以降も次々と現れるボスラッシュ状態に備えるべく、残された教科の復習に勤しむ。
とはいえ、こんな短期間で点数になるものは英単語や漢字くらいだった。文法も覚えるだけで点は取れるものの、根本的な理解がないと選択肢暗記以外の手段は厳しい。
そんな訳で現在はダラダラと単語帳を眺めている。ここまでの二日間で既に英語分野とは二度相まみえているため、モチベーションとしては底でしかなかったが。
「何で英語が三種類もあるのかな……」
無意識に口から出る独り言。おそらく山前高校の生徒は誰もが一度はこの感想を抱いていることだろう。中間試験で長文と文法リスニング、英語表現の三科目が別々に出てくる高校なんて他に聞いたことない。
突然、部屋の外からドアノブを動かす音がした。ガチャガチャという不規則なリズムに驚いて目を覚ます。その反動で机に膝を強打した。
「痛っ」
一体誰の仕業なのか俺には検討つかない。だが、冷静になると扉が開くことはないことに気が付いた。なぜなら、図書準備室の鍵は教科書が散らばる面前の机上に置かれていたから。
「去ったか?」
数分後一度は収まったかと思ったが、廊下に響き渡る足音が離れては戻ってきて、なぜか鍵は開かれた。そして、一人の同級生が図書準備室にやってくる。いつかを思い出す光景。現れたのは国定だった。
「やはりここにいたか……」
彼はそう呟いて真っ直ぐにこちらへ向かってくる。今回は扉を早々閉ざして。
そんな様子をぼんやりと観察しながら、俺は咄嗟に浮かんだ疑問をぶつける。
「おいおいおい、何冷静になってるんだよ。どうやって鍵を開けたんだ?」
「マスターキー」
簡潔に答える国定の手には教員用のチートアイテムが握られていた。
「サッカー部の顧問に、自主練したいからと少しだけお借りした」
「ガバガバセキュリティー」
どんなに技術が発展しても、それを使用するのが人間である以上こうした穴は簡単に生まれる。ITに疎い責任者なら尚更のこと。
「ま、関係ないや」
俺は視線で用件があるならば、さっさと話すように促す。国定は的確に察して空いているパイプ椅子に座り、語る。
「話は小金井さんのことだ。率直に言う。俺は彼女を貶めた犯人を特定したい」
面前の長机に両手で体重を掛け、声を張り上げて訴える様子はさながら何処かの大統領。それでも言っていることはただの私怨に過ぎなかった。
「で? 特定して何がしたいんだ」
「……復讐」
漏れ出る本音がそれを証明する。俺は本気の眼をした国定に恐怖を覚えた。
「じゃ、何か情報を得たら伝えてくれ」
国定はそんなことを呟きながら立ち上がると、図書準備室の扉まで移動した。どこか危うさまで感じられる後ろ姿。ここで止めなくては大事に至る気がした。
しかし何かを決心したような彼の様子に対して、俺は行動することができなかった。覚悟なき部外者が安易な口出しをすることは憚れる。だからといって言われた通り手助けをする気にもなれない。
「……」
熟考の末、せめてもの誠意として俺は無言を貫いた。目すら合わせない。そうやってやり過ごすことがこの場において精一杯だった。
お久しぶりです。予定外の事態があり、遅れてしまいました。申し訳ございません。




